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PCを使わない“アンプラグド”なプログラミング教育は入り口であり、目指すところではない

10/13(金) 8:00配信

@IT

 2020年から、小学校で必修化が始まるプログラミング教育。現場の教員や教育委員会の関係者は、実際にどのような授業をすればよいのか、頭を抱えている状態だろう。

 そうした教育関係者向けに、最新情報や模擬授業、教材研究の場を提供する動きが始まっている。特定非営利活動法人みんなのコード(※1)も2017年8月22日、「プログラミング教育明日会議 in 東京」を、早稲田大学西早稲田キャンパスで開催した。

※1「一般社団法人みんなのコード」は、2017年10月1日に「特定非営利活動法人みんなのコード」へ法人名を変更した

 本稿では、同イベントで行われた2つの模擬授業と、教材展示会場の様子をレポートする。

●模擬授業【1】 5年生算数・正多角形の単元でプログラミングを活用

 特定非営利活動法人みんなのコード(以下、みんなのコード)は、教育機関を対象にプログラミング教育の支援活動に積極的に取り組んでいる。全国各地で、プログラミング教育に関する教員向けの研修や情報収集の場を提供している中、2017年からは、小学校の授業で使えるプログラミング教材「プログル」の独自開発も手掛けている。

 今回のイベントでは、プログルに新たに加わった「多角形コース」を使って、5、6年生向け算数の模擬授業が行われた。講師は、元小学校教員で、現在は「みんなのコード」に所属する竹谷正明氏が務めた。

 新学習指導要領では、算数の指導内容のうち、多角形を作図する学習にプログラミングを取り入れてもよいと例示されたため、今後、多角形の作図にプログラミングを取り入れる教員は増えることが予想される。事実、この模擬授業にも、多くの教員が集まっていた。

○いきなり「プログラミング」に触れるわけではない

 「多角形の単元でプログラミングを活用する」といっても、単元の最初からいきなり「プログラミング」に触れるわけではない。前提として、同単元で習得すべき知識については、教科書などを使いながら授業を進めるという。プログラミングが登場するのは、同単元の最後。学んだ知識や内容を土台に、学習を発展させる演習にプログラミングを活用する。模擬授業も、まずはプリントで既習事項を確認するところから始まった。

 次に竹谷氏は、模擬授業における狙いを、「プログラムを作って、正多角形を描くときの“ルール”を考えること」と設定。模擬授業に参加した教師らは、多角形コースにアクセスして、実際に手を動かしながらプログラミングを体験し始めた。

○まずは、「試行錯誤」で操作に慣れる

 多角形コースは、キャラクターに正三角形や正方形などの図形を描かせるプログラムを組み立てることで、多角形の性質についての理解を深められる仕組みになっており、全部で8つのステージに分かれている。最初は、子どもが操作に慣れるためのステージだ。

 「ここでは、子どもに操作方法や進め方の手順を説明しながら、『失敗してもいい』『自分が考えたことを、どんどん試してみよう』など、試行錯誤を促すような言葉掛けをしてほしい」と、竹谷氏は教員にアドバイスした。

○声で命令することで、「くり返し」の意義を体感する

 その後、正方形の作図のステージまで進んだところで、実際のプログラミングに取り掛かる前に、竹谷氏は全員の作業をいったん止めた。自身をプログラミングを通じて動くキャラクターに見立て、竹谷氏に正方形を描かせるために必要な指示を声に出すよう、会場の教員に求めたのである。

 教員たちは、竹谷氏に「前に進んで! 右に90度回って!」などと命令を出し、竹谷氏はその通りに動く。ここで竹谷氏は、「同じ指示を4回出すのは面倒だね」と話しつつ、「くり返しブロック」の仕組みや“最初の地点に戻らなければ図形が完成しない点”などを、簡潔に説明した。

 「正方形の作図には、正三角形の作図に向けた伏線になる考え方も含まれている。実際の授業では、クラス全体でここまでの内容に取り組み、この先は個別で進めるのがいい」(竹谷氏)

○自分でも歩いてみることで、「外角」を実感できる

 正方形の作図に続き、模擬授業の参加者は、正三角形を作図するステージに取り組んだ。ここで竹谷氏は、「プログラミングによる正三角形の作図は、多くの子どもが間違う部分がある」と強調した。

