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なぜ今“SIM替え”なのか 新生「BIGLOBEモバイル」の狙いを聞く

10/31(火) 18:42配信

ITmedia Mobile

 早くからMVNOに参入し、“老舗”の1社といえるビッグローブだが、NECから投資ファンドに売却されるなど、事業環境は決して順風満帆とはいえなかった。一方で、いち早くGB単価を下げて料金競争を仕掛けたり、「ほぼスマホ」としてSIMカードと合わせて端末の提供を始めたりと、業界の中では先進的な取り組みも目立つ。カウントフリーを組み合わせた「エンタメフリー・オプション」も、同社の売りの1つだ。

エンタメフリー・オプションが付いている「エンタメSIM」

 そんなビッグローブが1月にKDDIの子会社となり、ブランドを一新した。シンプルな書体のロゴを採用するとともに、MVNO事業のブランドも「BIGLOBEモバイル」と命名。10月にはKDDIのネットワークを借りた「Aプラン」も開始し、同時期にはテレビCMの放映も始めた。テレビCMでは「SIM替え」を訴求。手持ちの端末そのままでBIGLOBEに移れば、料金が下がることをアピールしている。そんな新生BIGLOBEの戦略を、有泉健社長が語った。

●端末を長く使いたいという人が増えてきている

―― なぜ今、SIM替えをあらためてアピールしているのでしょうか。その理由を教えてください。

有泉氏 マーケットの中で、端末を頻繁に変えるというより、長く使いたいという方が増えてきているからです。チップの性能が上がってきたこともあり、その傾向は強くなっています。これは、街頭調査でもネット調査にも出てきています。

 SIM替えはマーケットのトレンドに関わらず一定の率でありましたが、マーケット自体が大きくなることで、その数は増えてきます。環境的には、SIMロックの解除が必須になりました。2年で端末の更新を迎える方は、この仕組みに乗れば、端末はそのままでSIMだけを変えることができます。この成長に注目しました。

 もっとも、これは以前からあったものですが、お客さまの嗜好(しこう)の変化を捉えながら、あえてもう一度、SIM替えというところから再出発させていただきたいという思いがあり、そこを狙っています。テレビCMでSIM替えと同時にもう1回BIGLOBEのことを認知していただきたい。そこで使えるサービス、商品としてこれまでになかった「エンタメSIM」も出しました。

 このようなお客さまのペインとウォンツに応えるものをセットにすることで、新しいBIGLOBEを認知していただきたいというのが、CMの趣旨でもあります。

―― 一方で、KDDI傘下には、既にUQ mobileやJ:COM MOBILEといったMVNOがあります。こことは、どうすみ分けていくのでしょうか。

有泉氏 auの料金体系のレイヤーが1つあり、UQ mobile、J:COM MOBILEの料金体系があり、その下にわれわれがあり、意識としては、3層で嗜好や意向に応えられるようにしていきたいということがあります。BIGLOBEはSIM替えというパターンで、SIMにひも付く形で差別化して、いろいろな嗜好のお客さまを取り入れていきたいですね。結果として、グループ全体でお客さまを増やしていければと考えています。

―― 確かにUQ mobileのようなキャリアだと端末もセットで買う人が多く、SIMカードのみというのはあまりないかもしれません。

有泉氏 この色は、なかったと思います。自分の端末そのままでというのが、これからは強いのではないでしょうか。今回はキャッチ―に(CMで)「シムシム」と連呼することで、お客さまに意識してもらうことを狙っています。

―― とはいえ、まだ自分のスマートフォンでMVNOのSIMカードが使えることを知らない、SIMロック解除の方法が分からないという人もいます。ここはどうフォローしていくのでしょうか。

有泉氏 Webに来ていただければ、SIM替えできるかどうかを明示することはしゃくし定規にやっていますが、もう少しベタに感じていただくために、ご自宅を訪問して、SIM替えから開通までをお手伝いするというサービスをやっています。

 もう1つはスマホ教室で、これは全国でやりたいと考えています。弊社社員が現場に出て、お客さまと直に触れ合う。スマホだけでなく、PCやWi-Fiが分からないという方がいたとしても、それらを全て包含する形で、ビッグローブに聞けば済むようにしてきたいですね。そんなことを、10月か11月からスタートさせようと考えています。

