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新規参入が「モノはいいけどサポートは残念」になる理由

10/31(火) 8:05配信

ITmedia PC USER

連載:牧ノブユキのワークアラウンド(PC周辺機器やアクセサリー業界の裏話をお届けします)

 あるジャンルでは名の知れたメーカーが、それまで手掛けていなかったジャンルの製品を、ある日いきなりまとめて投入することがある。また、これまで名前を聞いたことがない未知のメーカーが、他社も真っ青の充実したラインアップの製品群を一気にドンと投入し、驚かされることもある。

 利用者の立場からすると、これらがどれだけ魅力的かつ安価だったとしても、過去の実績がないぶん、本当にきちんと使えるのかどうか不安なものだ。前者の場合、本業が不調なので博打(ばくち)に打って出ただけかもしれないし、後者の場合だと、何よりもそのメーカーの素性が明らかにならないと、なかなか手が出しづらい。白物家電やPC周辺機器のように高額な製品ならなおさらだ。

 もっとも、こうしたラインアップが一斉に発売されるパターンは、いったん店頭に並んでしまえば、一定の成功を収めることが多い。しかしその後、軌道に乗ってからしばらくたったタイミングで、急速に評判を落とすケースがあるのも事実だ。今回はPC周辺機器やアクセサリーなどのメーカーを例に、そんな裏事情を見ていこう。

●新規ジャンルは経験者によって立ち上げられる

 既に名が知れたメーカーが新規ジャンルに乗り出す場合も、あるいは新たに立ち上げられたメーカーがラインアップを引っ提げて参入する場合も、全く経験も知識もない中で新規ジャンルに参入するほど無謀ではない。よくあるのが、過去に同業他社でそのジャンルを手掛けた経験のあるスタッフが中心になり、別の会社でそのジャンルを立ち上げるパターンだ。

 明確に新規ジャンルを立ち上げる意図を持って他社から人材をごっそり引き抜く場合もあれば、たまたまそのような人材が中途採用に応募してきたことが、新規ジャンル参入のきっかけになることもある。さらに冒頭に述べたように会社ごと興す例もあるが、どの場合も、それまで第一線でバリバリやっていて現場感覚が豊富なだけあって、ポイントを外すことはまずない。

 もしその人が開発担当であれば、製品の設計や製造にあたってのポイントは熟知しているし、外注先の工場を使う場合はそのキャパや、海外業者であればコミュニケーションが問題なく成立するか、技術レベルは一定以上か、といった点も把握できている。それだけに、品質面で大きなミスを犯す可能性は極めて低い。

 製品ラインアップについても前職時の反省を生かし、売れ筋を中心とした回転率が高い製品が中心になる。またその担当者が販促や営業戦略にもまつわる知見があれば、パッケージのデザインや販促ツール、広告展開、さらには拡販のためのキャンペーンなど、隅々に至るまで前職の経験が生かされたものになる。いわば前職が壮大な実験場になっているわけだ。

 特に、前職で不遇をかこっていたか、あるいは首切りなどにあって不本意な退職の仕方をしていたところに一定の権限を与え、かつ期待の言葉をかければ、前にいた会社への反骨心と合わさって、普通では考えられないようなパワーを発揮することも少なくない。こうした効果を期待して、別会社からチーム単位で引き抜くケースもある。

 また、こうした開発スタッフを中心としたチームに、営業を担当していたスタッフが加わると、古巣メーカーのシェアを一気にひっくり返すことも現実的に起こり得る。彼らは古巣メーカーの原価率や販路、さらには販売店の意思決定のキーマンは誰かといった、第一線にいた人間しか知り得ない情報まで把握しており、販売店と既に信頼関係ができているので、売り込みを行うにもスムーズだ。

 さらに、古巣が応えられずに放置されている要求を飲むことで、売場を丸ごとひっくり返すこともよくある。例えば、販売店が新店オープンやボーナスセールなどを理由に要求してくる多額の協賛金を、のらりくらりとかわしているメーカーは多い。それを利用して「ウチなら協賛金を言い値で出します。その代わり他社の売り場をうちに丸ごとください」とやるわけである。

