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路上生活者が見せる踊り、体に刻まれた歴史生かして 東京

2017/10/31(火) 21:32配信

AFPBB News

【10月31日AFPBB News】冷たい地面にはだし。拳を握りしめ、激しく体を動かし、着の身着のままで踊り始める姿に、道を行き交う人が足を止める。みると、少しくたびれたTシャツにジャージー姿の男たち。おどけた表情で体を大きく揺さぶる人、宙を舞うように軽やかなステップを踏む人、首を傾げながら全身をひねる人、じっとたたずむ人──。

 体格も年齢も踊る姿もばらばらな彼らの唯一の共通点は、「路上生活」の経験。「新人Hソケリッサ!(Newcomer “H” Sokerissa!)」は、路上生活者と路上生活経験者で構成されるダンスグループだ。2007年にダンサーのアオキ裕キ(Yuki Aoki)さん(49)が立ち上げ、今年で10周年を迎えた。「ソケリッサ!」は、「それ行け!」という言葉の勢いや「前に進む」意味を込めた造語。「H」は「Homeless(ホームレス)」「Human(人間)」「Hope(希望)」を意味する。現在は新たなメンバーを迎え、7人で活動している。

■生きてきた歴史とその体

「自然に身を委ねて──」。東京都新宿区の練習場に、アオキさんの声がゆっくりと響く。週2回、3時間の練習では、それぞれの体から生まれる自由な動きが重要視される。彼らの踊りは「型」にはまることのない、創作ダンス。具体的な指導はなく、振り付けは、抽象的な言葉の羅列だ。 

「軽やかに生きるリズム」「未来をねじ曲げる」「耳を澄まし、宇宙を聞く」──。アオキさんの言葉をもとに、メンバーはそれぞれのイメージを、自由に踊りで表現する。同じ言葉でも解釈は異なり、それぞれの感覚の違いが浮き彫りになる。「生きてきて、今の体がある。その人が形にしたものは、その人が生きてきた歴史」

 ぽっこりと膨らんだおなかに、日に焼けた肌。前かがみの背中に、硬くなった膝関節。自由気ままに踊る「おじさん」たちの体は、一般的なダンサーの体とは程遠いが、どこか重みがある。

「それぞれの人生や性格、人生観が動きに見えてくる」と9年間ソケリッサで踊り続けてきたメンバーの横内真人(Masato Yokouchi)さん(55)はいう。横内さん自身、10年前にめまいや耳鳴りを起こすメニエール病を発症し、住み込みのバイトを追われた。「路上生活状態に至る中で、人間性が欠落していく。親兄弟と疎遠になり、友人知人と関係を切っていく。でも、ソケリッサで、お客さんやスタッフを目の前にし、最低限その人たちを裏切れないと。9年間、それだけを頼りに生きてきた」

■おじさんたちの歴史

 毎朝5時。メンバーの小磯松美(Matsuyoshi Koiso)さん(69)のアラームが鳴る。現在も路上生活をしている小磯さんは、183センチの長身の体を起こすと、練習で痛めた膝をかばいながら少しずつ歩く。日々の収入は、ホームレスの社会復帰を支援する雑誌「ビッグイシュー(The Big Issue)」の販売で得ている。

「今までの人生は逃げることの繰り返しだった」と小磯さんは打ち明ける。中学校卒業と同時に、横暴な兄から逃れるため実家を離れ、定時制高校へ。卒業後に就職したが、仕事に限界を感じ、24歳から10年間渡英し、職を転々とする。帰国後も様々な職場をわたり歩き、60歳で結婚生活が破綻。以来、路上生活を送っている。

「この先逃げるところはあの世かなと。死ぬ前に自分の持っているものを考えた時、体だけだった」と小磯さん。ソケリッサで踊り始め、「打ち込むものがなかった」と感じていた生き方が変わった。活動を始め6年がたった今、小磯さんの生活は「踊ること」なしには成立しえない。「踊るときの解放感、終わったときの充実感を感じる」

 今年7月から活動に加わった西篤近(Tokuchika Nishi)さん(39)は、「3週間、水だけで過ごした。人生に諦めもあり、野垂れ死んでもいいかなと思っていた」とそれまでの生活を振り返る。

