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酒飲みの相棒「ハイサワー」 成功の舞台裏

9/14(木) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 いま、レモンサワーがブームだと言われている。グルメ情報やトレンド情報を扱うメディアなどで、レモンサワーに関する話題を見聞きすることが多くなった。

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 そんなレモンサワーをお店や家庭で簡単につくれるようにしたのが、東京・目黒に本社を構える飲料メーカー博水社、「ハイサワー」である。焼酎に注ぐだけで簡単にレモンサワーが完成する手軽さが受け、1980年の発売以来、絶大な支持を得てきた。

 ハイサワーは2016年11末時点で、販売累計数が16億5000万本(200ミリリットル瓶換算)を突破。飲食店向けが特に好調で、最近では人気居酒屋チェーン「宮崎県日南市 塚田農場」「鹿児島県霧島市 塚田農場」の約140店でも取り扱われるようになった。

 居酒屋の定番メニューとの相性は抜群であり、酒飲みにとっては手放せない相棒のような存在となっている。

●米国旅行でつかんだハイサワーのヒント

 もともと同社は、ラムネなどの清涼飲料を製造しており、近隣の駄菓子屋などに商品を卸していた。しかしラムネの場合、冬はほとんど売れない。通年で売れる商品をつくることが長年の経営課題だった。

 そうした中、先代社長の田中専一氏は米国へ家族旅行に行った際、旅行先のバーで、ジンなどの蒸留酒を多種多様な割り材で割って飲む光景を目の当たりにしたという。これにヒントを得た田中氏は、同じ蒸留酒である焼酎の割り材をひらめく。日本に帰国後、レシピを考案し、1980年に最初のハイサワーである「ハイサワー レモン」を完成させた。

 ちなみに、ハイサワーの誕生にはもう1つ、エピソードがある。

 当時、同社はレモンサワー発祥の店と言われている東京・祐天寺のもつ焼き店「ばん」に炭酸水を売っていた。

 1年を通じて大量に炭酸水が売れていたことから、使い道を知るべく店を訪ねところ、焼酎を炭酸水で割り、レモンの搾り汁と合わせてレモンサワーをつくっていたことを知る。これも、焼酎の割り材を開発するヒントになった。

 「ラムネだけつくっていたら、今ごろ当社はありませんでした。東京だけで200軒強あったラムネ工場も、現在は数軒しか残っていません。当社はできることを少しずつ広げることで、新しいものを次々と登場させてきました」

 田中氏の娘で現在、同社の代表取締役社長を務める田中秀子氏は、このように話す。

●飲食店向けから小売店向けにも拡大

 ハイサワーを開発できたのは良かったが、同社には、商品を広域に売る営業力はなかった。そこで、まずは近隣の居酒屋に使ってもらうことにした。ハイサワーの評判は上々で出荷量は増加。だが、それに伴い瓶の回収が追い付かなくなったという。

 そんな時、飲料の受託製造を行う企業が、冬場に生産するものを探すため同社に飛び込みで営業に来た。当時展開していた飲食店用の200ミリリットル以外のサイズを生産するには、サイズごとに億単位の投資が必要だったため、この飛び込み営業は渡りに船。生産を委託することにしたと同時に、サイズ展開の道を切り開けた。

 その後、83年に回収不要なワンウェイ瓶入りのハイサワー(360ミリリットル)、85年にペットボトル入りのハイサワー(1リットル)を発売。商品を小売店に並べていった。

 フレーバーも拡大していった。現在はレモンのほか、ライム、青りんご、うめ、グレープフルーツを用意。これらは全て、まず飲食店に販売し、評判が高く売れ行きもよかったことから一般向けにも販売された。

 飲食店での評判が高かったのは、完成度の高さもさることながら、素材を他の用途でも柔軟に使えたからでもある。田中氏によれば、飲食店を回ると想定していなかった使い方を教えてもらうことがあるという。同社のWebサイトではハイサワーを使ったアイデアレシピが多数紹介されているが、中には飲食店で教えてもらったものも多数ある。