 販売店のバイヤーとしても、予想していなかった相手からいきなり数十万、規模によっては数百万もの協賛金がドンと入ってくるのだから、こんなにおいしい話はない。最初のうちは製品の品質やサポート体制への不安もあるものの、売り込みに来ている営業マンは以前からの顔見知りとなれば、不安も少ない。取引口座の開設にこぎつけさえすれば、ラインアップの一斉導入も容易というわけだ。

●「前の会社と同じやり方」が引き起こすトラブル

 もっとも、こうして順調な船出を切ったのもつかの間、かなり高い確率で失敗に結び付く、お決まりのパターンがある。それは主に、会社の事業規模に依存する問題だ。

 ここまで見てきたような、あるジャンルの経験者が新規事業を立ち上げるパターンの多くは、自ら会社を興すケースを除けば、大企業から中小企業への転職が前提になる。そこで「前の会社ではできていたのだから、今回もできるだろう」と思い込んでビジネスを進めることで、思わぬトラブルを引き起こすわけである。

 典型的なパターンを2つ挙げよう。1つは店頭系の営業で起こりがちな問題だ。同じ販売店に出入りする営業マンでも、大手メーカーと中小メーカーではやっていることは大きく異なる。大手はバイヤーへの提案活動が中心で、雑務は新人やバイトにやらせることが多い。製品のジャンルも細分化されており、自分が担当しているジャンルに絞って提案が行える。

 一方、中小の場合、新人やバイトに振るような雑務も1人で行わなければならず、朝から晩まで返品処理などに追われ、提案活動がままならないケースが多い。また1人の営業マンが全ジャンルをカバーしなくてはならず、場合によっては店頭系と法人営業を兼務していたりするので、彼らに新ジャンルの製品を売り込んできてくれと頼んでも、遅々として導入が進まないことがよくある。

 大手メーカー時代に第一線でバリバリやっていた営業マンが陣頭指揮を取り、何とか店頭に製品を導入することに成功しても、このような営業体制なので、販売後に何らかのトラブルがあった場合の対応は、どうしても後手に回りがちだ。結果として「売ることには熱心だが、その後のサポートは大手に比べて雑」という、ありがちなスタイルが出来上がる。

 もっとも、これはまだマシなほうで、中には開発側のスタッフが巻き込まれるケースも出てくる。法人系のセールスでは、客先で何らかのトラブルがあった場合、専任の営業マンがまず現場に足を運んで原因の切り分けをし、必要な場合のみ技術的に詳しい本社の開発スタッフなり、サポート部門に解決を依頼するのが一般的だ。

 しかし中小だとそうはいかない。新規のジャンルで何らかのトラブルが発生すると、そのジャンル専任ではない中小の営業マンは原因の切り分けすらできず、「この製品は詳しくないから開発に対応を任せよう」と丸投げしてしまう。結果、何かトラブルが起こる度に開発スタッフは本業そっちのけで全国を飛び回る羽目になり、開発のスピードは遅延する。

 もちろん「それはわれわれの業務ではない、営業側で対応してくれ」と突っぱねることも不可能ではないが、そうなると営業がそのジャンルの製品を積極的に売らなくなりかねないので難しい。中小ではどの製品に注力するかは、営業マンの裁量に委ねられる部分が大きいからだ。結果、営業も開発もモチベーションが下がり、おまけに客先からは動きが遅い、サポートが悪いと揶揄(やゆ)されることになるわけだ。

●「モノはいいけどサポートが……」を回避するには

 以上のように、よい製品を安価に作ることができても、それを支える販売、およびサポートの体制が不十分なことから、「モノはいいけどサポートが……」といった評判が出るようになるのが、新しいジャンルに乗り出したメーカーによくありがちなパターンだ。

 もちろん会社自体が負けず劣らずの大手で、営業もサポートも新しいジャンルをすぐさま受け入れる余地があり、問題が起こらないこともあるが、そうした例はまれだ。特に、新ジャンルを任された責任者がこれまで1つの会社でしか働いていない場合、最初の会社のやり方が当たり前という勘違いから、こうしたミスを犯しがちだ。

 従ってユーザーとして、新興メーカーから発売された製品について検討するときは、たとえ品質や機能、価格などの評判がよくとも、購入後のサポートを要する製品については、より慎重になる必要がある。口コミなどでアフターサポートの評判を確かめるか、あるいは製品サイクルが1周するまではそのメーカーの製品は見送ることが、せめてもの自衛策となるだろう。

最終更新:10/31(火) 8:05
ITmedia PC USER