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「研修でイノベーション? あり得ない」「社長、それができるんです!」

10/12(木) 14:35配信

ITmedia ビジネスオンライン

※この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。

●研修で行われる構造改革提案の多くは、経営者に刺さらない。

 昨今、次代経営者の育成を目的とする「次世代リーダー開発」が、多くの企業で導入されています。次世代リーダー開発の手法として現在脚光を浴びているのが「アクションラーニング」です。アクションラーニングとは、断続的に行われる研修とその間に実施するフィールドワークで構成される一連の問題解決のプロセスを意味します。実際、企業の課題を受講生自らが提起し、施策を考え、実行し検証することで、企業の課題解決を促し、個人や組織が学習をしていく、というものが代表的です。

 私は、リクルート時代やリクルートマネジメントソリューションズで、顧客のアクションラーニングの企画、開発、運用を数多く手掛けてきました。しかし、そのプログラムのなかで提案された自社の構造改革案や事業成長プランが経営者の共感や感動を呼び、「なるほど、このプランは面白い。お前らよく頑張って考えたな。次期中期経営計画に入れて推進しよう」と経営者が手離しでほめる場面に出会ったことがほとんどありません。

 そうなのです。なぜか、アクションラーニングは経営者に刺さらないのです。さまざまな原因が考えられます。分析不足、リアリティが足りない、本気が伝わってこない、結局は受講生が研修と思っている……。経営者がこのようなフィードバックをする場面を、構造改革型のアクションラーニングで数多く見てきました。

 なぜ、このような現象が起きるのでしょうか? その理由は比較的明白です。それは、自社の事業や組織のことは、提案を受ける経営者が誰よりも深く知っているからです。そのため、アクションラーニングの受講生が構造改革案を考えたとしても、その必要性や真実味、危機感などが経営者にとっては不十分なものとして映ります。結果、多くの構造改革案や事業成長プランがあえなく玉砕するのです。

 最終日の経営者への提案のあとで、懇親会が開催されることがままあります。始めに経営者から「まあ、頑張ったな。お疲れさま」という半ば労ねぎらい半ば諦めともとれるあいさつのあと、ビールで乾杯し、刺さり切らなかった提案が何事もなかったかのように水に流されていきます。これでは、アクションラーニングの真の狙いとは程遠く、「通過儀礼」と化してしまっているのです。

●イノベーションの提案は、経営者に刺さる

 では、経営者にも刺さる、真に実効性のある研修とはいったいどのようなものなのでしょうか。自社の事業を知り尽くした経営者でさえうならせることができるような提案を生み出す研修のプログラムは、いかにして実現可能なのでしょうか。

 経営者をうならせるには、経営者が求めているものを考えればよく、そしてそれこそが、「イノベーション」なのです。

 イノベーション生成のプロセスは、アクションラーニングのプログラムと非常に似ています。双方とも、議論を繰り返し、フィールドワーク(インタビューや調査、問題提起や課題の構造化、提案内容の精査など)を行い、状況に応じてチームを編成し、経営者に提言して承認を得ることは共通しています。

 アクションラーニング型のイノベーション研修は成立するのです。個人の問題意識を起点として社会課題を探索し、アイデアを獲得し、安全で安心な場で議論を繰り返してアイデアを磨き、顧客や市場との対話を繰り返して事業案にまとめあげ、決められたスケジュールにのっとって最終的に経営者に提案し、承認を得るというプログラムを、アクションラーニングとして実施するのです。

●「イノベーション研修」はあり得ない?

 私は仕事柄、1年に200~300人程度の企業の人事部、経営企画部、研究開発セクションの責任者と議論します。そこで、この“研修でイノベーションを起こす”というアイデアを何人かのエグゼクティブに話を持ちかけてみました。約6年前のことです。

 彼らから返ってきた反応は、おおむね次のようなものでした。

 「井上さん、イノベーションは研修で起こせるわけがない。研修で起こせたら苦労はしない」

 「研修のようなやり方でイノベーションが起こせるのだったら、多くの会社がやっている。そんな甘いものじゃないよ、イノベーションは」

「イノベーションは徹底した技術の深堀りで初めて可能になるものだ。研修のような真剣さが足りない時間で、技術を深耕することなどできない」

 まとめるなら、「イノベーション研修なんてあり得ない」というのが、現場のリアルな反応でした。「非日常」であり「緩く」て「生ぬるい」研修から、「困難」なイノベーションが生み出されるということが、彼らにとっては到底考えられないことだったのです。

●実際に「イノベーション研修」をやってみたら……

 「案ずるより産むがやすし。あり得ないところにイノベーションは起こせる」こう考えた私は、イノベーション創出プロセスを参照しながら、「イノベーション研修」のプロトタイプを顧客と共創していきました。

 そして、2017年9月現在、700件を超えるアクションラーニング型のイノベーション提案を生み出しました。全5日間の研修と、その間に行なわれるフィールドワークを経て、最終日に経営者に提案された事業案が次のステップに進んだ割合は約27%。その後それぞれが磨かれて、実際に約20件の新商品やサービスが生まれています。研修でイノベーションを起こすことが、現実のものとなりつつあるのです。

 この「イノベーション研修」の特徴を簡単にまとめました。

・5日間の研修と、その間で実施する4回のフィールドワークで構成される
・各フィールドワークは1カ月程度の時間を設ける
・冒頭で、実際にイノベーションを起こしたイノベーターから話を聞き、刺激を受ける
・受講生はフィールドワークで「不」(不便、不満、不安など)を探索、深耕し、イノベーションの起点とする
・探索した「不」を踏まえ、「事業案フレーム」を作り込む
・セッションは座学型ではなく、プロジェクト推進形式で実施
・提案された事業案は、できるだけその場で推進可否を決定する

 イノベーションとは、経済成果をもたらす革新であり、新しい価値の創造です。企業が成長するために新しい価値の創造をしなければいけないということを、否定する人は誰もいません。企業は新しい事業を起こさなければならず、常に新しい価値を創造しなければなりません。既存事業はいずれ縮小します。未来永劫(えいごう)、成長と拡大を続ける事業は、この世にはただの1つも存在しないのです。

 もし、新しい価値の創造が、日本の会社で働く人全員のミッションであったなら、いったい何が起きるでしょうか? 考えただけでワクワクします。いわば、イノベーションの民主化です。

 もちろん、社員全員が100%イノベーションを仕事にすることは事実上不可能です。しかし、誰かが「不」や社会課題の解決策を考え、新しいことを生み出さなければ、その会社に未来はありません。リーダーこそが、自社のイノベーションを生み出すのです。

 この本には、研修でイノベーションを起こす方法が事細かに書かれています。リーダーの皆さんの役に立てること、企業からイノベーションが次々と起こることを願ってやみません。

(井上 功)