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内燃機関の全廃は欧州の責任逃れだ!

8/21(月) 7:57配信

ITmedia ビジネスオンライン

 欧州の主要国で、内燃機関の禁止に関する長期的展望が示されたことで、ちまたでは既に「ガソリンエンジンもディーゼルエンジンも無くなって電気自動車の時代が来る」という見方が盛んにされている。「エンジンにこだわっていると日本はガラパゴス化する」という意見も散見する。その受け取り方は素直すぎる。これは欧州の自動車メーカーが都合の悪いことから目を反らそうとしている、ある種のプロパガンダである。

【2015年、フォルクスワーゲンの排ガス不正問題が発覚】

 まず大前提の話から。欧州各国が内燃機関規制を言い出したのは、窒素酸化物(NOx)による大気汚染が限界に達しているからだ。ロンドンやパリの大気汚染はひどいありさまで、英国の報道では年に4万人の寿命が縮んでいるという。由々しき問題である。

 結論から先に言えば、そんなことになるのは、欧州製のディーゼルエンジンがインチキだからだ。もちろんすべての自動車メーカーが黒確定とは言わないが、逆に疑惑をかけれられていないメーカーはあまり無い。

 ディーゼルエンジンではNOxが出るのはなぜかと言えば、それは空気に対して燃料が薄く、燃焼温度が高いからだ。ディーゼルエンジンは、圧縮されて高温になった空気が押し込められた燃焼室に直接燃料を噴射し、燃料の自己着火によって燃やす仕組みだ。燃料が自己着火するほど空気は高温になっているのである。

 この場合、高温にさらされた燃料は酸素に触れた途端燃え始めるため、噴射ノズルの側では酸素に対して燃料が過多になる。その結果、部分的な酸素不足で燃料が不完全燃焼してくすぶり、煤(すす)を出すのだ。一般的に煤は後でフィルターで漉し取り、フィルターが詰まってきたら、燃料を濃く吹いてフィルターの煤を焼いて飛ばす。この機能が働かないモード、つまり短距離使用ばかりを繰り返していると煤詰まりの問題が発生する。

 一方、燃焼室内の噴射口から遠いところでは十分に燃料が届かないうちに噴射口周辺の燃焼を受けて燃焼室全体の温度が上がる。その熱エネルギ-によって空気中の窒素が酸素と化合してNOxになる。酸素の化合数は状況によってまちまちで、Nの数もOの数も違う順列組み合わせがあり、数が不定なので数字の代わりにxを使う。

 これを防止するためには段階を追った方法がある。第1に燃料の噴射圧力を上げて噴射速度を上げ、末端まで早く届くようにする。第2に噴射口を多孔にして、いろいろな方面に向けて飛ばす。第3に吸気ポートやピストントップの形状を工夫して縦渦(タンブル)を起こす。

 ここまでの3つは、燃料と空気をいかに均等に混ぜるかというトライだ。第4は少し考え方が違う。吸気に排気ガスを意図的に混入(EGR:排気再循環)させて燃焼温度を下げる。排気ガスはそのほとんどが二酸化炭素と窒素。つまり不活性ガスだ。不活性ガスを混ぜると燃焼温度は下がる。与えられる熱エネルギーが一定以下になれば窒素と酸素は化合しない。

 もう1つ、これは今のところマツダだけの技術だが、ディーゼルエンジンの圧縮比を下げることで燃焼温度を下げるという方法もある。この方法では排ガスの後処理の必要が無いほど燃焼そのものでNOxを制御できる。

 さて、図らずも「後処理」という単語が出てきたが、ディーゼルのNOxソリューションの最後に後処理がある。運行条件が悪いか、エンジンの設計が悪いと後処理に頼らざるを得ない。この場合、排気に尿素を添加した液体を噴霧してNOxを無害化する。ただしこの方法だと、尿素を定期的に補給しなくてはならないので、使い勝手も悪いし、運用コストもかさむ。別のアプローチとしてはNOx吸蔵触媒もある。これは排気中から掃除機のようにNOxをかき集めて、ため込む仕組みだ。ゴミで一杯になったら瞬間的に燃料を濃くしてかき集めたNOxを還元する。この技術はリーンバーンエンジンの開発の中でトヨタとキャタラー工業が開発したもので、日本の独壇場である。