●ロゴやブランドを刷新した理由

―― CM開始から2週間ほどたちましたが、効果はいかがでしょうか。

有泉氏 SIM替え編と逃亡編があり、最初にSIM替えをハイライトし、逃亡編ではエンタメSIMをハイライトしています。結果、ネットの声やWebへの来訪者もデーリーで上がっています。実際に使っていただけるという意味では、獲得の単位でも勢いが出てきています。

 SIM替えだけだと商品に直結させるのは難しいところですが、エンタメSIMのように、お客さまが欲しいと思っていた、通信制限に対するわれわれの回答が受け入れられた結果だと思っています。まずはBIGLOBEを意識していただくところからですが、これから打ち出すのは商品やサービスになっていきます。

―― 同時に、ロゴやブランドも刷新しました。これの理由を教えてください。

有泉氏 テレビCMと同時にコーポレートロゴを変えましたが、これはコーポレートアイデンティティーからすると非常に大きなことです。BIGLOBEを選んでいただいた方の55.2%が、信頼や安心をその理由に挙げていますが、これは揺るぎないベースバリューです。この価値はずっと提供し続けたい。ただ、変えなければいけないところもあります。

 信頼品質を培ってきたこと。これは変えてはいけませんが、これからの社会、生活の中で生き残っていくために必要なのは、新しい価値をどれだけ提供できるかです。KDDIにいたときからずっとこの文化で生きてきましたが、差別化は、お客さまの体験を通して得られるものがどれくらいいいものなのかで決まってきます。これは商品もそうですし、コールセンターなどの顧客接点もそうです。

 BIGLOBEにも、ベースバリューを失うことなく、新しい価値を重畳してく事業ビジョンがあります。変わるという意思表示をして、社員に意識を持ってもらうとともに、同じメッセージを社外のお客さまにも示し、この事業ビジョンの下でやるという意思表示を示したものがCMになります。もう1つ、11年間培ってきたロゴを刷新することで、BIGLOBEは変わるということを示したかった。

 事業の中には固定とモバイル、バリュー、法人がありますが、第1弾としてはモバイルにフォーカスし、BIGLOBEモバイルというサービスブランドも新たに打ち出しました。これまで、BIGLOBEには格安SIM、格安スマホ、BIGLOBE LTE・3Gなどがあり、ブランドがバラバラでした。今回はブランドを変更する中で、モバイルも単一のブランドで展開していくことを決め、LTEも3GもBIGLOBEモバイルとひとくくりにすることにしています。

●Aプランを提供する狙い

―― CM開始後に、au回線を使ったAプランを発表しています。これは、間に合わなかったのでしょうか。

有泉氏 リリースのタイミングが間に合わなかったという、悲しい事情があります。タイミングとして、どうしても9月中にCMの話とコーポレートロゴの打ち出しをしたかったので、大変申し訳ないのですが2段階になってしまいました。

―― このAプランのメリットをあらためてご説明ください。

有泉氏 今までのドコモのMVNOに加え、auのMVNOを出す狙いには、SIM替えを広げたいということがあります。お客さまにとってはドコモもあればauもあるというように、選択肢を広げています。ただし、料金面で差別化することはせず、同じタリフ(料金体系)で、好きな方を選んでいただけるようにしています。

―― ドコモとKDDIでは接続料に差があると思いますが、この差は御社がかぶっているということですか。

有泉氏 はい。サービス料金は統一で使っていただけるようにするという方針です。

―― これまでのDプランと、新たに始めたAプラン、どちらを推していくご予定でしょうか。やはりグループとして、Aプランに力を入れていくことになるのでしょうか。

有泉氏 正直、どちらを選んでいただいてもうれしいというのが、基本的なスタンスです。

―― ユーザーの選択に委ねるということですね。一方で、Aプランをauユーザーが選ぶと、KDDIグループ全体としてはARPUが下がってしまうことになります。

有泉氏 確かにMVNO事業全体のパイが増えていくことで、収益状況は下がっていきます。ただ、もう1つ考えなければいけないのは、グループの中で、お客さまの数を維持、拡大するという考え方があることです。au本体とJ:COM、UQとBIGLOBEで、お客さまがチョイスできるメニューを持ち、幅広く趣味嗜好に応えられるようにして、IDを拡大していくという方針もあります。

