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終業後に見知らぬ人物 企業秘密スパイの現場

9/25(月) 9:57配信

ウォール・ストリート・ジャーナル

 サミュエル・ストラフェイス氏はある夜、自身が率いるボストン郊外の医療関連技術新興企業メドロボティクスのオフィスを最後に出たのは自分だと思っていた。

 だが、2階のガラス張りの会議室を通った時、2台の開いた状態のノートパソコンと1台のタブレット型端末の前に見知らぬ人物が座っていた。同氏は出口に向かってそのまま2~3歩歩いたが、不安を感じて引き返した。

 この人物はその後、中国とカナダの二重国籍を持つドン・リュー氏(44)であると判明した。メドロボティクスで終業後にパソコンを操作したことは、米検察当局が立件した経済スパイ事件の中核を成す。

 検察当局によるとこの人物は、企業秘密を盗もうとした罪と同社のコンピューターシステムに無断でアクセスしようとした罪で起訴され、連邦当局の施設に収容されている。両方の罪状で有罪となれば、最長15年の禁錮刑に処せられる可能性がある。

 リュー氏の弁護士、ロバート・ゴールドスタイン氏は「リュー氏は断固として無罪を主張している。慎重な証拠調べをすれば同氏の潔白が証明されると確信している」と述べた。

 マサチューセッツ州の連邦地検はこの事案について、裁判所書類に記載されている詳細以外のコメントを控えた。

 警察によると、リュー氏は逮捕前、メドロボティクスとの商談のために同社にいたと述べたが、ストラフェイス氏は、リュー氏と会う予定があった従業員は誰もいなかったと述べた。

 米企業または米国で事業をしている企業から企業秘密を盗んだ、または盗もうとしたとされる事件が急増しており、リュー氏の事案もその一部だ。多くの場合、中国との関連がある。

 米中経済安全保障調査委員会(USCC)の昨年の報告書によると、産業スパイと輸出関連法違反に関わる連邦捜査局(FBI)による捜査と逮捕の大部分は中国政府と関連しており、2015年の件数は過去最多に達した。

 米司法省は5月、軍用・民生用の海洋関連製品を製造する中国企業のために共謀してエンジニアリング会社から企業秘密を盗んだとして、中国人2人、米国人4人、カナダ人1人を起訴した。これら7人はいずれも無罪を主張した。

 別の事案では連邦検察当局が昨年、英製薬大手グラクソ・スミスクラインから企業秘密を盗み同業の中国企業に渡すために中国人2人と米国人3人が共謀したとして起訴した。これら5人のうち4人が無罪を主張したが、もう1人は逮捕されておらず、逃亡しているとみられている。

 8月にはドナルド・トランプ米大統領の要請で米当局が、米国の技術を守るために中国の活動の調査を始めた。

 米国知的財産権窃盗に関する委員会(IP委員会)の今年の報告書によると、外国による米企業秘密の窃盗は米経済にとって少なくとも年1800億ドル(約20兆2400億円)の損失となっている。同委員会は超党派のグループで、ジョン・ハンツマン元駐中国大使が共同委員長を務めている。

 中国当局からはコメントを得られていない。中国政府関係者はかつて、政府が企業秘密の窃盗に加わっていた、あるいは窃盗を促していたという疑いについては否定していた。

 メドロボティクスは、患者の身体的負担が少ない低侵襲手術の際に、体の中で届きにくいところに到達するためのヘビのような形をしたロボットを製造している。ストラフェイス氏によると、価格は1基100万ドル。年間売上高は明らかにしなかったが、この製品や開発中の新たなモデルの設計情報にアクセスすることは第三者にとって有益だろうと述べた。

 同氏はこの事件に初めて触れたインタビューで「誰かが厚かましくも社内に入り込み、私が誠心誠意取り組んできたものを盗もうとしたとされていることには憤りを感じた」と語った。

 ストラフェイス氏によると、リュー氏に遭遇した8月後半のある夜、最高経営責任者(CEO)だと自己紹介した上で、あなたは誰なのか、ここで何をしているのかと尋ねた。

 リュー氏は当初もごもごとつぶやいていたが、その後、同社の知的財産権部門の責任者と欧州部門の販売責任者を尋ねてきたと話した。

 ストラフェイス氏によると、「リュー氏はCEOと商談しに来たと言ったとき、目の前にCEOがいるとは認識していなかったようだ」という。

 ストラフェイス氏は会議室の外に出て警察を呼び、リュー氏は不法侵入の疑いで逮捕された。連邦捜査局(FBI)にも連絡した。

 裁判所書類によるとリュー氏は、自身は中国の法律・特許事務所ボス・アンド・ヤング(北京邦信陽専利商標代理)の弁理士だと捜査官に述べた。同社に電子メールを送ったが返信はなかった。また同社の受付係は、そのような名前の従業員はいないと述べた。

 メドロボティクスの入口は、2つ目のドアが施錠してあり、中に入るにはブザーを押すかアクセスカードが必要だという。リュー氏は後に、8月28日午後5時ごろに誰かが2つ目のドアを開けてくれたと警察に語っている。

 ストラフェイス氏によると、リュー氏はアクセスカードが必要なエリアには入っていないようだという。ストラフェイス氏がリュー氏に気付いたのは午後7時半ごろ。それまで同氏がどこにいたのかは不明だ。

 FBIは、リュー氏が持ち込んだ「異常なほど多くのコンピューター機器」を没収した。宣誓供述書によると、ノートパソコンとタブレットのほか、スマートフォン2台、スマートウオッチ、サムドライブ(USBメモリー)、デジタルビデオカメラ2台、SIMカード数枚、大容量の記憶装置が含まれていた。

 FBIが提出した宣誓供述書は、秘密情報を手に入れようとするならパソコンを使ってWi-Fiなどの通信網への接続を試みることができたはずだと記している。

 8月30日の宣誓供述書では、「リュー氏が企業秘密またはその他の企業情報を少しでも入手することに成功したのかについてはまだ何とも言えない」とされている。

By Peter Loftus

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