 欧州のディーゼルエンジンは一般的にEGRの活用が不十分で、根本的な燃焼改善が足りていない。結果的に後処理の尿素頼りになるケースが多い。一連のディーゼル不正問題では、この尿素の消費量を抑えたいがために不正を行ったとする見方も多かった。しかもドイツメーカー全社が不正を行っているという報道すらあったのである。BMWだけはこれを正式に否定する声明を発表したが、他メーカーの中には「告発とは無関係」としつつリコールを実施するという不可思議な会社もある。

 何もドイツメーカーのみを糾弾することが目的ではない。同じ疑獄にフランスメーカーもイタリアメーカーも名を連ねており、地球環境に与える問題の大きさに対してあまりにも報道が静かで散発的であることは変わらない。

 疑獄に名を連ねた中で別格に責任が重いのは、やはりフォルクスワーゲンだろう。フォルクスワーゲンは2年前にエンジン制御プログラムに排ガス試験対策専用のモードを不正に設けて、一時的に出力を犠牲にして排ガス試験をパスし、実際に路上を走る時には排ガス規制値をオーバーするモードで、パワフルで燃費の良いエンジンだという評判を作り出した。そして世界トップレベルの1000万台のクルマを生産し、フランスやイタリアのメーカーとは比較にならないほど多くのクルマを世界中に輸出している。ドイツ政府との関係性の深さもダントツである。

 もちろん各社にも言い分はあるだろう。不正発覚後、さまざまな機関や企業が行った実走行での排ガス測定は、運転状況がテストのモードと異なるのだから、基準値とかい離して当然だという話は分からないではない。

 なればこそ、これらのディーゼル疑獄には、どのメーカーが不正を行い、どのメーカーは不正を行わなかったのか、行われた不正はどういうものだったのかを、責任ある機関の名で白日の下にさらすべきではなかったか? そうしてこそ自浄作用が期待できるが、ドイツ政府はこれらの問題をグレーのまま放置し、一向に解明が進まない。不正をただすことが国益に反することは自明だからである。

 こんな反社会的で無責任なことをしていれば、大気汚染が悪化するのは当然で、常識的に考えれば不正を行った側の責任である。もし英国で4万人もの寿命が縮んでいることと排気ガスの因果関係が科学的に明らかなのであれば、これら不正を行ったメーカーに損害賠償を行うべきである。それを生ぬるい責任追及でお茶を濁し、あたかも「内燃機関全体の問題」であるかのような顔をして、「われわれは電気自動車にシフトする環境意識の高いメーカーである」といった物言いをどの面でするのか理解に苦しむ。

 「日本のディーゼルだって汚染物質を出している」という声もあるだろう。ディーゼルエンジンがその仕組み上、燃料の偏りという問題をはらみ、ガソリンエンジンとの比較で排ガス性能が劣るのは事実である。だから日本製のエンジンだけが完全に無罪であるとは言わない。

 だが、リアルな環境汚染の結果はだいぶ違う。日本という国は、英国はともかく、ドイツやフランスよりもはるかに国土が狭く、人口が多く、GDP(国内総生産)が大きい。そして経済活動も人口も首都圏に集中している。欧州のどの国よりも公害が発生する条件がそろっている。

 にもかかわらず、都心の空気について公害が喫緊の課題になる気配は微塵も無い。「いや欧州の乗用車はディーゼルが多いから」という向きには商用車の数を考えてほしい。結論から言えば、欧州を走っているディーゼルエンジン車両のすべてが日本製であったなら、ロンドンもパリもあんな悲劇的な状況にはなっていないと筆者は強く思うのだ。

 自分たちで不正を行い、それをほとんど総括しないまま、「皆でやったことだから1人1人が反省しようよ」と言い出す欧州の論調をリスペクトしろと言われてもできない。責任転嫁も大概にしろと怒りがわく。だまされてはいけない。

(池田直渡)

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