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1日1万丁売れる「濃い豆腐」 薄味の常識打ち破りヒット商品に 元キャリア官僚が開発 佐賀

9/16(土) 11:00配信

西日本新聞

 「ちょっと高価な豆腐ですが、食べてもらえれば納得の濃厚な味わいです」

 毎日の食卓に並ぶ豆腐は薄味だからこそ飽きがこないとされてきた。その常識を打ち破る濃厚な豆腐が1日に1万丁以上も売れるヒット商品になっている。

 2013年に「濃い豆腐」を本格発売したのは武雄市北方町の「佐嘉平川屋」。3代目で社長の平川大計さん(46)は「『たまには少しぜいたくな豆腐を』という消費者にインパクトを与えたかった」と話す。

 成分で比べても違いは明らか。一般的な絹ごし豆腐の豆乳濃度が12~13%なのに対し、濃い豆腐は17%。価格も1丁(250グラム)200~250円と少し高い。それでも、夏のピークには生産が追いつかないほど売れている。

「起業して力を試してみたい」

 平川さんは異色の経歴の持ち主だ。前職は運輸省(現国土交通省)のキャリア官僚。航空関係の部署を担当していたが、当時はインターネットバブル全盛期だった。「起業して力を試してみたい」。思いが募り、29歳の時に退職した。1年間は実家で事業のアイデアを練るつもりだった。

 ところが、実家は大口取引先のスーパーの倒産で経営が傾いていた。幼いころ、未明から工場に明かりがともり、豆乳の香りが立ちこめていたことを覚えていた。「会社がなくなってしまうのは寂しい」。思いもしなかった家業の手伝いを始めることになった。

 金策に走り回り、設備の老朽化対策などやらなければならないことが山積していた。経費を1円単位で切り詰める一方、積極策にも打って出た。父が調理水と一緒に売り出した湯豆腐セットの販路を拡大。何とか危機を乗り切った時には5年がたっていた。「もう逃げられない」。06年、35歳の時に社長を継いだ。

 起業を目指していたころの思いも沸き上がってきた。10年に嬉野市に豆腐料理店と直販店を兼ねたアンテナショップを開設。「今までにない豆腐を作ろう」。発想を転換し、濃い豆腐を開発した。

 ただ、既存の設備では高濃度の豆乳とにがりをうまく混ぜ合わせることができなかった。13年に社運をかけて工場を増設。1年間の試行錯誤で安定生産に導いた。スーパーの売り場に並ぶと次々と注文が舞い込むようになった。社員総出で出荷作業に追われた。

 濃い豆腐の成功を機にアンテナショップは開発拠点にもなった。田楽用、どんぶり用など豆腐商品は約30点に増えた。売上は経営危機だった帰郷時の6倍になった。

 「豆腐にはまだまだ可能性がある。こんなに面白い商品はない」。起業の夢はかなわなかったが、豆腐に魅せられた平川さんの目は輝きを増している。

「豆腐県佐賀」

 佐賀県は2016年産大豆の収穫量が九州1位、おいしい水にも恵まれ、豆腐作りにぴったりだ。各地にユニークな豆腐が伝わり、全国に知られる豆腐料理もある。現場を訪ね「豆腐県佐賀」にまつわる人模様を紹介する。

西日本新聞社

最終更新:9/16(土) 11:00
西日本新聞