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スポーツ中継の“黒船”DAZN、快進撃は続くのか

8/29(火) 18:47配信

ITmedia ビジネスオンライン

 8月27日、格闘技界で“夢の対決”が行われた。プロボクシングで49勝無敗・5階級制覇という偉業を成し遂げたのち、2015年に引退したフロイド・メイウェザーが1日限定で現役に復帰。世界最高峰の総合格闘技団体「UFC」の現役王者コナー・マクレガーとボクシングルールで対戦したのだ。

【ドイツでのJリーグ視聴者が“ポドルスキ効果”で増えている】

 試合では、序盤こそマクレガーが攻め込むシーンも見られたが、中盤以降は地力と経験で勝るメイウェザーがパンチを的確にヒットさせ、10ラウンドでTKO勝ちを収めた。

 両者のファイトマネーが総額数百億円に上るとされるビッグマッチを日本で独占生中継したのが、スポーツのライブストリーミングサービス「DAZN(ダ・ゾーン)」だ。

 DAZNは、英Perform Groupが手掛けるサービスで、2016年8月末に日本市場に参入。格闘技だけでなく、国内外のサッカー、野球、バレーボールなどを配信している。日本市場参入からわずか1年間だが、格安な価格で大規模なコンテンツを配信することが支持され、大きな知名度を得ている。

 DAZN日本法人が8月29日に開催した1周年記者説明会では、Perform GroupでDAZN事業のCEOを務めるジェームズ・ラシュトン氏が、同社のビジネス戦略について詳しい説明を行った。

●格安な価格で大規模なコンテンツを配信

 DAZNは現在、日本市場のほか、カナダ、ドイツ、スイス、オーストリアの5カ国で展開している。日本での月額料金は1750円(税別、以下同)と、他のスポーツ中継サービスよりも安価な点が特徴だ。各コンテンツはスマホやタブレットのほか、テレビやPC、ソニーの家庭用ゲーム機「Play Station 3」「Play Station 4」などでも視聴できる。

 ラシュトンCEOによると、DAZNの日本市場参入から1年間で100万人超の会員を獲得。約7500試合のコンテンツを放映し、累計約2000万時間のスポーツ中継がユーザーに視聴されたという。

サッカー配信が主力、ポドルスキ入団特番も

 主力コンテンツのサッカー配信では、日本の「Jリーグ」をはじめ、「セリエA」(イタリア)、「ブンデスリーガ」(ドイツ)、「リーガ・エスパニョーラ」(スペイン)、「リーグアン」(フランス)に対応。「プレミアリーグ」(イングランド)の中継を17~18年シーズンから開始することも決定しており、“5大リーグ”と称される欧州の人気リーグの全てを網羅する唯一のサービスとなっている。

 中でも、約2100億円を投じて17年から10年間の長期契約を結んでいるJリーグの配信には特に注力。スタジアムに16台のカメラを導入し、臨場感のある映像を届けているほか、サッカー元ドイツ代表のスター選手、ルーカス・ポドルスキが7月にヴィッセル神戸に入団した際は独自の特集番組を配信するなど、オリジナルコンテンツの作成にも力を入れている。

 ラシュトンCEOは「ポドルスキ選手がJリーグに参加したことにより、ドイツでのJリーグ中継のアクティブユーザー数が8倍になるなど、他国でのビジネスにも良い影響が出ている」と説明する。

●NTTドコモとパートナー契約を締結

 また、DAZNはNTTドコモとパートナー契約を締結しており、ドコモ端末のユーザーは月額980円でコンテンツが視聴できる施策「DAZN for docomo」も展開。ドコモの顧客基盤を生かした会員獲得にも積極的に取り組んでいる。

 ラシュトンCEOは「ドコモとの提携は売り上げに大きく貢献している。全国2400店舗に広がるドコモショップが、Jリーグのチームが拠点を置く地域にも存在していることが非常に大きい」と話す。

視聴形態はスマホが最多、テレビは伸び悩む

 ドコモとの提携の影響もあり、デバイス別の利用者はモバイル端末が34%でトップ。PCでの視聴者も33%を占める。

 ラシュトンCEOは「視聴形態は、18~24歳の“ミレニアル世代”はモバイルで視聴するケースが多い。PCでは、さまざまな年齢層の方が均等に視聴している」と説明する。

