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なぜアメリカのIT企業は“定時あがり”が当たり前なのか?

8/21(月) 9:08配信

ITmedia NEWS

 今春から日本で始まった「プレミアムフライデー」。毎月末の金曜日には午後3時に仕事を切り上げ、趣味や外食を楽しもう――という取り組みですが、「自分には関係ない」「お金を使う余裕もない」「金曜日に仕事を切り上げるために他の曜日で残業するだけだ」といったネガティブな意見が早期から見受けられました。

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 このような状況は世界共通のものなのでしょうか。答えは「ノー」です。例えば米国では、日本のように長時間労働が美徳とされておらず、むしろ長時間労働は上司の監督能力のなさの証左であると考えられています。そればかりか、仕事と私生活をしっかり切り分け、家族との触れ合いでしっかり英気を養い、仕事に生かすという好循環が、経済そのものに好影響を与えると広く考えられているのです。

 私は米カリフォルニア州のシリコンバレーエリアにオフィスを構えるEvernoteというスタートアップに従業員40人ほどのころから約5年在籍し、従業員数10倍以上・製品利用者数1億人以上に拡大するまでを体験。その後は、従業員数1万人超で多拠点展開している大企業、伊藤忠テクノソリューションズの米国子会社で、スタートアップとは異なる視点で働いています。

 この連載では、急成長スタートアップと大企業の両方に所属した経験をもとに、シリコンバレーにおける働き方の変遷、特に最新テクノロジーが個人の働き方をどう変えたか、そしてその働き方の変化に合わせていかに企業が進化しているかを、事例も交えながらご紹介します。

●著者プロフィール

近藤誠(こんどう・まこと)

スタンフォード大学工学部大学院 (技術経営)を卒業後、米Evernote社でパートナー製品マネージャーなどを歴任。その後、ITOCHU Techno-Solutions Americaに製品担当ディレクターとして着任。

●世界の中で残業が多い国は?

 国際労働機関(ILO)の報告によると「労働時間が週48時間を超過すると健康や成果に悪影響を及ぼすことがある」とされています。

 ILOと総務省のデータ(2013年)によれば、日本、米国、英国、フランス、ドイツ、韓国の中で、週49時間以上労働する人の割合は、日本は韓国(35.4%)に次いで2位の21.7%となっています。それに続く米国は16.4%、英国は12.3%、フランスは10.8%と、日本を含むアジア2国の長時間労働ぶりが目立っています。

 長時間労働が当然の企業文化ゆえに発生し、不名誉にも国際共通語となってしまった「Karoushi」(過労死)。日本でそこまで残業が当たり前になってしまっている理由はさまざまでしょう。例えば、残業手当という金銭的インセンティブがあるからこそ残業してしまう、「あいつ頑張ってるな」と思われたいがために長時間オフィスに居残ってしまう、年功序列・終身雇用が当然なので締め切り意識や効率性を気にせず残業してしまう――。

 いずれの場合にしても、これまでの日本企業の成長を支えてきた仕組みが構造悪となってしまい、真綿で首を絞められるように現代の日本企業は長時間労働の呪縛から逃げ出せずにいるように思えます。

 ただ、根本的な問題点として、長時間労働ゆえに成り立つ企業はビジネスモデルそのものが破綻しているとも言えます。そもそも労働時間は生産性と正比例しないため、企業は優先順位付けや締め切り意識に欠ける労働者の働き方に手を差し伸べ、組織全体として改善する仕組みを確立することが必要なのです。

●シリコンバレーのIT企業は「定時あがり」が当たり前?

 一方、私の経験から言っても、米国、特にシリコンバレーのIT企業では、少なくとも「残業が当たり前」という風土は強くありません。

 「ジョブディスクリプション」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。日本語ではしばしば「職務記述書」などと訳されますが、そもそも日本にはこれに相当する概念がないとの見方もあります。

 あらゆる英語圏の求人ページには、求人対象のポジション名とともに、職務内容についての詳細(ジョブディスクリプション)が記載されています。そこに記されている仕事内容は、全て法定労働時間内で行われるべきものです。米国の組織ではその見積もりを基に、人事管理やプロジェクト管理が行われているのです。

 「アメリカは就職、日本は就社」という言い回しは言い得て妙で、多くの日本企業では採用時点で被雇用者の能力、職務内容と責任、対価が言語化されておらず、「とりあえずやってみろ」の通達のもと、会社側から振られた仕事をこなす――というプロセスを繰り返します。その中で、被雇用者本人の裁量上限を超えた仕事が蓄積されることで、組織的に長時間労働を生み出す土壌が確立されてしまうとも考えられます。

 一方、米国においては、午後5時を境にした仕事時間とプライベート時間の区別、そして職務内容とその責任の対象範囲もやはり明確です。その根底にはジョブディスクリプションに基づく考え方があるとも言えるでしょう。

 そんなジョブディスクリプションの中で、シリコンバレーのIT企業で近年頻繁に見られるようになったフレーズがあります。「collaborate」「work together」「discuss」などがその一例です。個人に求められる仕事内容や職務責任を明示するのと合わせて、「他者との協働・コラボレーション」が求められつつある――その理由はなぜでしょうか。

●個人成果主義から協力型成果主義へ 変わりゆく「働き方のトレンド」

 米国企業がコラボレーションを重視するようになった理由、それを「業務効率アップのため」と思う人もいるでしょう。しかし答えはそこまで単純ではありません。

 世の中の情報流通量が人々の消費可能量を超えて爆発的に増えた今、企業における1人1人の守備範囲は相対的に狭くなったとも言えます。さらに、事業構造や経営管理、情報統制などが複雑になる中、さまざまなステークホルダーとつながり、周囲の人とお互いに手助けしながら仕事を進める必要が出てきました。

 それゆえに、ジョブディスクリプションに記される個人の職務内容も、他部門や他チームとの協働で、はじめて実現できるものに変わりつつあるのです。

 つまり、コラボレーションで業務効率を改善するというよりも、もはやコラボレーションを前提とした働き方を組織レベルで構築しないと、目まぐるしく状況が変化する経営環境の中では事業運営が成り立たない。そんな空気がシリコンバレーで生まれ始めているように感じます。

 米国企業といえば成果主義のイメージが連想されますが、今では個人としての成果よりも、チームとしてどんな結果を生み出し、会社にどのような貢献をしたかといった「協力型成果主義」にシフトしつつあるのです。

 次回は、Evernote社での私自身の具体的な経験やエピソードを振り返り、他企業の動向も踏まえながら「なぜ米国のIT企業は効率的に仕事ができるのか」をご紹介していきます。

最終更新:8/22(火) 16:31
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