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焦点:欧州は次の「トランプ爆弾」警戒、イランショックに衝撃

10/31(火) 10:41配信

ロイター

Noah Barkin

[ベルリン 27日 ロイター] - トランプ米大統領が今月、イラン核合意の破棄を示唆したことに衝撃を受けた欧州各国は、次に同大統領がどのような行動に出るのか頭を悩ませている。

外交官らは、貿易戦争や北朝鮮を巡る軍事衝突、冷戦時代に締結された軍縮協定の崩壊など、欧州と米国の関係が危機に陥りかねないシナリオを思い描いている。いずれかが実際に起きた場合、第2次世界大戦後の同盟関係を、継続することが可能なのかを彼らは危惧している。

トランプ政権が9カ月前に誕生してから、独仏英の政府は、トランプ発言に対する警戒心と、同政権の「大人」たちや同盟諸国からの圧力によって、最悪な事態を招きかねない同大統領の衝動は抑えられるという不確かな感覚とのあいだで揺れ動いている。

だが、マクロン仏大統領、メルケル独首相、メイ英首相が直接訴えたにもかかわらず、トランプ大統領がイラン核合意の順守を否認したことは計算違いだった、と外交官や政治家、専門家らは口をそろえる。

大きくて持続的な関係崩壊の懸念を抱くことなく、欧州がトランプ大統領の残りの任期3年を切り抜けられるという自信はもはや消え去った。緊張が高まった場合、トランプ大統領が側近や同盟国に耳を貸すという確信もない。

とりわけドイツの不安は大きい。特に防衛・安保問題において、フランスや英国に比べ、米国に対する依存度が高いからだ。

「ドイツ政府は絶望感を抱いている。トランプ氏が何が問題なのか分かっておらず、歴史的要因を理解していないという懸念がある」と、元駐米ドイツ大使のウォルフガング・イッシンガー氏は指摘。

「欧州と米国の関係は信頼が全て。その意味では、イランに関する(トランプ氏の)決定は、われわれを新たな段階へと進ませた。信頼を裏切る行為だ」

<信頼崩壊>

イランによる核合意の順守を認めないとするトランプ大統領の決断は、必ずしも同合意の破棄を意味するものではない。その決断は米議会次第であり、同議会はイラン政府に新たな制裁を科すかどうかを決めなくてはならない。

だが、画期的な外交的成果が著しく損なわれたというのが、欧州におけるほぼ一致した考えである。

メルケル首相は5月、欧州は米国を頼れず、自らの運命は自らの手で握らねばならないと述べ、信頼の崩壊を示唆した。

この直前に、伊シチリア島で開催された主要7カ国(G7)首脳会議で、トランプ大統領は、新たな気候変動の枠組みである「パリ協定」にとどまるよう求める同盟諸国からの訴えを拒否していた。

その後、選挙とそれを受けた連立政権樹立に忙しいメルケル首相は、欧州と米国との関係やトランプ氏について、ほとんど語っていない。

一方、フランスのマクロン大統領は、革命記念日の祝賀式典に招待するなど、トランプ大統領に対して最大限のもてなしをしている。2人は先月、国連でも会談している。

「(トランプ大統領の)考えを変えることを諦めてはいない」と、気候変動とイランを巡るトランプ大統領の姿勢について、マクロン大統領はニューヨークでこう述べた。

しかし、イラン核合意の否認は、米国政府が今後さらに破壊的な「爆弾」を一斉に落とす前兆かもしれない、と欧州当局者らは懸念している。

次は通商を巡って衝突が起こる可能性が高く、トランプ大統領が再交渉し、破棄する構えも辞さない北米自由貿易協定(NAFTA)が「試金石」だと、欧州のある上級外交官は語った。

NAFTAが崩壊すれば、欧州企業、とりわけメキシコで生産し米国に輸出しているドイツの自動車メーカーは大きな打撃を受ける可能性がある。

また、トランプ大統領が鉄鋼製品への関税を導入するなら、中国だけでなく欧州の輸出企業も直撃を受けることが懸念される。

「これまでのところ、トランプ氏は通商について、いろいろと吠え立ててはいるが、まだ噛みついてはいない。だからといって、ずっとそのままでいるという訳ではない」と、この欧州外交官は話した。

「極めて保護主義的な措置に対する心構えが必要だ。欧州企業に対して、直接的もしくは間接的に不利益を与えるいかなる措置も、負のスパイラルをもたらすだろう」

<反米主義>

もう1つの懸念分野は北朝鮮である。朝鮮半島で軍事衝突が起きた場合、欧州内の反応は「イラク戦争と同じくらい混乱」しかねない、とドイツのシンクタンク「国際公共政策研究所(GPPI)」のソーステン・ベナー所長はみている。

欧州世論は、そのような衝突において、米国を侵略者と見なしかねず、そうなれば反米感情は高まり、欧州の指導者がトランプ氏を支持するのを困難にさせ、いかにそれが非現実的であろうと、米国と袂を分かつことを求める声が一段と高まることになりかねない。

「当面はトランプ氏に向き合わねばならず、同氏が去っても(関係が)修正されないかもしれないという事実に目を向けるべきだ」と、ドイツのある外交官はロイターに語った。「これは現実に存在する問題で、対処しなくてはならないということを、人々はまだ理解していない」

こうした反米感情を懸念して、ドイツを拠点とする外交政策専門家ら約10人は今月、トランプ氏を理由に米国に背を向けるドイツ政府に警鐘を鳴らす声明を発表した。

前出のイッシンガー元大使もこの声明に賛同しており、対米関係がさらに悪化しかねないことを懸念している。

イッシンガー氏が抱く最大の懸念の1つは、1987年に当時のレーガン米大統領とゴルバチョフソ連大統領のあいだで調印された中距離核戦力全廃条約が破棄されることだ。米ロは同条約に違反しているとして互いを非難しており、ゴルバチョフ氏は今月、同条約が危機的状況にあると警鐘を鳴らした。

同条約が破棄されれば、欧州での核兵器装備を巡る1980年代の対立的な論争に再び火を付け、欧州と米国の関係に壊滅的な結果をもたらしかねないとの見方をイッシンガー氏は示した。

「政治的に言えば、大混乱が生じかねない」と同氏は語った。

イッシンガー氏によれば、ドイツの各世代にとって、米国との同盟関係を表すシンボルは、ジョン・F・ケネディからレーガンまで、そしてビル・クリントンからバラク・オバマまでの米国大統領である。

「自分の子どもたちに、ここにトランプ大統領との同盟関係が加わるとは言えない。悲しいことだ。このシンボルの喪失がどのように置き換えられるか、私には分からない」

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

最終更新:10/31(火) 10:41
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