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【インタビュー】日本人初のインディ500ウィナー佐藤琢磨選手に今シーズンの振り返りと2018年の抱負を聞く

10/13(金) 0:00配信

Impress Watch

 2017年5月28日(現地時間)は、日本のレース史に燦然と輝く新しいページが加わった日として長く忘れられることはないだろう。言うまでもなく、佐藤琢磨選手が日本人として初めて「インディ500」を制覇した日だ。

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 日本人初のイギリスF3王者、日本人初のマカオGP優勝、日本人初のインディカー・シリーズ優勝(2013年ロングビーチ戦)といった“日本人初”という数々の壁を破ってきた佐藤選手は、ついに今年、これまで日本人が誰も成し遂げることができなかったインディ500を制覇し、2017年シリーズもランキング8位とこちらも最上位でシーズンを終えている。2018年は今年在籍したアンドレッティ・オートスポートを離れ、2012年に在籍していたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングに移籍。心機一転して新しいシーズンに臨むことになる。

 その佐藤選手に、インディ500での優勝について、そしてそこに至るまでのつらかった日々、そして2018年の抱負などについてうかがった。

■レースに出られなかった2年間、そしてインディカーで走った7年間がインディ500の優勝に繋がった――今シーズンを振り返っての感想をお願いします。

佐藤琢磨選手:忘れられない特別なシーズンになりました。インディ500で優勝することができ、夢の1つを実現することができました。通年で見ると、とくに最後の5~7戦は予選ではホンダ勢でトップに行くことができても、決勝ではトラブルでレースを失ってしまうというレースが続いてしまい、チャンピオン争いをできなかったのが残念でした。ただ、インディ500の優勝に関しては、自分の可能性を信じ続け、挑戦を続けてきて本当によかったです。今では挑戦を可能にしてくれた、僕を応援してきてくれた方々に心から感謝したいです。

――今やアメリカでも著名人ですもんね。米国の入国審査でも顔パスじゃないですか?(笑)

佐藤選手:さすがにそんなことはないですが(笑)。審査官の人に「仕事はなにしているんだ」と聞かれて、レーシングドライバーだって言うと、「日本人がインディ500で勝ったと聞いたけど、それは君か」と言われます(笑)。ただ、すごいのは、欧州の入国審査で今でもF1時代のことを覚えている方が多いことですね。

――2012年に最終ラップまでインディ500の優勝を争っていたときも、あとで入国審査で言われたという話をどこかの記事で読みました……。

佐藤選手:そんなこともありました(笑)。ただ、今回のインディ500でうれしかったのは、観客の方の反応だったんです。インディ500に来ているお客様って、それこそ親子何代で来ているというリピーターのお客様が多いのですが、やっぱり2012年のことを覚えているお客様が多くて、インディカーシリーズのスターであるエリオ・カストロネベス選手が勝っても、佐藤琢磨が勝ってもオッケーという空気感があって、自分が勝ったときに祝福してくれたんです。これは本当にうれしかったです。

――佐藤琢磨選手はこれまでの長いキャリアのなかで山あり谷ありだったと思いますが、一番つらかった時期というのはいつでしょうか?

佐藤選手:レースの世界というのは、いい時期というのは一瞬で、それ以外は悔しいレースが続くものです。ですが、そのなかでも本当につらかったのは、レースができなかった2008年~2009年の2シーズンが一番つらかったですね。Super Aguriがシーズン途中で撤退せざるを得なくなって、チームのスタッフやメカニックと別れるのも悲しかったし、つらかった。それに自分としてはF1にもう1度戻れると信じていたのですが、結果的には色々と理由があって、それが叶わなかったのですが……。

――それはどうやって乗り越えられたのでしょうか?

佐藤選手:時間はかかりましたね。F1に対して未練がないと言えば嘘になりますが、F1の世界でやっていくのは、ドライバー個人でできることが小さすぎるのです。待たないといけないのです。テストドライバーという選択肢はもちろんありますが、シートを獲得するにはそのチームのドライバーがなんらかの理由で出ることができないという、非常に確率の低いチャンスを待たないといけない。自分としてはレースをすでに経験しているのに、それを待ち続けるというのは嫌だった、それは2シーズンが限界だな、と。

 ですが、その2シーズンのあいだに、もう1度自分のまわりを見つめ直すことができたのです。F1以外の世界もあるのではないかと。それでインディ500に行ってみたら、自分が10歳のときに鈴鹿サーキットで初めてF1のレースを見たときと同じ感慨がありました。それを見て、触れて、世界観が広がっていった。そこから新しいチャレンジに繋げていくことができたのです。

