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石けんを販売している会社の傘が、なぜ郵便局で売れているのか

10/25(水) 8:17配信

ITmedia ビジネスオンライン

 いま、全国の郵便局で「傘」が売れている。郵便局に行っても、切手を買ってハガキを出す、お金を振り込むことが多いので「傘なんて売っているの?」と思われたかもしれない。しかし、販売してまだ1年も経っていないのに、売れに売れているのだ。

構造はどうなっている?

 2016年12月から17年3月にかけて、東京、神奈川の164郵便局で試験販売したところ、2000本を完売。他の郵便局からも「ウチでも販売させてよ」といった声が多く、全国販売することに。6月に約4500の郵便局で販売したところ、1カ月で2万本も売れたのだ。その後も順調に売れ、10月に入って3万5000本を超えた。

 傘の名前は「ポキッと折れるんです」(1080円、税込)。なんだかゆるーいネーミングだが、製造しているのは、ちょっとカタメの社名「長寿乃里」。初めて聞いた人は「老人ホームを運営しているの?」と想像されたかもしれないが、化粧品や石けんなどを主に通信販売で扱っている会社である。主力商品の洗顔石けん「然-しかり- よかせっけん」は累計2000万個以上も売れているので、使ったことがある人にとっては馴染みのある会社かもしれない。

 それにしても、化粧品や石けんなどを扱っている会社が、なぜ“畑違い”ともいえる傘をつくることになったのか。また、郵便局で売れている傘はどのような特徴があるのか。同社で新規事業を担当している真柄考幸さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●傘「ポキッと折れるんです」の特徴

土肥: 傘「ポキッと折れるんです」が売れているようですね。どのような特徴があるのでしょうか。

真柄: 最大の特徴は、傘の骨にヒンジ(ちょうつがい)が備えられていて、内側から強い風を受けるとヒンジの部分が“ポキッと折れて”、風圧に耐えることができること。風速15メートル以上の風にあおられるとヒンジが折れるのですが、折れた傘は再度閉じて開くことによって、元通りになるんです。

土肥: コンビニなどで販売しているビニール傘は、強風を受けるとひっくり返って、いわゆる“おちょこ”になることがある。そうなると、風圧を受けてしまうので、体ごともっていかれるかもしれません。ところが、「ポキッと」は強風が吹いていると、あえて折れる構造になっているわけですね。

 それにしても長寿乃里は石けんなどを販売しているんですよね。傘をつくるノウハウはないと思うのですが、「ポキッと」の構造はイチから開発したのでしょうか。

真柄: いえ、とある会社がこの構造を開発していまして、当社は使用している形になります。傘のプロトタイプは存在していたのですが、実際に販売するうえで、さまざまな点を修正する必要がありました。例えば、試作段階のモノは、さわやかに感じる風でもポキンと折れていました。

土肥: ものすごく安全だったわけですね。

真柄: はい。それだとちょっと使い勝手が悪いので、風速15メートル以上で折れるように設計を見直しました。また、内側から強い風を受けたとき、「ポキッと」は部分的に反転するんですよね。一部の骨は真っすぐではなくて斜めに反転するので、ヒンジの部分に斜めからのチカラが加わる。というわけで、ヒンジには粘りと強度が求められました。

土肥: その問題を解決するために、どのようなことを行ったのでしょうか。

●不要な傘がたくさん売れている

真柄: ヒンジのパーツを成型するときにぎゅっと固めて強度を高めました。試作段階のモノはこの圧力が弱かったので、形が不安定になっていました。結果、さわやかな風でもポキンと折れていたんですよね。

 このほかに縫製の位置を見直しました。親骨(傘の生地が張ってある骨のこと)と生地を結ぶために、通常の傘は糸を二重でくくっているのですが、「ポキッと」では強度を高めるために三重にしました。また「ポキッと」は折れる構造になっているので、どうしても親骨と生地の接合部分に圧力が加わってしまうんですよね。そうすると、糸が切れてしまうので、どの位置が適正なのか。少しずつ位置をずらしながら圧力があまりかからないところを探していきました。

土肥: 強風を受けたときにヒンジの部分が折れるので、確かに安全性が高い。価格も1080円なので、コンビニなどで売っているビニール傘と比べてそれほど高くない。こうした点がウケて売れていると思うのですが、やはりこの質問は避けて通れません。長寿乃里は石けんなどを販売している会社なのに、なぜ傘をつくったのでしょうか。ワタシが知る限り、傘メーカーが化粧品をつくっているなんて聞いてことがありません。

真柄: その質問にお答えする前に、傘の現状についてご説明させてください。日本洋傘振興協議会のデータによると、日本で傘は年間に約1億2000万~1億3000万本も売れているんです。このうちの大部分は、コンビニやドラッグストアなどで購入できる低価格のビニール傘なんですよ。