 しかし、サービス開始当初に「場所を問わずスポーツが観戦できる」とのプロモーションを展開した影響などもあり、テレビでの視聴者数は1%にとどまっている。

 テレビでの視聴者の底上げを目指し、同社は「ビッグスクリーンキャンペーン」と題した施策を開始。8月27日から、俳優の妻夫木聡さんや歌手の和田アキ子さんがテレビでサッカー観戦するテレビCMの放送を始めている。

 今後は、コンテンツをさらに拡充しつつ、ドコモやJリーグなどパートナー企業との連携を強化する方針。20年の東京オリンピック開催に向け、日本でスポーツファンを増やす取り組みにも注力していくという。

●責任者が語る、DAZNのこれから

 会見での主な質疑応答は以下の通り。

――1年間にわたって日本でのビジネスを展開してきたが、どのような手応えを得ているのか。

ラシュトンCEO: われわれのビジネスは好調に推移している。正確な数字は開示できないが、この1年間で会員数は100万件を突破した。

――これまでのビジネスで苦労した点は。

ラシュトンCEO: 参入当初、視聴者の間でDAZNは“スマホやタブレットで視聴するサービス”との印象が強かった。サッカーファンからは、競合の「『スカイパーフェクTV!(スカパー)』ではテレビで中継が見られるのに、なぜDAZNはテレビに未対応なのか」などの意見が相次いで寄せられていた。

 対応策として、ソニー、シャープ、パナソニック、韓国LG Electronicsのテレビなど、視聴できる受像機を続々と拡充。テレビでも見られるサービスであることを世間にアピールした。今後もテレビCMなどによってテレビでの視聴を訴求していく。

●“夢の対決”生放送は「成功」、値上げは「予定なし」

――メイウェザーとマクレガーの試合を放送したことで、どの程度会員が増えたのか。

ラシュトンCEO: 代理店との契約の関係上、具体的な数字は言えないが、企画は成功したと考えている。単発のイベントを放映するのは初の試みで、実験的な意味もあったが、うまくいった。今後も単発のイベントの放送を続けていきたい。

 試合では、総合格闘家の宇野薫選手と芸人の千原ジュニアさんに解説を依頼したほか、ボクサーの村田諒太選手にSNS上でのサポートをしてもらった。今後も、ビジネス上でカギとなるスポーツを放映する際は日本人の解説者を起用していきたい。

――メイウェザーとマクレガーの試合のほか、英サッカーリーグ「プレミアリーグ」の放映権も買い取った。莫大な投資を行っていると考えられるが、投資額の回収に向けて料金の値上げを行う予定はあるのか。

ラシュトンCEO: 値上げを行う予定はない。価格を変更するくらいなら投資を控える。ユーザーに手頃な価格で番組を提供することが当社のポリシーだ。

――日本は、欧米などと比較してスポーツファンが少ないのではないか。こうした状況下で、今後さらに会員数を伸ばすことができるのか。

DAZN日本法人 中村俊社長: 日本のスポーツ市場は決して小さくない。サッカーだけでも、日本代表チームのファンは3000万人、Jリーグのファンは1000万人存在する。プロ野球のファンも2000万人存在する。

ラシュトンCEO: DAZNが今後取り組むことは非常にシンプル。安い値段でストリーミングサービスを提供し、ファンのスポーツに対する情熱を盛り上げることだ。今後全てのファンを獲得するのは難しいかもしれないが、“伸びしろ”はあると考えている。スポーツファンとの草の根レベルの交流も行っていきたい。

●数週間以内に「大きな発表」

――日本放送協会(NHK)などのテレビ局が、スポーツのネット中継を開始する動きが出てきている。強力な競合が増えることが予想されるが、ビジネス戦略に影響はあるのか。

ラシュトンCEO: 当社は、さまざまな競技の独占放映権を有している。大手テレビ局が参入したとしても、われわれのコンテンツは権利面で守られているため、戦略に大きな影響はない。プレイヤーが増えることは業界としては素晴らしいことだ。

――今後、新たなスポーツやリーグの中継に対応し、コンテンツを拡充する予定はあるのか。

ラシュトンCEO: 検討を進めている事項があり、数週間以内に大きな発表をする予定だ。