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JALのチャットボット「マカナちゃん」に学ぶ、AI活用の“肌感覚”

2017/10/30(月) 13:09配信

ITmedia ビジネスオンライン

 AI(人工知能)が目覚ましく発達し、既存のビジネスを大きく変えることが期待されている。だが、実際にAIのどのような点が優れているのか、業務上のどのような課題を解決できるのかといった具体的なメリットが分からないとの声も多い。

【画像】「マカナちゃん」第1弾の利用イメージ

 また、現場側がAIを使ったビジネスを提案した場合でも、経営側から「どんな利益が得られるのか」「ビジネスがどう発展するのか」などの疑問を呈され、実務への導入に至らないケースもあるという。

 こうした状況下で、企業はどうすればAIを効率よく実務に導入し、既存のビジネスを変革できるのだろうか――。ソフトバンクと日本アイ・ビー・エム(IBM)が共催したイベント「AI Business Forum」内のセッション「JAL×IBMで描くBtoCコグニティブ戦略 Watsonで実現する新しい旅の提案へ」を取材した。

●「まずやってみること」が肝心

 日本IBMのコグニティブ・システム「Watson」を活用したチャットボットサービス「マカナちゃん」を開発・提供し、顧客満足度の向上に成功した日本航空(JAL) Web販売部の岡本昂之主任によると、「AI導入のコツは『まずやってみること』と『小さく始めて、大きく育てること』の2点」という。

 「世間では『AIを活用することを目的にビジネスをしてはいけない』『目的を実現するものがテクノロジーだ』という指摘をよく耳にするが、私はAIを活用することを目的に新規事業を始めても問題ないと考えている」(岡本主任、以下同)という。

 岡本主任が手掛けるのは、Webサイトでの航空券のマーケティング。Webサイトのユーザビリティ向上や効率の良い顧客獲得策を立案するのが業務上のミッションだ。

 近年のトレンドを踏まえ、岡本主任もAIを活用して業務を効率化したいと考えた。ただ、AIに対する漠然とした知識はあっても、その具体的な活用法は分からなかったという。

 「AIに何ができて何ができないのかといった“肌感覚”が曖昧だった。だが、まずは自分で体験してみないと何も始まらない。幸いにもJALはチャレンジを受け入れてくれる環境が整っていたので、『まずやってみよう』と、AIに対する高いリテラシーを持たないまま日本IBMとWatson導入に向けたミーティングを設けた」

 「ミーティングの結果、まずは実証実験と割り切り、Watsonがどう学び、どう動くのかを知ることで自分たちのリテラシーを向上させることにした。ただ、AIに大量のデータを学習させ、全ての顧客に有用なサービスを生み出す――といった大きな目標を掲げると、膨大な資金と情報が必要になり、実現が難しいと考えた」

 そこで、Watson導入のテーマを「B2C(消費者向け)サービスへのAI活用」に限定し、「顧客とのタッチポイントにAIを導入した場合、ビジネスにどんな影響があるのかを知る」という明確な目的を設けた。

 「サービスは段階を追って発展させる方針を採用した。第1弾は投資額を最少に抑えて対象範囲をできる限り絞り、結果を踏まえて第2弾以降で大きく育てることにした」

●ユーザー層を限定してスモールスタート

 サービスの内容は、コールセンターに蓄積された問い合わせ情報を生かせるFAQ(よくある質問への回答)とした。ターゲットとする顧客を「ハワイ旅行を検討している赤ちゃん連れの家族」に絞り、「機内で赤ちゃんが泣いた場合の対処法は?」「現地でベビーカーをレンタルできますか?」といった質問に回答するものに決めた。

 こうした経緯で生み出されたのが、Watsonを活用したチャットボットサービス、マカナちゃんだ。開発に要した期間は16年6月~11月の5カ月間。コールセンターから収集した1000件の質問と、それに対する100件の質問をWatsonに学習させ、開発を始めてから半年後、16年12月にリリースした。

 「ユーザーのペルソナを絞り込んだことが開発にスピード感を生んだ。サービスの規模に合わせて、『すごいサービスができました!』というトーンではなく『ちょっと使ってみてよ』というトーンで発表した」

 サービスの提供期間は17年1月までと短期間だったが、提供中はユーザーとマカナちゃんのやりとりを蓄積してWatsonを教育し、より幅広い質問に対応できるようにした。

 その結果、未学習の質問に対する正答率が約6%向上。学習済みのものを含めると、約5000パターンもの言い回しに対応できるようになった。ユーザーの満足度は7割以上が「満足した」で、「不満」は17%にとどまっていた。

 「第1弾のサービスはユーザーに親しみを持って使っていただくことができ、ビジネスとしての実用レベルに達していることが分かった。ただ、いつまでも実証実験をやっているわけにはいかないため、本格導入に向けてすぐさま改良に取り組んだ」

 そこで、17年5月から第2弾の開発に着手。対象範囲を「ハワイ旅行を検討している全ての人」に広げ、7月末からサービスを開始した。

●TripAdvisorやSNSとの連携で充実度向上

 第2弾の特徴は、コールセンターの問い合わせ情報だけでなく、米TripAdvisorが手掛ける旅行口コミサイト「TripAdvisor」と連携したことだ。飲食店などの情報をWatsonに学習させることで、ハワイ旅行中のユーザーが旅先で「○○が食べたい」などと話しかけると、適切な店舗を「マカナちゃんのおすすめ」として列挙できるようにした。

 TwitterやFacebookのアカウントでのログインにも対応。ユーザーがSNSログインを許可した場合、Watsonが過去のテキストでの投稿を読み込み、価値観やニーズを分析。結果に応じてマカナちゃんが「慎重派」「計画派」「楽天家」――など9タイプに変身し、タイプによって提供する情報や会話の内容が変化する仕組みを設けた。

 「第2弾は単なるFAQにとどまらず、ユーザー個人のニーズに応えることにフォーカスした。その結果、月間利用者数は第1弾の2.5倍に成長。SNSログイン率も40%以上と高かった。ハワイ旅行に行かない人が興味を持って利用するというケースもみられ、一定の成果が得られた」

 今後はさらにアップデートを加え、第3弾を年内にも提供する予定だ。「詳しくは話せないが、画像認識技術を導入し、写真や画像を活用したコミュニケーションに対応する。『Instagram』の人気ぶりを踏まえたサービスだ」という。

●AIには強みと弱みがある

 当初は「AIの“肌感覚”が分からなかった」という岡本主任だが、約1年間にわたってマカナちゃん開発プロジェクトに従事したことで、AIのビジネス活用に対する認識はどう変わったのだろうか。

 岡本主任は「AIには強みと弱みがあることが分かった。Watson単体ではサービス内容の充実が難しい面もあったが、外部のサービスと連携することで価値を最大化できた。今後はJALの顧客情報などとの連携も視野に入れ、より顧客満足の高いサービスの開発を目指したい」と説明する。

 「現段階では一連の取り組みに手応えを感じている。これからも楽しみながらマカナちゃんを育てていきたい」と話している。