●断念していた過去のアイデアも実現

 飲食店では新しいレシピのほか、新商品のアイデアも得られる。その典型例が、03年発売の「ダイエットハイサワー レモン」だ。誕生のきっかけは、スナックやキャバクラで見聞きしたこと。田中氏は次のように話す。

 「スナックのママやホステスたちは、夜遅くなると飲み疲れ、休むためにハイサワーをそのまま飲んでいたりします。それに、毎日酒を飲んでいれば太ります。ハイサワーでもカロリーが低く太らないものがあったら……という声が聞こえてきたので、太ることを気にすることなく安心して飲めるものを開発することしました」

 06年には「ハイサワー ハイッピー」を発売する。ハイサワー ハイッピーは、レモン果汁を使ったフルーツビアテイスト飲料。女性に人気のレモンビアテイストや、糖質やカロリーが気になる人にオススメのクリア&ビターテイストなどがある。

 開発は、ハイサワーをつくる前にチャレンジしていたというノンアルコールビールテイスト飲料のレシピを元にした。ホップの扱いに繊細さが要求されたことから、完成までに4年を費やすことになった。思いがけず苦労したが、完成を誰よりも喜んだのは、先代社長の田中氏。自身が実現できなかったノンアルコールビールテイスト飲料の開発を、娘である現社長が実現してくれたのだから、それは当然のことであろう。

 そして同社は13年、初のアルコール飲料「ハイサワー缶 レモン」を発売する。「缶チューハイは大手企業が独占する市場なので、開発するつもりはなかった」とはが言うが、方針を変更した理由を次のように話す。

 「焼酎をハイサワーで割って飲んでいる人たちは皆、『アウトドアや移動時に飲めない』と言います。移動している時に飲めるものが欲しいという声が多かったことから開発することにしました」

 中身はアルコール度数7%で、「焼酎1×ハイサワー3」の比率を用いた。しかし、味を決めるに当たっては議論になり、他社との差別化でアルコール度数を9%や12%にするというアイデアも出た。また、初めてのアルコール飲料だったことから、ラベルづくりに手間取り、完成に時間がかかったという。

●美尻グッズとハイサワー号で知名度アップに貢献

 ハイサワーは、飲食店向け、一般向けともに注目を集めている。レモンサワーブームが追い風になっているのもあるが、同時に最近の好調は、趣向を凝らした知名度アップ策が実を結んだ結果でもある。その代表例が、2010年から始めた“美尻グッズ”だ。

 美尻グッズは、テレビ朝日の番組『タモリ倶楽部』が09年に同社にロケで訪れたことがきっかけで始まったもの。放送されたエリアから問い合わせが殺到したことから、番組のオープニングでおなじみの尻にあやかって美尻ポスターをつくったのが始まりだ。その後、カレンダーを作成し飲食店に渡していたところ、「欲しい」という問い合わせが多くあったことから、10年に一般販売を開始。以来、グラスやメガネクリーナー、マグネット、タオルなどアイテムを追加してきた。

 もう1つの代表例が、ハイサワー号である。トラックをベースにつくった宣伝カーで、ハイサワーのペットボトルを模した巨大なオブジェを背負っている。

 ハイサワー号に限らず、同社は営業車も「割るならハイサワー」とラッピングするなど、クルマを広告媒体として活用している。「旅客機や電車をラッピングすることはお金がかかってできませんが、少ないながらもクルマを使うのは中小企業らしい宣伝のやり方だと思います」と田中秀子氏は話す。

 昔に比べ、お酒の飲み方は多様化してきている。常に飲食店や街の酒飲みから学んできた同社は、これからどのような新商品や飲み方を提案するのだろうか。お酒の飲み方は無限大である以上、柔軟に使える割り材はまだまだ大きな可能性を秘めている。



(大澤裕司)