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札幌の森、布と深呼吸する空間。COQ 梶原加奈子さん

9/17(日) 19:03配信

朝日新聞デジタル

【連載】川島蓉子のひとむすび

 日々の暮らしはたくさんの布に囲まれています。服はもちろん、カーテン、ラグ、クッション、タオル、ベッドリネンなどなど――それらには、さまざまな糸や織り、あるいはプリント柄が施されているのです。

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 ただ、こういった布のデザインは専門職であり、業界でテキスタイルデザイナーと呼ばれていることは、あまり知られていません。世界で活躍している日本人テキスタイルデザイナーがいるのに、この事実はもったいないと感じていました。

 今回は、優れたテキスタイルデザイナーの一人、梶原加奈子さんの活動をご紹介したいと思います。梶原さんとは、かれこれ7~8年前、あるグラフィックデザイナーを介してお会いしました。

■ギャラリー&ショップと、
ダイニング、ゲストハウス

 「すごい才能があるデザイナーだから」と紹介されたのですが、初対面ですっかり話し込み、単に絵柄を創るのではなく、作り手と深くかかわって日本発の良いモノ作りに与(くみ)していきたい、と話す姿に、穏やかながら太い基軸を持っていると感じました。以来、折に触れてお話を聞いたり、仕事をご一緒したりしてきたのです。

 その梶原さんが、7月7日、札幌に「COQ[こきゅう]」という場を作りました。ギャラリー&ショップ、ダイニング、ゲストハウスを備えた複合的な空間で、自然に囲まれた一軒家と聞いて、むくむく好奇心が湧いてきました。そして取材に行ったのです。

 札幌駅からクルマで40分ほど。「芸術の森」という緑豊かなエリアのすぐ近くに「COQ」はあります。「より多くの人と、クリエーションを味わう時間をわかち合えたら、どんなに良いだろう」と意図して「COQ」は生まれました。控えめな看板が掲げられた瀟洒(しょうしゃ)なたたずまいが、梶原さんのキャラクターを表していると感じました。

 扉を開けると、ギャラリー&ショップ空間――カラフルな布の世界が開けます。梶原さんが、数多くのメーカーと作った布や布製品が一堂に会しているのです。ストールやソックス、バッグ、財布といった身に着けるものはもとより、タオルやキッチンリネン類、テキスタイルそのものも切り売りしています。梶原さんの仕事をある程度、知っているつもりでしたが、こうやって全貌(ぜんぼう)を目の当たりにすると、改めて世界観の豊かさに心が動きました。見て触れながら五感が動いていく――きぬ擦れや、布の手触りや匂いまでもが伝わってきて、時が経つのを忘れてワクワク巡っているのに気づきます。

■「イッセイミヤケ」から独立後、
イギリスの大学院へ

 札幌市出身の梶原さんは、東京の多摩美術大学でテキスタイルデザインを学んで「イッセイミヤケ」に入社、さまざまな布のデザインに携わった後、独立してフリーに。主にプリントデザインの仕事を手がけていました。

 しかし、もっと勉強したいという意を強くし、2003年、英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アートの大学院に留学。卒業後に海外でアパレルやインテリアメーカーのテキスタイルデザインに関わってきました。

 帰国後は自身のデザイン事務所を設立し、札幌と東京を行ったり来たりしながら、仕事を続けてきました。海外を知れば知るほど、日本のモノ作りの良さに気づき、全国にわたる産地にいる職人と手の込んだ布を創り上げたり、最先端の技術を持っているメーカーと新しい布を生み出したりして、国内外で発信してきたのです。

 たとえば京都の友禅職人さんと組み、豚革に染色を施して財布やポーチに仕立て上げたシリーズなど、ユニークなものがたくさん――その力を認められ、ヨーロッパの著名デザイナーズブランドから、オリジナルの布をデザインして欲しいという依頼もあり、世界に向けての活動も広がっています。

 「地方の職人さんやメーカーの人たちの技術や思いが、使い手である消費者に“伝わる”ことが大事と考えて仕事してきたのですが、もっと発信していかなければと、常々感じてきました」と梶原さん。その意思を「カタチ化」しよう、と生まれたのが、「COQ」なのです。

■札幌の一つ星レストラン「アキナガオ」とコラボ

 ギャラリーの奥にはダイニングが広がっているのですが、大きな窓から森と川がのぞめるのです。テラス席もしつらえてあって、屋外に出ると川の音が聞こえてきます。その川べりまでが「COQ」の土地だとか。約360坪という敷地は、梶原さんとパートナーである英俊さんが8年にわたって探し続け、「ここしかない」と決めたところ。「緑と小川のある風景」は、梶原さんのデザインの原点でもあり、その環境まるごと「梶原加奈子の世界」を提案したいと考えたのです。

 ダイニングは、札幌にある一つ星レストラン「アキナガオ」と「COQ」がコラボレーションしたもの。長年の知り合いでシェフを務める長尾彰浩さんと梶原さんが一緒になって、インテリアから器、メニューまで手がけました。昼はふんだんな光が降り注ぎ、夜は森のしんとしたたたずまいが、丁寧な料理とサービスを彩ってくれます。

 「私のデザインは、自然と対話しながら、あいまいで繊細な、けれども、魂が揺さぶられるほどひかれる感覚から湧いてくるもの。札幌と東京を行ったり来たりする生活を続けてきた理由もそこにあります」と梶原さん。

 「COQ」を訪れ、自然に囲まれた場に身を置くと、デザイナーではない私も、呼吸が深くなり、いつもは閉じている感覚が働いていくのを感じます。そして、布に触れたりおいしいものをいただくことで、心身に新鮮な空気が入って、生き生きと動き出す感覚があるのです。梶原さんが意図したように「COQ=呼吸」が、自分の呼吸に、布との呼吸に、そして梶原さんとの呼吸に、つながり広がっていくように感じました。

(文 川島蓉子、写真 小林亜佑 / 朝日新聞デジタル「&w」)

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