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ゼニゴケのような“9試合限定”F東京・安間監督の繁殖力

9/17(日) 16:02配信

スポーツ報知

 “9試合の男”が初陣を白星で飾った。F東京の安間貴義新監督(48)は、就任初戦となった16日の仙台戦(味スタ)で1―0の勝利を収めた。

 得点こそ右CKから韓国代表DFチャン・ヒョンスが決めたものだが、試合を通じて、この1週間で取り組んだチーム全体でパスをつないで攻めるという意志が徹底されていた。「まだまだ改善するところはたくさんあるけど、選手たちがあきらめずにやってくれたのは良かったのかなと思います。残り8試合ですけど、無駄な時間にはならないと思います」と選手たちの本気度をたたえた。

 自称「ゼニゴケのような目立たない男」が、表舞台に引っ張り出されたのは9日のC大阪戦後。篠田善之前監督(46)の進退がかかっていた一戦だったが、ホームで1―4の大敗。公式戦5連敗となり、チームはどん底だった。試合後、大金直樹社長(50)らフロント陣に呼ばれた時点で「ピンと来た」という。社長が後任要請の話を切り出そうとすると、「それは順番が違います。ちゃんとシノ(篠田前監督)と話しをしてからにして下さい」と話を遮り、すぐに部屋を出た。何よりコーチとして監督を支えられなかった責任を痛感していただけに、解任を告げる前にもかかわらず、先に自身と話をしようとするフロントの姿勢は受け入れられなかった。もちろん、頭では断れる状況ではないのも分かっていた。だからこそ、せめて筋だけは通したかった。

 期間は今季の残り9試合限定。来季には新たに監督を招聘(しょうへい)することが決まっている。その上、チームは今季無冠が決定的で、選手はモチベーションをどこに持っていったらいいのか分からない。そんな火中の栗を拾うことになったわけだが、「何も気にしていないよ。暫定でも代行でも何でも。だって監督でもコーチでもやることは何も変わらないから。勝つために相手を分析して、練習するだけ。次につながるようにしっかりとこのチームを作っていきたい」。翌10日に正式に話を受けた時には気持ちを切り替えた。

 個人的には、この難解なミッションは「安間さん」にしかクリアできないものだと思っている。実は筆者が2009年に入社1年目で山梨に配属された時に、J2甲府を指揮していたのが安間監督だった。翌年にJ2富山のヘッドコーチに就任(シーズン途中から監督に昇格)した時も、私もたまたま富山に赴任。勝手ながら不思議な縁を感じている。

 それはさておき、そのどちらのチームでも誰からも「監督」とは呼ばれていなかった。若手だろうが、ベテランだろうが、決まって「安間さん」と呼ぶ。それは選手が助けを必要としている時に、いつもそばにいて的確なアドバイスをくれるカウンセラー的な存在だからだ。全体練習後に選手たちと一緒に汗をかきながらボール回しをして、選手の技術を磨く「安間塾」に代表されるように、どのクラブでも選手からの信頼は厚い。それは現場に限った話ではなく、ビジネススタッフですらアドバイスを求め、定期的に「安間会」が開かれるほど。現場だけでなく、クラブがバラバラになっている今こそ、類いまれなカウンセリング力を持つ「安間さん」はうってつけの人材だ。

 とは言え、J1で監督を務めるのは初。これまでとはプレッシャーは格段に違うはずだが、16日の仙台戦ではいつも通りジャージー姿で指揮を執った。「やっぱりスーツより、ジャージーのほうが俺らしいでしょ」。立場的には首都クラブの監督になったが、甲府や富山時代と同じくジャージーで試合に臨む姿を見て安心した。出会った頃は黒かった髪の毛は真っ白になったが、格好や権力にとらわれない、“サッカー小僧”ぶりは何ひとつ変わっていない。

 もちろん、まだ1勝しただけで、称賛するのは早いのは百も承知。失礼な言い方にはなるが、甲府でも、富山でも監督として成功を収めたわけではない。だが選手の潜在能力を引き出し、チームの雰囲気を明るくする優秀な指導者であることは間違いない。

 ゼニゴケは一般的には駆除しづらく、忌み嫌われる存在だが、地面にしっかりと張り付き、繁殖力が高いのだという。「もう監督を引き受けた以上はとことんやるよ」。安間監督が率いる9試合は、来シーズン、そしてF東京の未来へ、しっかりと根付いていくはずだ。(F東京担当・井上信太郎)

最終更新:9/17(日) 16:35
スポーツ報知