 例えば、正方形の作図では、キャラクターの向きを変える際、その角度を「90度」と設定する。この角度は、正方形のそれぞれの「内角」の大きさと一緒だ。ただし、正三角形の作図の際、キャラクターの向きを変える角度を、それぞれの内角と同じ「60度」に設定してしまうと、下記スクリーンショットのような動きになり、正三角形を描くことができない。

 竹谷氏は、こうした場面に出くわした子どもの指導方法として、「『実際に自分で正三角形を描くように歩いてみよう』とアドバイスするのがいい」と話す。正方形の作図の際に竹谷氏が自身をキャラクターに見立てて動いてみせたのと同じように、プログラミングに挑む子どもも、自分がキャラクターになったつもりで実際に動いてみる。

 多くの子どもは、こうした作業を通じて、キャラクターを動かして正三角形を描くためには、正三角形の「外角」に相当する120度向きを変えなければならない点に気付くという。

○「規則性」を見つける

 プログルのステージは、正三角形の作図をクリアすれば、正六角形、正五角形の作図へと進むようになっている。正六角形や正五角形の外角の大きさを知らない子どもも、下記表のように「くり返す数×回す角度=360度」という規則性を見つけることで、正六角形や正五角形の外角を求め、作図が可能になる。

 「従来、算数の時間で『作図をする』といえば、定規とコンパスを用いて行う方法が一般的だったが、プログラミングを用いることで、算数の考え方を活用した新たな作図方法を習得できる。プログルの多角形コースは、45分の授業でも手軽に使える教材だ。より複雑なことがやりたい場合は、Scratchなどのツールもお勧めだ」(竹谷氏)

●模擬授業【2】 絵本を使って“PCを使わない”プログラミング

 もう1つの模擬授業では、PCやICT機器を使わずに、プログラミングに必要な論理的思考を学べる教材『「ルビィのぼうけん」ワークショップ・スターターキット』が使われた。講師を務めたのは、千葉県柏市立田中北小学校の西川真吾教諭だ。

 同キットは、人気のプログラミング学習向け絵本『ルビィのぼうけん』をモチーフに、授業事例や教材データ、ワークシート、スタート動画などをセットで提供するもの。模擬授業では、同キットを使った“アンプラグド(※2)”の形で、参加者がプログラミングの考え方を学んだ。

※2:CS(Computer Science)アンプラグドのこと。コンピュータでプログラミングをするのではなく、カードなどを用いたゲームやグループ活動を通して、コンピュータの基本的な仕組みを学ぶ。詳細は、こちら

 授業の冒頭では、同キットの中に収録された教材の1つ「ダンス・ダンス・ダンス」を使って、ループ(くり返し)の概念を扱った。

 講師は、「手をたたく」「ジャンプ」「まわる」など、それぞれの動きが書かれたマグネットシートをホワイトボードに並べてダンスのプログラムを組み立て、参加者がその通りに体を動かす。

 参加した教員は、「始め!」の号令で一斉に指示通りに動き、途中で特定の動きに「三度くり返す」などの指示が加われば、その通りの動作をくり返した。

 こうした学習の狙いは、参加者にプログラミングの要素の1つである“くり返し”の概念を学ばせると同時に、「コンピュータと人間の違い」について気付かせること。重要な点は、「指示された動きを何度も正確にくり返すのが得意なコンピュータ」「ダンスの動きを考えるのが得意な人間」という具合に、コンピュータと人間それぞれの強みを知ることだという。

 模擬授業では、スターターキット収録の他の教材を使ったマス目移動のプログラミングに加え、コンピュータに見立てた相手に英語で指示を与える活動にも取り組んだ。アンプラグド形式の授業は、現在一般的な授業の形や進行を変えずに取り入れられる。教員側も、授業展開のイメージを持ちやすいようだ。

●PCを使わないアンプラグドに教員の注目が集まるが……

 文部科学省がプログラミングを必修化した一方、多くの小学校は、PCの台数不足やネットワークの不備など、ICT環境に課題を抱えている。そうした背景を受け、PCを使わないアンプラグド方式の教材は、多くの教育関係者の関心を集めているようだ。実際、同イベントでは、『ルビィのぼうけん』を、模擬授業以外にプログラミング教材の展示ブースでも紹介しており、多くの教員が見学に訪れていた。

 実際にブースに訪れた教員の1人は、「プログラミング授業のために、コンピュータ教室にある40台のPCを全校で使い回すのは難しい。低学年向けの授業にはアンプラグド方式を取り入れるなど、考慮が必要だ」と話した。

 一方で別の教員は、「自分はPC操作が得意ではなく、プログラミングもやったことがない。アンプラグド方式であれば、自分でもプログラミングの授業ができそう」と、本音を吐露した。