土肥: 急に雨が降ってきたけれど、傘を持っていない。そんなときにコンビニなどでビニール傘を買う人は多いですよね。ワタシも年に2~3本は買っているかも。

真柄: 使い捨て感覚で買われているので、ついつい電車やバスなどに置き忘れてしまったという人も多いのではないでしょうか。また、強風によって壊れたビニール傘が道路に捨てられていることがありますよね。そうした傘が原因で排水溝が詰まってしまう。結果、冠水や水害が拡大する被害が増えているんです。さらに、ビニール傘は先端部分が接着剤で固定されているので、捨てるときに分解することが難しい。ゴミとして回収されても分解が難しいことから埋め立て処分されるケースが多いんですよね。

●コンビニでも風に強い傘を売っている

土肥: 「ポキッと」は親骨と生地を糸で結んでいるので、分解できるわけですか?

真柄: はい。ご説明したように、ビニール傘は環境に優しいモノとは言えません。そこで、当社は何をしたのか。風が強くても壊れにくい傘を開発すれば、ゴミになりにくいのではないか。ということは環境保全に貢献できるのではないかと考え、「ポキッと」を開発しました。

土肥: なるほど。ただコンビニでも風に強いビニール傘を売っていますよね。

真柄: 親骨がテープで固定されていて、ズレにくいですよね。また受け骨(親骨を開いたとき支える骨)がグラスファイバーでできているので、よくしなって強度にも優れてします。ただ、強風を受けたときに“おちょこ”になってしまうので、体ごともっていかれるかもしれません。また壊れたとき、骨がテープで固定されているので、分別しにくいんですよね。

土肥: 親骨が多い傘もありますよね。あれは強風に強いですよ。

真柄: ご指摘のとおり、強風に強くて、丈夫なので長く使えます。ただ、骨が多いので傘自体が重くて、傘の下から吹く風の影響をもろに受けるので、人ごとまたは傘だけが飛ばされることがあります。

土肥: むむ。では、強風に強い傘はいかがでしょうか。ちょっと変わった形をしているモノもあります。

真柄: 特殊な構造(逆止弁など)をしているだけでなく、特殊な素材を使っているので風の抵抗を少なくすることができます。ただ、通常の傘と比べて、価格が高いモノが多いですよね。

土肥: 「ポキッと」は1080円……できれば1000円にして、「ポキッと、ポッキリ」にすればよかったのでは。や、ちょっと話がそれました。世の中に出回っているビニール傘は環境に優しくないと。こうした現状を受けて、長寿乃里は強風に強い傘を開発することになったわけですが、やはりまだ疑問が残るんですよね。なぜ、石けんを販売している会社が傘をつくったのでしょうか。

●晴れの日に選んでもらえる傘

真柄: ビニール傘の販売サイクルはどのようになっているのか。傘メーカーは大量につくって、安く売って、消費者はそれを使って、壊れて、また買って……といった流れですよね。ただ、当社は傘メーカーではありません。化粧品や石けんなどを販売していますが、お客さまの肌を考えて、商品に合成の着色料や添加物などを使っていません。

 少し回りくどい言い方になってしまいましたが、自社商品を使ったお客さまの肌に、できるだけ負担をかけたくない、できるだけ環境に負担をかけたくない。こうした会社の考え方を知っていただきたいので、主力商品とは違ったモノでお伝えすることができればと。そのひとつが、傘だったわけです。

土肥: ふむふむ。

真柄: ビニール傘を使い捨て感覚で買われれる人って多いですよね。「ポキッと」はできるだけ長く使っていただきたいと思っているので、「大量生産」「低価格」で販売してもなかなかこちらの“想い”は伝わらないかなあと。コンビニやドラッグストアなどで販売すると、ひょっとしたらいまよりも2~3倍売れているかもしれません。もちろん、そうしたところで販売するのがダメというわけではありません。ただ、現時点で「ポキッと」の認知度は高くないので、コンビニなどで販売すると、ビニール傘と同じように使い捨て感覚で購入される人がいるかもしれません。「また、新しい傘が出たのね」といった感じで。

土肥: 雨が降ったとき、どうするか。多くの人はコンビニや駅の売店などで購入する。しかし「ポキッと」は、まず郵便局で販売した。雨が降ったとき、傘を買うために郵便局に行く人はほとんどいませんよね。いま、傘が必要だから買うのではなく、「この傘を使えば、安全そうだね」「環境にもよさそうだね」と感じて、じゃあ、買おうかという人が多いのかも。

真柄: 雨の日ではなく、晴れの日に選んでもらえる傘になってもらいたいですね。

(終わり)