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創業74年、たった2種類しかないパン屋はなぜ売れ続けるのか:周回遅れの経営が先頭に立った

2017/9/14(木) 12:12配信

BUSINESS INSIDER JAPAN

苦しかったバブル時代

苦しい時代もあった。1980年代後半のバブル期だ。“青天井”の好景気の時代に、バゲットもクロワッサンも置いていない店には、客もメディアも目を向けない。陸さんは「バブルのころは、ペリカンのような地味なパンは、全く売れなかったそうです」と言う。

ベーカリーの経営指導を専門とするドゥコンサルティングの保住光男さんは、陸さんの相談相手でもある。保住さんは「この数年、食パンだけを売る店も出てきたが、食パンとロールパンだけで長く続いてきた店は見たことがありません」と話す。保住さんによれば、ペリカンと同程度の売り上げ規模のパン屋は、70~100種類のパンを販売していることが多いという。

バブル崩壊後の1990年代半ばごろから、風向きは変わりはじめる。昔ながらの食パンに、少しずつ注目が集まった。テレビや雑誌などメディアの取材も受けるようになった。

「いい意味で退屈な店」

2016年5月、ペリカンを取り上げたテレビのニュースを今回の映画のプロデューサーを務めた石原弘之さんが見たことで、映画化が動き出す。「たった2種類のパンを極めようとしている店には、歴史と物語があると直感した」

内田俊太郎監督は「はやっているのに、焼きそばパンもクロワッサンも置いていない。なんで支店も出さず、ほかのパンを作っていないんだろう」と興味を抱いた。

店主の陸さん、プロデューサーの石原さん、内田監督は、いずれも30歳前後で、ほぼ同い年。3人で、長くペリカンの工場を守ってきた職人さんや、コンサルタントの保住さん、製パン学校の先生らにインタビューを重ねた。陸さんは「撮影に参加して、より深く自分の店を知ることができた」と話す。

工場を撮影した映像では、特別な出来事も事件も起きない。淡々とパン作りが進められていく。内田監督はペリカンについて、「2種類しか作らないことを選び、それを続けている。いい意味で退屈な店だと思う」と語る。

パンの製法も、経営スタイルも二代目のころからほとんど変わっていない。かつては卸売りが中心だったが、町の喫茶店が減っていく中、最近は店頭での小売りが中心になってきた。陸さんは30歳にして、ペリカンの看板と30人の従業員を背負う。

「売り方は時代に合わせて試行錯誤を続けていくけれど、下手に新しい商品を出して普通のパン屋さんになるつもりはありません。うちには、時間の積み重ねがある。ほかのことはまねできても、時間だけはまねできない」

保住さんは、ペリカンの経営スタイルを、競技場のトラックを走る長距離走に例える。

「実は周回遅れだけれど、結果として、時代の先頭に立ってしまった。抜けそうだけど、簡単には抜けない。それがペリカンという店です」

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映画「74歳のペリカンはパンを売る。」は、10月7日、東京・渋谷のユーロスペースで公開予定。

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最終更新:2017/9/14(木) 20:03
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