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「ナイトライダー」の「K.I.T.T.」を、2017年のテクノロジーで解説しよう

10/6(金) 7:00配信

@IT

 「ナイトライダー(英語タイトル KNIGHT RIDER)」は、1982年から制作、放映されていたアメリカのテレビドラマだ。「若いときに見ていた」という読者も多いだろう。

ナイト財団のチーフメカニック ボニー・バーストゥと主人公のマイケル・ナイト(KNIGHTRIDERコンプリートブルーレイBOXトレーラー」から引用)

 日本では1987年からテレビ放映が始まる。「このドラマの影響でトランザムを買った」という人もいるかもしれない。私のごく近くにいる研究者は、ナイトライダーに魅了されて音声対話システムの研究に身を投じたらしい。

 チカチカ動く連結された赤いLEDのライトを自家用車に付けていた人も少なくないはず。今どきなら青いLEDになりそうだが、当時青いLEDは実用化されていなかった(※)。少し若い世代なら、LEDのチカチカが付いた子ども向け自転車を持っていた人がいるかもしれない。

 ナイトライダーには、シーズン1~4、新ナイトライダー2000、ナイトライダー2010などたくさんのエピソードがあるが、今回はシーズン1のみを対象に、現代のAI技術での実現性などを考えていく。AIがテーマなので、車の装備や性能について脱線しないよう努力する(汗)。

●ドリームカー「KNIGHT 2000」と「K.I.T.T.」

 ドラマの主なストーリーは、主人公マイケル・ナイトが特殊なスポーツカー「KNIGHT 2000」を乗りこなし、一種の探偵として悪人と戦うというものだ。

 KNIGHT 2000には人工知能「K.I.T.T.(通称キット)」が搭載されている。Knight Industries Two Thousandの略なので、こちらもナイト2000だが、車体をKNIGHT 2000、知能部分をK.I.T.T.と呼ぶように作られていると考えられる。ちなみに、ドラマ中ではK.I.T.T.を、人工知能ではなく「マイクロプロセッサ」「電子頭脳」と呼んでいる。

 K.I.T.T.はマイクとスピーカーを使って搭乗者と会話する。マイケルが「おいキット、あれに追い付けるか?」といったふうに車に話し掛けるシーンがたくさん登場する。ちなみにマイケル・ナイトの日本語吹き替えはささきいさお氏、K.I.T.T.は野島昭生氏だ。

 KINGHT 2000は操縦桿(そうじゅうかん)のようなハンドルを使って人間が運転することもできるが、「自動運転モード(AUTO CRUISE)」を使えば、K.I.T.T.が運転してくれる。幾つか武器のようなものも搭載しており、それらも運用できる。どうやらネットワーク機能もあるらしい。

 今回は、K.I.T.T.のこれらの機能の実現性について議論を展開していく。

●研究開発、運用体制

 KNIGHT 2000のエピソードの中でとても現実的だと感じられるのが「ナイト財団」の存在である。

 どんなに素晴らしいハイテクでも、製造品には開発と運用が必要で、それには人手、金、物資が必要である。メンテナンスフリーで使えるハイテク機器なんてそんなにあるもんじゃない。その点がきちんと設定されている点がすばらしい。

 KNIGHT 2000とK.I.T.T.は、デボン氏が率いるナイト財団の資金で研究、開発、運用が行われていると、エピソード0「電子頭脳スーパーカー誕生」で解説されている。

 「殺しのバリケード大突破!」の中で、議員の秘書を乗せたとき「ジェーン、私の得た情報ではあなたはスタンフォード大出身ですね、私の一部はそこで開発されました」という会話がある。ナイト財団はスタンフォード大学に共同研究として研究資金を援助していた可能性もある。

 運用上のチーフメカニックは、美女ボニー・バーストゥ。他にも具体的な名前は出て来ないにしてもメンテナンススタッフがたくさん出てくる。

 ナイト財団はエレクトロニクスで財を築いており、人工知能や自動運転の開発ができたことにも説明がつく。部品供給体制や整備・改善環境が整っていることも納得がいく。

 車両はポンティアック・ファイヤーバード・トランザム。ということは、ナイト財団はGMと提携し、この車両を開発したのかもしれない。

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POINT!
KNIGHT 2000の研究、開発、運用の財源はナイト財団、AI技術研究はナイト財団のエレクトロニクス部門、一部はスタンフォード大学が背景にあり、自動車メーカーと提携していたと推測できる
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●車内での搭乗者との会話

