ここから本文です

なぜ「ブッキング・ドットコム」の売り上げが伸びているのか、秘密を聞いてきた

10/11(水) 8:22配信

ITmedia ビジネスオンライン

 Webサイトを見ていて、リンクをクリックするたびに新しいタブが開く。逆に、クリックしても新しいタブは開かない。たくさん開いていると「気持ち悪いなあ」という人もいれば、開かないと「使いにくいなあ」という人もいる。さて、どちらのほうが人は“心地よく”感じるのだろうか。

他のABテストはこんな感じ

 新しいタブが開く、開かない――。この2パターンを用意して、どちらがより高い成果を出しているのか。いわゆる「ABテスト」を繰り返すことで、売り上げを伸ばしてきた会社がある。オンライン宿泊サイトを運営するBooking.com(ブッキング・ドットコム)だ。

 「ブッキング・ドットコム? 使ったことがないなあ」という人もいると思うので、簡単にご紹介しよう。同社は1996年にオランダのアムステルダムで創業し、現在は米Priceline(プライスライン)グループのメンバーに。ECサイト上での売上総利益を見ると、アマゾン、アリババに次いで、プライスラインは世界3位である(2016年度は1兆1300億円、1ドル:110円換算)。

 グループ売り上げの約9割を占めるブッキング・ドットコムを利用している人はどのくらいいるのだろうか。毎日140万泊の予約が入っていて、ユーザーレビュー(クチコミ)は1億1500件を超えている。現在220以上の国と地域で150万軒以上(2500万室)の宿泊施設で予約することができ、サポートしている言語は43カ国語。「日本語しかしゃべれないので、海外はちょっと苦手」という人でも、気軽にホテルを予約することができる。使い勝手の良さもあって、日本国内での業績も順調に推移。2012年から4年間で8倍以上も売り上げが伸びているのだ。

 自社サイトを通じて宿泊施設を予約してもらう。そうすることで、ブッキング・ドットコムの売り上げは伸びていくわけだが、その予約成約率をアップさせるために、同社は毎日1000件ほどのABテストを行っているのだ。冒頭でご紹介した「タブを開くほうがいいのか。それとも開かないほうがいいのか」もテストしたわけだが、成約率が高かったのはどちらだったのか。また、このほかにどのようなABテストを行って、サイトを改善してきたのか。ブッキング・ドットコムで同事業を担当しているエイドリアン・エンギストさんに話を聞いた。

●「失敗は速く」しなければいけない

エンギスト: 当社で仕事をしていくうえで、重要な言葉があります。それは「失敗は速く」。技術革新をしていかなければいけないので、「失敗」という言葉が出てくることに疑問を感じたかもしれませんが、頻繁にサービスの方向性を決めるためには、できるだけ「失敗は速く」しなければいけません。そのためにどうすればいいのか。多くのユーザーが当社のサイトに入って来てくれるので、彼ら・彼女らの行動を分析することで、その方向性があっているのかどうかが分かってくるんですよね。つまり、失敗しているかどうかの答えは、ユーザーが出してくれます。

 どんなことをしているのかというと、ABテストを行っているんですよね。分かりやすく言うと、50%の人はまだ変化していないものを使っていて、残りの50%は変化しているものを使っている。ユーザーの行動を比較することによって、どちらがよいのかを分析して、方向性を決めることができるんです。

――具体的にどういったことをしているのでしょうか。

エンギスト: Webサイトでホテルの詳しい情報を知りたいときにはどうすればいいのか。ユーザーはクリックするわけですが、そのときに新しいタブを開いたほうがいいのか、それとも開かないほうがいいのか。社内でも意見が分かれました。新しいタブを開けるのはよくないという人に、その理由を聞いたところ「新しいタブを開いたことに気付いていない人がいるから」「どこに自分がいるのか分からなくなるから」といった意見がありました。一方、新しいタブを開けたほうがいいという人にも、その理由を聞いたところ「たくさんタブがあったほうが、その中から選びやすいから」といった声がありました。

