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「過激派指導者はあの中だ」比南部激戦 政府軍のIS系勢力掃討現場に“潜入”した

10/12(木) 16:30配信

産経新聞

 フィリピン南部ミンダナオ島のマラウイで、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う武装勢力と政府軍の交戦が、最終段階に入った。当初は苦戦を強いられてきた政府軍だが、衝突発生から4カ月以上がたち、武装勢力を包囲した。中心部の戦闘地域では、ISが東南アジアの「代表」に指名したハピロン容疑者らが人質を盾に潜んでいるとされ、政府軍が最後の掃討作戦を進めていた。(マラウイ 吉村英輝)

 政府軍から9月27日、戦闘が続くマラウイ中心部の取材を許された。市を東西に分けるアグス川東側に位置する、3階建ての店舗兼住宅が立ち並んでいた地域で、政府軍が奪還し爆弾などの危険物除去が確認されたため、軍の同行で短時間の立ち入りができた。

 廃墟の屋上から、武装勢力が追い込まれたラナオ湖の方角を見る。銃声と迫撃砲の音に思わず身を潜めた。数百メートル離れているが、流れ弾は約1キロ離れた政府軍の基地に今も届いているという。

 政府軍によると、50~70人となった武装勢力は、直径約1キロの範囲の7地区で抵抗を続けている。地下トンネルを動きまわっているうえ、人質もまだ40~60人いるため、一気に制圧できない状況が続いている。

 武装勢力は、市内の警察署を襲って仲間の囚人を逃がして戦闘員に加え、さらに武器などを奪った。商店から燃料や食料を奪って籠城してきたが、政府軍幹部は「水や食料、弾薬も尽き欠けている」として、10月中旬までには戦闘を終結できると見通した。

 「ハピロンもあの中にまだ絶対にいる」-。政府軍幹部は、交戦で黒煙が上がる方向を指さした。ハピロン容疑者は、ミンダナオ島西部沿岸などで身代金目的の誘拐を繰り返す過激組織「アブサヤフ」の指導者で、米政府が懸賞金をかけて手配する大物だ。衝突が起きた5月23日に政府軍は、行方を追っていた同容疑者が潜んでいたマラウイ市街地の住宅を突き止め、急襲した。

 ハピロン容疑者ら過激派がマラウイに結集して何かをたくらんでいたことは「つかんでいた」と政府軍幹部はいう。だが、これほど大規模に戦闘員や武器を集結していたことまでは把握できず、思わぬ反撃に撤退を余儀なくされ、マラウイのほぼ全域を奪われた。武装勢力が、イスラム教の断食月(ラマダン)の初日にあたる5月26日に「武装蜂起」を予定していたと知ったのは後からだ。

 過激派に詳しい紛争政策分析研究所(IPAC、ジャカルタ)のシドニー・ジョーンズ所長は、中東のISが、東南アジア各国で群雄割拠し対立してきたイスラム過激派をISの旗の下に連携させ、インドネシアなどに比べ監視が甘く計画を遂行しやすいフィリピンで、IS直轄の「独立国」樹立を目指したとみる。

 フィリピンのミンダナオ地方では、1970年代から複数の武装組織が分離独立を求め、政府軍との紛争状態が続く。ただ、イスラム最大勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF)は政府と2014年に包括和平合意に調印し、ISにも反発している。

 そこでISは、ミンダナオでISに忠誠を誓う“有名人”のハピロン容疑者を東南アジアの「代表」に指名。同容疑者をミンダナオの新興過激派「マウテ・グループ」と連携させた。同グループは、中東留学経験があるマウテ兄弟らを中心に組織され、2016年9月には、ドゥテルテ大統領のおひざ元、ミンダナオ島ダバオの夜市で、15人が死亡する爆弾テロを実行。同年11月には同島ブティグで政府軍を襲い役所に黒いIS旗を掲げ、その後は政府軍に追いやられて逃走したものの、存在感を世界に示した。ハピロン容疑者の名声と、マウテの実行力が結合し、インドネシアやマレーシアからも、多くの戦闘員のリクルートに成功したという。

 ミンダナオ島はイスラム教徒が多数派で、多くが血縁で結ばれ、警察や行政の中にもテロ支援者がいるとされる。キリスト教徒が中心の政府軍は今年4月22日、マラウイから車で1時間の場所にあったマウテの軍事訓練キャンプを空爆したが、逃走されてしまった。政府軍幹部は「住民たちは、2015年からマラウイで不穏な動きが出ていたことを知りながら、報復を恐れて通報しなかった」と、情報収集での課題を語った。

 地元メディアによると、今月4日までの死者は、兵士・警察が155人、武装勢力側が749人、市民は47人。政府軍が制圧した戦闘地区からは遺体の回収が続いている。米国から数人の専門家が、フィリピン警察の法医チームに参加し、死亡した戦闘員の身元確認などを進めている。ハピロン容疑者やマウテ・グループ幹部らが死亡したか、慎重に確認を進める方針だ。

 政府軍幹部は、人質救出を優先する一方、「追い込んだ武装勢力を全滅させる絶好の機会だ」と意気込む。一方、ドゥテルテ大統領がイスラム教徒の反発に配慮して攻撃を禁じているモスク(イスラム礼拝所)の施設からは、外部との通信に使っていたとみられる各種の通信機器などが多量に見つかっている。

 「国際政治暴力テロリズム研究センター」(シンガポール)のロハン・グナラトナ所長によると、フィリピンには約1200人のIS戦闘員が確認されている。仮にハピロン容疑者など、800人近くを殺害できたとしても、残る約400人はマラウイ以外に潜伏中ということになるため、今回の戦闘は「始まりに過ぎず、終結しても他でまた起きる」と指摘している。

最終更新:10/12(木) 16:30
産経新聞