 K.I.T.T.は搭乗者や外部の人間と対話する。いわゆる「音声対話技術」だ。技術的に見ていこう。

○音声認識の性能

 KNIGHT 2000のインパネ中央にK.I.T.T.の対話システムが搭載されている。マイケルが話し掛け、K.I.T.T.が喋ると、中央のインジケーターがピカピカ点滅する。単純にインパネをカメラで写して声優の声が流れているだけでは「車が話している」雰囲気が出ないため、インジケーターを付けた、というのが背景にあるだろう。

 この辺りは現代の対話型インタフェースと逆だ。

 多くの対話型システムは、マイクに音が拾われていることを示すためにマイクアイコンを点滅させたり、音声波形を表示したりする。ヒューマノイドロボットでも、耳の辺りがLEDで光るというスタイルが一般的。スマホやロボットそのものが喋るときに何かを点滅させることは必須ではない。一部のロボットは目が点滅したりするが。

 現代の音声認識は性能がまだまだであり、マイクに口を近づけないと正しく認識できないのが一般的である。また、きちんと声が届いているか、きちんと認識されたか、に対して相当疑問があるため、「どう認識されたか」を目で確認する必要があり、画面に表示していたりするのだ。

 それに比べて、K.I.T.T.の音声認識に使われているマイクや認識機能の性能には驚く。

 マイクに口を近づけない形態を「far microphone(ファーマイク)」とか「distance dialogue(ディスタンス会話)」などと言う。まだまだ課題の多い分野で実現は難しいが、K.I.T.T.は当たり前のようにやっている。

 走行中でも普通に喋るだけで対話が可能で、聞き漏らしはほとんどない。この「普通に喋る」というのも重要な点だ。現代の音声認識では「音声認識が認識しやすいように喋る」必要があり、人間側がかなりトレーニングしないといけない。

 つまり、K.I.T.T.の音声認識装置は素晴らしい性能を持っており、現代では実現が難しい。

 また「重戦車砲撃網大突破」で、マイケルの発言に対して「声のトーンが危険なトーンに変わってきました」とクギを刺すシーンがある。「声色(こわいろ)」から「感情」を読み取っているのである。

 現代の音声認識は、音から人の声を検出し「テキストデータ」に変換する。つまり「文字」になる。その後さまざまな処理をするので、声色はテキストデータからは読み取れない。声に含まれる感情などを読み取ろうという試みは行われているが、「危険なトーン」というものを正しく読み取るには、まだまだ道のりは長い。

○インタフェース

 対話に使うインタフェースを見てみよう。搭乗者との対話にはマイクロフォンだけでなく別のセンサーも使われていると思われる。

 マイケルが運転中に居眠りを始め、パトカーに追いかけられるシーンがある。そのときK.I.T.T.が「窓にもたれ掛かっていたので」という発言をする。これはK.I.T.T.が、マイケルが車の窓にもたれ掛かっていたのを「見ていた」からであり、そのためにはマイクロフォン以外に別のセンサーが必要だ。

 Twitterなどのチャットシステムに自動応答するプログラムを「チャットボット」と呼ぶ。

 チャットボットは「テキスト対話システム」だ。テキストを音声認識(Automatic Speech Recognition: ASR)から読み込み、音声合成(Text To Speech: TTS)で出力するようにすると「音声対話システム」となる。

 キーボードやマイクといった1つの入力装置、テキスト表示やスピーカー出力など1つの出力装置で対話を行うシステムを「シングルモーダル対話システム」といい、マイクロフォン以外に別のセンサーを併用するようなものを「マルチモーダル対話システム」という。K.I.T.T.はどうやら、マルチモーダル対話システムである。