 エンジニアやプロダクト開発をしている担当者などから意見があったわけですが、全員がその道のエキスパートなので、自分の意見が絶対に正しいと思っているんですよね。そこでどうしたのか。当社が求めることは、ユーザーがたくさんのホテルを見たという数ではありません。実際に予約をしたという数字が重要なんです。ということで、ABテストを実施しました。

 検索結果をクリックしたときに、新規のタブが開く場合、新規のタブが開かない場合をテストしたところ、どのような結果が出たと思いますか。

A:検索結果をクリックしたときに、新規のタブが開かない場合

B:検索結果をクリックしたときに、新規のタブが開く場合

C:どちらでも、成約率は変わらない

――タブがどんどん開くと、使いにくくなるしなあ。

エンギスト: 答えは「B」。「タブが開く場合」だったんですよね。というわけで、当社のサイトで検索結果をクリックすると、新しいタブが開くようになっています。

●多くのコピーライターが文言を考えている

エンギスト: 下の図を見ていただけますか。2016年7月23日時点での子どもの年齢を聞いています。

 全く同じことを聞いているのですが、使っている言葉が違う。上は“Ages of children at check-out”、下は“Children's ages on Jul 23,2016”

――こ、細かいですねえ。小さな違いなのに、なぜわざわざテストをするのでしょうか。

エンギスト: 子どもの年齢を正しく記載すると、正確な価格が表示されますよね。そうすると、キャンセル率が低くなることが分かってきました。では、どうすれば子どもの年齢を正確に書いてもらえるのか。当社には多くのコピーライターがいて、日々、新しい言葉、より良い表現をつくっているんですよね。

 こうしたケースで、他の会社はどのようにしているのか。担当者が「こっちのほうがいいよ」といった感じで決めて、結果的に悪い事態を招いていることがあるかもしれません。しかし、当社の場合は違う。簡単な操作で2種類の文言を用意して、50%のユーザーには上を見せて、残りの50%を下を見せるようにしています。ABテストを行った結果、きちんと子どもの年齢を書いてくれたのはどちらだと思いますか。

――まったく分かりません。数字が書かれているので、なんとなく「B」だと思うのですが、だからといって「B」である理由は説明できません。

エンギスト: 答えは「A」なんです。なぜ「A」なのか。この図では「子どもの年齢を入力」する項目が入っていますが、実際の画面は「Children」の項目に人数を入力すると、表示されるようになっているんですよね。

 「Children」の項目を入力したところで、ユーザーは子どもの人数のことを考えている。そのような状態のときに、再び「Children」というワードが出てきても、瞬時に意味を判断することが難しいのかもしれません。読み進めていくことで、「あ~、ここには子どもの年齢を記載すればいいのね」といった感じで。

 一方の上はどうか。「Children」の項目で人数を入力したあとに、「Ages」という言葉が出てくるので入力しやすいのではないでしょうか。「Children」のことを考えている状態で、「Ages」という言葉が出てくるので、すぐに認識することができて入力しやすいのかなあと。今回は英語でのケースをご紹介しましたが、当社がサポートしている言語は43カ国語なので、43カ国語でABテストを行っています。

●成約率が変わらないケースも

――このほかにもABテストをたくさんしているんですよね。どういった結果が出たのでしょうか。

エンギスト: 予定している日程で、泊まりたいと思っているホテルを調べたところ「満室」といったケースがありますよね。そうした場合に、ユーザーはどのくらい柔軟性があるのかを分析しました。どのようなテストを行ったのかというと、Aは何も提案しない、Bは空室がある他の週を提案したんですよね。希望する日程の前後の週を見れるようにしました。