 (BIGLOBEは)SIM替えという嗜好に応えるメニューと、低料金ながら、通信制限などのペインを同時に解決するものをセットにしたエンタメSIMという2つで、グループの中でも、他にはない色を付けています。これも、全てのレイヤーで、お客さまを増やしていく取り組みの1つですね。

●格安SIMのペインを解消するエンタメフリー・オプション

―― そのエンタメSIMの反響はいかがでしょうか。

有泉氏 通信制限がペインになっているというのは、いろいろな調査結果で出ていることで、BIGLOBEとしては、エンタメフリー・オプションという形で2016年11月にリリースしていました。その後、いろいろなメディアで紹介されたこともあり、認知が広がって、お客さまの数が日に日に伸びているという状況がありました。

 全体のマーケットの中での比率は申し上げられませんが、今回のCMがあったことで、それに重畳する形で上がってきています。オプションという形で提供しており、認知も広がっていましたが、その想定よりもかなり速い立ち上がりです。「エンタメSIMって何?」と思ってサイトに来ていただき、メリットがあることを知っていただけるお客さまが増えています。

―― 同じカウントフリーでも、他社だと特定のサービスの通信料が無料になることをアピールしていますが、BIGLOBEの場合はあくまで通信制限がかからないというスタンスで、方向性が異なります。これはなぜでしょうか。

有泉氏 ペインとなっているポイントをどう突くかの話です。動画の視聴はYouTubeやAbemaTVなどを皆さん、よく見られていますが、1時間でかなりの容量を消費してしまい、その恐怖感が大きい。それに対する回答としては「気にしなくてもいい」ということです。

 もちろん、全ての動画はカバーできていませんが、YouTubeという代表的なメディアを取り扱っている。YouTube、AbemaTV、U-NEXTであればカバーするというのが、ウォンツに対する1つの回答で、これは第1弾としてやっています。

―― エンタメSIMは、オプションに別途入るよりも安くなり、ちょうど1980円という価格になりますが、これはサブブランドの価格設定を意識したのでしょうか。

有泉氏 意識したところもあります。ただ、そこで動画が見放題になるというところは、われわれの付加価値ですね。

―― LINEモバイルなどと比べたときのメリットは、動画も含め、対応サービスが広いことでしょうか。

有泉氏 そうです。逆に、われわれにはSNSのフリーがありませんが、まずはペインになっている動画や音楽も含めたゼロカウントをやっていくという方針です。動画、音楽などを中心に、日本人の好むメディアを一大フィーチャーしました。

―― 動画については、解像度を落としているといいますが、720pで再生するのは難しいのでしょうか。

有泉氏 そうですね。360p、480pぐらいで持続させるようにしています。画面が大きくなってくると厳しくなるのはご指摘の通りで、あくまでもスマホ用に最適化しています。

●トラフィック制御で高品質と低価格を両立

―― 発表会では、トラフィックコントロールで品質を上げていくというお話もされていました。この仕組みを、もう少し詳しく教えてください。

有泉氏 発表会では動画の例で説明しましたが、これは全てに対して同じ考え方でやっています。MVNOは帯域が限られた中、一方でお客さまに対して品質を落とさず提供する使命がある。それは非常に難しいことですね。TCP/IPで成り立っているので、混んでくると再送が起こり、その再送が最終的には輻輳(ふくそう)を引き起こしてしまう。根本的な解決方法は帯域を広げるしかないのですが、MVNOはいろいろな面でそれが厳しい。そこで、インターネットの中で培った、トラフィックコントロールの技術を導入しました。

 動画だと一番分かりやすいのですが、YouTubeなりをクリックしてスタートすると、最初は広く帯域を取り、データを一気に読み込ませてバッファリングします。ある程度再生できるところまで読み込んだら、その後は、一定の画質で流れる程度まで帯域を絞り込みます。絞ったうえで、コンテンツを走らせるわけです。これによって、他のお客さまが使える帯域が広がることになります。そのままいくと、状況によっては品質を維持するのに帯域が不足することもあるので、悪くなったことは常時ウォッチして、再生不可のシグナルをもらうと、再びウィンドウサイズを広げてデータを読み込みます。