 現代の「運転アシスト技術」の1つとして「居眠り検出」の研究が盛んである。

 「デプスセンサー(いわゆるレーダー)」で「ジェスチャー認識」すれば、「傾いている」「動かない」などの特徴から、眠っていることを検出できるかもしれない。その他、「目線の動き」や「まばたき回数」などから眠気や居眠りを検出しようという研究もされている。

 しかしK.I.T.T.のセンサーは、これだけではなさそうだ。別のシーンでは「(マイケルの)出血がひどいので、運転を交代してください」とK.I.T.T.が言っている。出血していることを認識するために、カメラ映像などを使っている可能性が高い。

 しかし「出血がひどい」という「状況」を現代の画像認識の技術で判断するのは、とても難しい。

 人の状態を検出するためにカメラやデプスセンサーを併用して1つの結果を導き出そうという取り組みは「センサーフュージョン」と呼ばれている。この技術は、自動運転における周囲の状況認識のためにカメラやレーザーレンジファインダーなどを組み合わせるときにも使われる。

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POINT!
K.I.T.T.の車内対話システムは、複数のセンサーを組み合わせたセンサーフュージョン技術と、音声と身体状態検出を組み合わせたマルチモーダル会話システムでできている
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●K.I.T.T.の喋り

 K.I.T.T.は男性の声で喋る。もちろん、ドラマ制作では声優が喋っている。

 対話システムに関わる身としては、少し安心する仕様である。なぜかというとK.I.T.T.はいつも淡々と喋り、叫んだり、怒鳴ったり、歌ったりしない。この「淡々と喋る」のであれば、現代の「音声合成(TTS)」でもある程度は可能だ。

○複数人との対話

 マイケルは別の人をKNIGHT 2000に乗せることがある。毎回、入れ替わりで美女をナンパして乗せてあげるのが定番だ。「荒野の大戦争! 地獄の暴走族スコーピオンズ対ナイト2000」では、売店の売り子の弟デイビーも乗せた。

 K.I.T.T.はマイケル・ナイト、デボン氏、デイビーやナンパした女性など、それぞれ個人を特定している。これは非常にすばらしい認識能力だ。

 現代の対話システムの多くは、人を特定しない。入ってきた言葉を「音声認識(ASR)」でテキストにした後、そのまま処理するからだ。ただし、2017年になって発表された数種類のスマートスピーカーは、音声により人を識別するようになった。顔画像を使った個人の識別システムは、さまざまなアプリケーションで実用化が進んでおり、対話システムに組み合わせて似たことが徐々にできるようになってきている。

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POINT!
K.I.T.T.の対話技術は、搭乗者個々人を認識でき、叫んだり歌ったりせず淡々と喋る
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●運転能力

 K.I.T.T.はKNIGHT 2000を運転する能力(機能)がある。

 ご存じのように自動運転はカーメーカー各社がしのぎを削る時代に入った。完全自動化された自動運転車を「レベル4」と呼ぶが、そのレベルに達している車はまだ発売されていない。現在は限定された環境(高速道路の一部の区間や特別なセンサーが整備された駐車場内など)で一時的に手を離しても良いレベルで、人間は常に運転を代われる状態で注意していなければならない、という「レベル2」が実現され始めているにすぎない。

 K.I.T.T.は普通に道を安全に走るだけではない。高速走行では人が運転するよりも上手に、あるいは普通の車ではできないような運転もこなす。「炸裂サミーの壮絶スタントショー」では片輪走行を披露した。「渓谷の水を守り抜け」の中では闘牛士のような動きで雄牛をなだめる。

 KNIGHT 2000には「アンカーワイヤー」や「ロケット弾」「火炎放射」などの機能(武器?)が装備されている。アンカーワイヤーを駆使して急旋回するなど、うまい使い方をして機能を活用している。

 さらに、軍隊のロケット砲からの攻撃を避けながら走り回ったり、崖から飛び降りたりする。フィクションだから仕方がないが、当然そんなことが一般の自動車にできるわけはない。

 こういった動作をさせるには、一定の条件でプログラムしておく(アンカーワイヤーを使った急旋回、ロケット弾からの逃避走行)が必要かもしれないし、もしかしたらもっと高度にロケットや車体の運動を勝手に推測して行動しているのかもしれない。