 『ルビィのぼうけん』など、アンプラグド方式の教材を使った授業は、PCを使わなくても済む。ただし、コンピュータを使わないまま、プログラミング教育を“やったこと”にしてしまう授業内容は、プログラミング教育が目指すところではない。プログラミングは、実際にコンピュータに触るのと触らないのとでは大きな違いがあり、コンピュータに触れて「楽しい、面白い」と思える体験は重要だ。

 『ルビィのぼうけん』のブースにいた担当者も、次のように教員に強く訴えていた。「『PCが整備されていないから』『プログラミングが苦手だから』という理由でアンプラグドに取り組まないでほしい。たとえ、授業ではアンプラグドしか取り入れなかったとしても、教員が自らPCを使ってビジュアルプログラミングツールやプログラミング言語によるコーディングを体験してほしい」

 というのも、アンプラグド方式の授業を行う教員は、コンピュータの特性を知らなければならず、教える側としての力量も問われるからだ。アンプラグド方式の授業は、あくまでプログラミングの“入り口”であり、いずれはコンピュータを使ったプログラミングへ移行するイメージを持って行うことが重要だといえるだろう。

●教員が手にとって試せる教材展示、3つ紹介

 「プログラミング教育明日会議 in 東京」では、最新のプログラミング教材も豊富に展示されていた。どのブースにも、多くの教員が詰めかけ、教材を実際に手にとって試したり、担当者から熱心に話を聞いたりする姿が多く見られた。実際に展示された教材の一部を紹介しよう。

○STEM教育用ロボット「mBot」

 「mBot」は、パーツを組み立ててロボットを作り、「mBlock」というソフトウェアを使ったプログラムでロボットを制御する。「mBlock」は、Scratchと同様、ビジュアルプログラミングツールをベースにしており、タブレットなどで操作可能。普通の教室でも使いやすいのが特長だ。

 同教材では、上部の写真奥にある六角形型のドローン「Airblock」も制御可能。重量わずか150gのAirblockは、発泡ポリプロピレンで作られており、落下にも強い。ドローンは、子どもの興味や関心を多く集めるため、ワークショップなどに取り入れる事例も増えている。

 今後、ドローンはプログラミング教材として、ますます広がりを見せるだろう。

○お菓子で学習する無料アプリ「GLICODE(グリコード)」

 「GLICODE」は、お菓子の「ポッキー」で知られる江崎グリコが開発した小学校低学年向けのプログラミング教材。ポッキーをルールに従って並べることでキャラクターを動かし、ゴールを目指す。同教材はドリル型で、子どもが自分のペースで進めることが可能な仕組みだ。江崎グリコは、学校向けの教材キットとして、「がくしゅうようポッキーセット」を提供している。

 なお以前は、ポッキー以外のお菓子も使ってプログラミングするものだったが、バージョンアップに伴い、ポッキーのみを使うようになっている。

○人気ゲームMinecraftの“教育版”「Minecraft: Education Edition」

 Microsoftの「Minecraft: Education Edition(以下、Education Edition)」は、同社の子ども向けゲーム「Minecraft」を教育機関向けにカスタマイズしたものだ。同社は、教育機関に対してのみ、Education Editionのアカウントを発行している。

 Minecraftは、3Dブロックで構成された仮想空間の中を冒険し、ブロックを積み重ねて遊ぶことも可能なゲーム。Education Editionは、Minecraftの内容を、プログラミング学習や課題解決型学習などに活用したもの。教員用の授業進行コンソール、カメラによる記録機能、ブロックの一斉配布や制限機能も備える。

●プログラミング教育に対する“アレルギー”解消を

 「プログラミング教育明日会議 in 東京」の様子をレポートしたが、いかがだっただろうか。

 同イベントは、多くの来場者を迎え、盛況に終わった。参加した教員の1人は、「そもそもプログラミングがどんなものか分からず、難しいイメージばかりが先行していたが、実際にイベントに来てみて、子どもが楽しめるような教材があり、授業に取り入れていきたいと思った」と話していた。

 いまだにプログラミング教育に取り組めていない教員の中には、自分たちにとって未知の領域であるプログラミング教育に対してアレルギーを持つ人も多いはずだ。2020年までに、プログラミング教育はどこまで前進できるのか。関係者には、今後の動きを加速すべく、さらなる取り組みに期待したい。

最終更新:10/13(金) 8:00
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