 このように帯域をダイナミックに広げたり狭めたりすると、ある人は高い、ある人は低いという状況が混在するようになります。フルに帯域を取っておかなくても、この技術があれば、品質を担保したうえで料金も抑えることができます。

―― コンテンツに最適化しているということですが、スピードテストのような数値には表れづらいところですね。

有泉氏 ダウンロードのスピードもコントロールしてしまうので、よくならないですね。無駄なパケットを使わないようにするというのが基本です。そのため、確かにスピードテストやダウンロードの速度をウォッチしていくと、BIGLOBEは遅いという評価になってしまいます。そのベンチマークだと非常に厳しいのですが、私たちは、お客さまに対して提供する体感上の品質が重要だと考えています。そのため、再生が速いだとか、キレイで途切れないだとか、そういったものをベンチマークとして重視しています。スピードテストについては、MNOと戦ってもしょうがないので、実を取りに行く方針でやっています。

―― KDDIグループということで、Aプランの方だけ、スピードを速くするということはできないのでしょうか。

有泉氏 事業の中で、まだここ(MVNO)だけがブレークイーブンになっていません。一方で、お客さまの数の拡大も同時にやっていかなければならない。(総)帯域的には、今のドコモさんでやっているよりも絞った形で、テクニックを駆使しながら体感品質をキープしながら、低コストでやっていかなければならない経営課題もあります。(グループだからといって)無制限に広げるという判断までは行っていません。ただし、お客さまは増えていくので、その都度広げることはしています。

●KDDIグループとしての取り組みは?

―― よりSIM替えしやすくなるという意味では、3社コンプリートしていた方がいいと思いますが、いかがでしょうか。

有泉氏 まずはドコモとau、2つのキャリアに対応し、これでしばらくお客さまの評価を待とうかなと思っているところです。

―― 一方で、BIGLOBEといえば、早くから端末にも取り組んでいました。この点は、どうお考えでしょうか。

有泉氏 業界でほぼトップクラスの品ぞろえで、その路線を変えたわけではありません。お客さまが自分の端末を長く使いたいというところを捉えて、まずはSIM替えをハイライトしましたが、今後も端末は続々と出てきます。もちろん、コンシューマーだけでなく、法人もにらんでいます。

 過去には時計型の端末も出していましたし、SIMでのIoTというニーズは厳然としてあります。その時計型の「BL01」は3Gモデルなので、そのLTE版も検討しようかと考えているところです。

―― お話をうかがっていると、KDDI色があまり出ていないようにも聞こえました。

有泉氏 BIGLOBEとしてこれまでの生き様もありますし、そのBIGLOBEについてきてくれているお客さまもいます。親会社からの期待として、まずはそのブランドを磨き切ってくれというのが、私が言われてきたことです。結果としてお客さま基盤を大きくすることで、それが連結のグループにも跳ね返ります。まずは色を出すというより、磨くことをやっていきたいですね。

 その中でも、KDDIグループのアセットの中に、これはというものがあれば積極的に取り上げていきたい。例えばKDDIの中には研究所があり、先進技術も持っています。法人マーケットでいえば、プライバシーとセキュリティに帰着しますが、中にはBIGLOBEにない技術もあります。そういったものは積極的に取り入れていけば、他にはない「サムシング・ニュー」や「サプライズ」を作っていけると思います。

●取材を終えて:付加価値競争が鍵を握る

 ブランドを一新して、テレビCMを開始するなど、立て直しを急ぐBIGLOBE。KDDI傘下のMVNOとしてAプランも用意し、ユーザーの選択肢も豊富になった。UQ mobileやJ:COM MOBILEとは異なるニーズに応える戦略も、合理的といえるだろう。ただ、単に低価格なだけだと、他のMVNOとの価格競争に巻き込まれてしまいかねない。これについては、エンタメSIMのような付加価値競争が鍵になりそうだ。インタビューにもあったように、エンタメSIMは、あくまで第1弾とのこと。新生BIGLOBEが、次にどのような手を打ってくるのかも期待したい。

最終更新:10/31(火) 18:42
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