――そこでインディカーを選んだことが、今の成功に繋がっているわけですね。

佐藤選手:全ては繋がっているんだと思うんです。F1での経験、そしてF3などのジュニアフォーミュラの経験、それがあるからこそ、今がある。インディカーが素晴らしいのは、全てのドライバーに平等にチャンスがあることです。F1だと一部の限られたチームとドライバーしかトップを狙えない。それはいいわるいではなく、それがF1という世界なのです。ですが、インディカーでは最後尾からでも優勝を狙うことができる。そういう魅力がたくさん詰まっているのです。自分がドライバーとして第2の挑戦と考えると、まさにこれだと思ったのです。

――そこからインディ500の優勝まで7年かかりました、そのあいだにくじけそうなときもあったと思いますが……。

佐藤選手:僕はこう考えているんです、うまくいかないときこそ成長できる最大のチャンスである、と。もちろん、いきなり連戦連勝って夢は見ていますが、なかなかそれは難しい。しかし、いつかはチャンスがやってくるし、チャンスを掴みにいくために、大事な局面でしっかりとした実力を示す準備をしていく。インディカーでも思い描いていたような成功を掴むまで時間がかかりましたが、7年間の挑戦で得たことはすごく大きくて、8年目のインディ500でそれを表現することができた。そこに繋がってきているのです。

■レイホールチームに移籍する2018年の目標は、複数優勝とシリーズチャンピオン、そしてインディ500の2連覇――来年はレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングに移籍します。

佐藤選手:はい、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングに戻る来シーズンは本当に楽しみなシーズンになります、今からワクワクしていますよ。もちろんインディ500の2連覇は狙っていきたいですし、今年は叶わなかったシリーズ制覇を狙っていきたい。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは考えられる選択肢のなかでは最高の選択肢だと思います。

――エンジニアリング体制の確立も課題になってくると思いますが?

佐藤選手:おっしゃるとおりで、僕は常にそこを大切にしています。モータースポーツは機械を扱うスポーツとはいえ、それを操るのも整備するのも人間ですから、ドライバーとエンジニアのコンビは大事です。新しいスタッフと関係を築き上げていくことは挑戦ですが、(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのチームオーナーである)ボビー(ボビー・レイホール氏)は温かくて、いつでも戻って来いよとずっと言っていてくれてて、今回はお互いにちょうどいいタイミングで戻れたと思っています。

――来年のチームメイトになるグラハム・レイホール選手も非常に強力なチームメイトです。

佐藤選手:はい、僕はチームメイトに恵まれていて、今年もライアン・ハンター・レイ選手、アレクサンダー・ロッシ選手といずれもトップレベルのドライバーと組んでいて、いい経験になりました。グラハムは、今年スコット・ディクソン選手に抜かれるまで、ここ数年間はずっとホンダ勢のトップを張ってましたし、才能があることをみんな知っています。2018年はグラハムと僕の2トップで、ペンスキーやガナッシといった強豪チームにチャレンジしていきたいです。

――この週末はインディアナポリスに戻って、レッドブル・エア・レースを観戦するそうですね?

佐藤選手:はい、このインタビューが終わったら空港に移動してアメリカに向かいます。期待を一身に背負って飛ぶ室屋(義秀)選手のフライトがどんなものなのかとても楽しみにしています。今、室屋選手は4ポイント差でチャンピオンに手が届くところにいらっしゃると聞いているので、不思議な力が働きそうだな、と(笑)。

――先週末のF1日本GPでは表彰式のインタビュアーを務めていらっしゃいましたが、ルイス・ハミルトン選手がそのインディ500ウィナーの指輪に興味津々でしたね。

佐藤選手:表彰台の3人も、まさかインディ500ウイナーが来るとは思わなかったのでビックリしたみたいですね。指輪ですが、やっぱりルイスはキラリと光るモノに目がなくて、とっても食いついてました。(インディ500の主催者である)IMSにとってもいい宣伝になったのでは(笑)。

――その表彰台でのインタビュー時に、手になにか書いてあるということが一部で話題になっていたようですが……。

佐藤選手:ああ、あれみなさんよく見てるなーと(笑)。実はこのインタビュアーになることが決まったのは前日で、急に決まったんです。それで、例えばハミルトン選手がベッテル選手に対して何点リードしているとか、そういうことを書いていたんですが、結局は見ませんでした(笑)。

――来年に向けての抱負をお願いします。

佐藤選手:シンプルに勝ちまくってチャンピオンになりたいです。インディ500はみんな佐藤琢磨の負けっぷりを見に来ると思うので、自分としては2連覇を達成する気持ちで頑張りたいです。そして、レースドライバーとしてもっといいドライバーになりたいし、記録ももっと作っていきたいけど、夢を達成して満足したわけではなく、そこからさらにモチベーションが上がる不思議な感覚で、来年が非常に楽しみです。もう40歳も超えていますし、どこまでできるかは分からないですが、自分のモチベーションが続く限りは全力で走っていきたいです。

Car Watch,笠原一輝,Photo:安田 剛

最終更新:10/13(金) 16:22
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