 沖縄で公務員として働いていたが、ダンスに関連する事業を立ち上げようと35歳で退職。事業のため借金までしたが、行き詰った。「踊りを諦めて普通に働けば返せる金額だった。でも、働く気力を失ってしまった」。気付けば、路上生活になって約2年が経とうとしていた。

 ただ起きては寝る日々を送っていたとき、ソケリッサの存在を知り「何か手伝いたい」という気持ちが湧いてきた。練習に訪れ、気がつくと、メンバーとともに踊っていた。「人生を生きていることを思い出した」と西さんは前方を見つめる。「ソケリッサは、自分が止めていた『時』を動かした。毎日が楽しい」

■路上生活者の体の深み

「何かを捨てた体はすごい」とアオキさんは路上生活者に目を向ける。「家もお金もなく、外に身を委ねて生活することは勇気のいることでもある。それを経験した体から生まれるものには、一般の人が持ち得ない感覚がある」

 アオキさんはもともと、芸能人のバックダンサーや振付師として活躍していた。転機は、2001年に留学先の米国で目の当たりにした同時多発テロ。「自分のダンスがいかに表面的かを痛感した。自分は何を体に染み込ませてきたんだろう。もっと人間の内側にある強烈なエネルギーを形にできないか」と考えるようになった。

 帰国後の2005年、表現を模索する中で、新宿の路上を歩いていたとき、人に囲まれて歌うストリートミュージシャンの横で、ひとり「お尻を出して寝ている」路上生活者の姿を目にする。「自分は路上でお尻を出して寝る感覚を持ち合わせていない。その感覚を培う歴史を持った体とは、なんだろう。その体の深みに、なぜ人は目を向けないのだろう」

■路上パフォーマンスで多くの人に

 アオキさんは、路上生活経験者の体には、自分自身に欠けていた「生きることに直面した感覚」があると考え、その感覚を今の世に提示しようと路上生活者に「一緒に踊りたい」と声をかけた。当初は賛同者が見つからず、周りも批判的だったが、次第に思いが伝わり、2007年に新宿で初公演。毎年公演を重ね、貧困問題関連イベントのみならず、美術館やダンスフェスティバルにも出演。昨年はリオデジャネイロ五輪公式文化プログラムの一環として、現地の路上生活者とパフォーマンスを行った。

 活動10周年を迎えた今年は、東京近郊の公園や路上を舞台にダンスツアー「日々荒野」を企画。「お金のない人にも、他の路上生活の人にもみてもらいたい」と、パフォーマンスの対価を観客それぞれが決める「投げ銭形式」にした。

 たまたま通りかかり、パフォーマンスに見入ったという都内在住の会社員、徳永惇士(Atsushi Tokunaga)さん(23)は、「生々しくて、臨場感がある。分からない表現部分を、すごく分かりたいと思った」。都内在住のパフォーマー鵜沼ユカ(Yuka Unuma)さん(35)は「ソケリッサの方は本当に個性があった。わけが分からないのにすごく引きつけられて、胸を打つ」

■「石ころ」から見える世界

 ツアーのテーマ「日々荒野」は、アオキさんが現代社会に投げかける問いだ。路上生活者と一緒に踊り続ける中で、アオキさんはその生活の「豊かさ」に気付かされた。「路上生活者は、石ころのような、人から目をそむけられる存在。人は簡単に蹴飛ばしたりもする。でも、石ころはずっと長く転がっていて、自分たちよりいろんな景色を見ている。石ころから見たら、世の中は、本当に必要でないことに価値を置いている、日々荒野のような存在ではないか」

 路上に生きることで、季節や朝晩の移り変わりを感じる体。衣装や装飾品で飾ることのない、「おじさん」たちの踊り。「飾れないし、背伸びもできない。素のまま、着のまま。開き直った感じ」と小磯さんは笑う。表面的な価値観を捨て、生きることに直面した彼らの体が、生命力ほとばしる踊りとなって、人々の心に問いかける。(c)AFPBB News/Hiromi Tanoue

最終更新:2017/11/1(水) 15:38
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