 このテストをする際、社内からは「提案なんてすると、ユーザーは混乱するだけだ」と反対の声がありました。実際にテストをしたところ、どのような結果が出たと思いますか。

A:何も提案しない

B:空室がある他の週を提案した

C:どちらでも、成約率は変わらない

――うーん、Bの「他の週を提案した」場合ではないでしょうか。

エンギスト: 答えは「C」。「どちらでも、成約率は変わらない」だったんですよね。じゃあ、どういった形にすれば成約率が上がるのか。現在、社内で研究を進めています。

 次に、下の写真を見ていただけますか。上は“Free cancellation,pay when you stay”(キャンセル無料、現地払い)と書いていて、下は“Free cancellation-PAY LATER”(キャンセル無料、支払いは後で)と書いています。どちらも同じ意味ですが、結果はどうだったと思いますか。

A:“Free cancellation,pay when you stay”(キャンセル無料、現地払い)

B:“Free cancellation-PAY LATER”(キャンセル無料、支払いは後で)

C:どちらでも、成約率は変わらない

――上の「現地払い」と書かれていると、ホテルに到着するとすぐに支払わなければいけないといったイメージがあるのに対し、下の「支払いは後で」は、ホテルをチェックアウトするときに支払うイメージがありますよね。支払いはできるだけ後のほうがいいという人が多そうなので、答えは「B」なのでは?

エンギスト: 正解! 成約率が高かったのは「B」だったのですが、これはあまりいいテストではないんですよ。なぜならBの「PAY LATER」は大文字になっていますよね。テストをするのであれば、Aと同じ小文字にするべきでした。

――悪いテストの見本だったわけですね。正解したのに、なんか残念。

●スマートフォンでの料金表示

エンギスト: では、最後のABテストをご紹介します。下の図はスマートフォンで見たものになります。よーく見ると、料金の位置が違いますよね。左の図は料金を左側に表示していますが、右の図は真ん中にしています。違いはこれだけ。

 なぜこのようなテストを行ったかというと、社内で意見が分かれたから。左側がいいという人からは「英語は左から読むので、最も知りたい情報(料金)は左側に掲載すべきだ」「PCで見ると、左側に掲載されている」といった声がありました。一方、真ん中がいいという人からは「スマートフォンのような小さな画面を見る場合、真ん中を見る傾向がある」といった意見がありました。さて、テストをしたところ、どのような結果が出たと思いますか?

A:料金を左側に表示した

B:料金を中央に表示した

C:どちらでも、成約率は変わらない

――答えは……「B」かな。理由は、なんとなくです。真ん中にしたほうが見やすいかなあと。

エンギスト: 正解です。ブッキング・ドットコムで働くことができますね(笑)。当社のサイトはトラフィック(情報量)がものすごく多くて、毎日150万ほどのデータを分析することができます。文言を大きく変化させることもありますし、小さく変化させることもあります。何より大切なことは、その変化は効果があるのかどうか。膨大なデータを分析して、成約率がよくなるかどうかを判断しなければいけません。

――なるほど。ユーザーが宿泊施設を申し込みたくなるように、ABテストを繰り返すことでサイトを最適化しているわけですね。

●速い、簡単、シンプル

 ブッキング・ドットコムではさまざま表現を使って、ABテストを日々繰り返している。では、日本のサイトで何らかの特徴があるのだろうか。サイトを見ると、派手さはなく、あまりゴチャゴチャしていない。

 アムステルダム在住で日本のサイトの担当メンバーである林田さやかさんに聞いたところ、日本では「速い」「簡単」「シンプル」といった文言を使うと、成約率がアップするという。一方、海外の場合はどうか。「いろんなタイプの宿泊施設がある」「宿泊施設の数が多い」といったことをアピールすると、反応がいいそうだ。それにしても、なぜ日本で「速い」「簡単」「シンプル」といった文言が、ユーザーにウケるのか。担当者にその理由を聞いたところ「日本人は使いやすさを求める人が多いんですよね。また『選択肢が多いのは疲れる』という声もよく聞きます」とのこと。

 この話を聞いて、「分かる、分かる、それオレのこと」と感じた人が多いのではないだろうか。ちなみに、記者は「記事タイトルもABテストができたらいいのになあ。そうすればもっとたくさんの人に読まれるかも」と思った次第である(同僚:ABテストをしても読まれないかもよ。フフ……)。

(終わり)