 現代の自動運転技術やロボット制御技術の多くは、基本的にはあらかじめ想定してあることが重要な開発要件だ。状況を自然と読み取り、想像を働かせて運転するという芸当は、当分できないだろう。

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POINT!
K.I.T.T.の自動運転能力は「レベル4」をはるかにしのぎ、人間ではマネできないような運転技術を実現している
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●ネットワーク能力

 K.I.T.T.には幾つかの通信機能がある。

 例えば、デボンとボニーが大型のキャリアで支援に来るシーンでは「K.I.T.T.に呼ばれて飛んできた」と言っている。K.I.T.T.はマイケルと「コムリンク」と呼ばれる腕時計型の通信装置で会話できる。悪党の調査などもこなしている。人物のプロフィール情報を検索し、過去の経歴や最近の動向などを調べて報告するシーンが頻繁に登場する。

 現代の技術に影響を受けてしまっている私たちは、「デボンを呼び出すには、電子メールやチャットメッセージを飛ばしただろう」「遠隔で会話しているのは、スマートウォッチだろう」「悪党の経歴は、インターネット経由で警察や軍のデータベースにアクセスしただろう」と邪推してしまう。

 しかし1985年の制作当時にはそういうものはなかったので、ナイト財団が国や軍の協力を得て「独自に開発した特殊装備」で成り立っていたに違いない。ナイト財団が独自にGPS衛星や通信衛星を打ち上げていた可能性も否定できない。

 K.I.T.T.の働きとして特筆しなければならないのは、いちいち指示しなくても行動に移す「気の利かせよう」である。「支援のためにデボンを勝手に呼び出す」「夜のうちに悪党のプロフィールなどを検索して調べておいてくれる」、そういう「気の利く」知能技術を、われわれも早く実現できるようになりたいものだ。

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POINT!
K.I.T.T.には何らかの通信機能があり、マイケルの指示がなくても、事情を鑑みて仲間に連絡をしたり、情報収集したりできる
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●人間性

 K.I.T.T.には「人間性」のようなものが存在する。

 初回、デボンがマイケルにK.I.T.T.を紹介するときに「マイケルだけを守る」と伝えるシーンがある。ドラマ中、マイケルとK.I.T.T.は当時の刑事ドラマによく見られた「相棒」のような関係が描かれており、マイケルとK.I.T.T.の間には強い絆(きずな)があるように感じられる。

 「炸裂サミーの壮絶スタントショー」でマイケルが星型の銀のステッカーを貼っていると、「星のシールで機能が向上すると思えません」と抗議する。ステッカーがお気に召さない様子だ(私は学生時代乗っていたスカイラインに星型シールを貼っていた……)。まるで「自分は黒一色」であることにステイタスを感じているかのようである。

 「ジェット機に飛び乗れ」の最後のシーンで、雑誌に掲載された美女ローレンが水着姿でKNIGHT 2000にもたれ掛かっているグラビアを見て「私だけを撮って欲しかった」とK.I.T.T.が不満を漏らすシーンがある。美女には興味ないが、自分はきれいに写りたいという「自己顕示欲」のようなものを感じる。そして、マイケルと正反対で美女には冷たい。

 「ロボットを含むAIシステムに、人間性を持たせよう」という研究が現代では盛んである。まだまだ難しい分野ではあるが、K.I.T.T.のように「人と絆を感じられるような」ものを作れる時代をわれわれは目指し続けなければならない、とつくづく考えさせられた。

 連載「テクノロジー名作劇場」は今後も、AIやロボットが登場する映画や漫画、テレビドラマなどを取り上げる予定です。次回掲載をお楽しみに!

●筆者プロフィール

米持幸寿
人工知能とロボットのシステムインテグレーター
Honda Research Institute Japanで実用化部門ダィレクターとして、インテリジェントテクノロジーの開発に関わる。前職は、日本IBMでソフトウェア関連の仕事を28年。研究・開発、マーケティング、セールス、開発支援、アフターサービスなど、ソフトウェアビジネスの多くの業務を経験。

※2017.10.6 誤字を修正しました

最終更新:10/6(金) 13:32
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