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「この飲み会、手品道具2つ分だな」 手品よりも奇妙な“手品人”たちの世界

11/1(水) 11:05配信

ねとらぼ

 ある程度の専門性をもった世界ならどこでも、その世界での「あるある」は、それ以外での世界では「ないない」になるものですよ、と、ある方から伺いました。

【画像:マジシャンが使う「1枚数千円」のコイン】

 そう言われて、わたしのいる手品の界隈をみてみると、確かにそうかもしれないと思わされることが多々あります。しかも、そういった「あるある」は、実は奇妙で、手品の世界を知らないひとにも、その奇妙さを楽しんでもらえるのではないかと感じられます。

 そういったわけで、手品界隈の「あるある」をご紹介してみようかと思います。

※記事内の各動画は本文下の【関連記事】からご覧ください。

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◆ライター:Bee
アラフォーの手品愛好家。手品道具や手品資料を買うのが趣味だが、手品を演じるのはそれほど好きではない。手品歴大体15年。
Twitter:@small_magician
ブログ:Small Magician MINI
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●「きれい」な手品とは何か?

 手品をしてますよ、というと、高確率で「手先が器用なんですね」あるいは「タネが分かれば演じられるんでしょ?」と言われます。手品についてのイメージがよく分かるコメントだな、といつも思います。後者については、多少の意地悪さも感じつつ。

 これについては、いずれも「ノー」であり、かつ「イエス」とお答えすることにしています。

 例えば、「楽器を弾くには歌の才能が必要」かといえば、かならずしもそうではないでしょう。また、「文字が書ければ小説が書ける」というわけでもないはずです。

 確かに、手品をするのに最低限の器用さは必要かもしれませんが、それはせいぜい、箸を使う程度の器用さです。そして、きれいに箸が使えるひとがいるように、きれいな手品をするひとがいる一方、そうではない手品をするひともいます。

 ここでいう「きれい」は、手つきや所作などについての形容でもありますが、演技構成についての評価でもあります。例として、2つの動画を紹介しましょう。

 まずはレイ・コスビーというマジシャンによる、「トランプの中のカードが少しずつ上に上がってくる」という演技です。

 次に、個人的に手つきがきれいな人の代表と思っている、Arsさんによる演技です。

 どちらも同様の演技をしていますが、Arsさんの手順ではトランプに段差をつけることでビジュアルを強調し、無駄な演出もなく、しかも最後に「消えた? と思ったら出てきた!」という分かりやすい現象として見せています。

 彼の演技は何度か生で見せてもらっていますが、その巧みな手つきに、演技構成のうまさもあいまって、これ以上に「きれい」なひとは見たことがありません。

●タネが分かればできる?

 手品のなかには、タネが分かっていれば簡単に現象を起こすことができるものも多くあります。この文章をお読みの方のなかにも、カード当ての手品の種明かしを読んだことのあるひとがいるのではないでしょうか。

 しかし、簡単なカード当ての手品であっても、それを面白く演じられるためには、結構な工夫が必要です。

 例えばこの動画。「グラスアクト」というだけあって、液体の入ったグラスがたくさん出てくるのですが、うまく異なった現象に組み合わされていて、見ていて飽きません。動作がゆったりしているのも、かえって不思議さを演出しています。

 手品に必要なのは「不思議さ」だけでなく「面白さ」なのです。不思議なだけでは面白くならないのが、手品の難しさであり、魅力でもある、とわたしは思っています。

●手品をしないひととは「驚くポイント」がちがう

 販売されている手品道具や手品資料の紹介文をみていると、たまに「マニアもひっかけることができます」という趣旨のコメントがついています。

 そうです。実は、手品(道具)には、「対・手品をしないひと(非手品人)」用のものと、「対・手品をするひと(手品人)」用のものがあります。

 これはつまり、手品人と非手品人とで、手品について興味をもつポイントがずれている、ということでもあります。

 「なら、手品をするひとも不思議に思わせる手品が優れているのでは?」と思われるかもしれませんが、そうとも限らないのです。そういった、対・手品人用の手品は、手品を見慣れていないひとには煩雑な内容だったり、過剰な演出だったりするのです。簡単にいえば、見てて疲れます。

 また、シンプルな現象にみえても、演じる側の負担が大きかったりもします。「同じことするなら、簡単な方法でやれば?」と思いますよね。わたしもそう思います。しかし、そういった「簡単な方法」は、手品人には共有されている方法であることが多く、つまり演じると「あ、あれを使ったな」という空気になるのです。手品人を相手にすると。

 手品人は手品を見慣れてる、あえていえば「目が腐ってる」ので、ありふれた方法で演じられた手品を見ても喜びません。見たことのない現象か、裏側が全く分からない方法でないと、喜ばないのです。

 そのため、同じ手品を見ていても、非手品人が不思議さに驚いているところで手品人は驚かず、そのあと、手品人が「思っていた方法でない」ことが示された瞬間に興奮する、ということがしばしばあります。

●手品人は手品人を見抜く

 また手品人は、他人が手品人か非手品人かを見抜く能力も持っています(たぶん)。 特にマジックバーなどで演じているプロのマジシャンは、客が手品人かそうでないかは、高確率で見抜いていると思います。よく、「カツラのひとは、他のひとがカツラかそうでないか、すぐに見抜く」と言いますが、たぶん、同じレベルです。

 例えば、観客が手品に参加するような演技の場合、演者が観客にトランプを手渡して、シャッフルしてもらうことがあります。そのとき、観客がトランプを「ディーリングポジション」という独特の持ち方で持っていたら、高確率で手品人です。

 手品人が観客になるとき、ポジティブな場合とネガティブな場合の2種類があります。前者は、どんな手品が演じられても協力的なのですが、問題は後者です。カードを選ぶときにトランプの一番上や一番下のカードを選んだり、仕掛けの重要なタイミングで邪魔をしてきたり、非常にやっかいです。

 プロマジシャンによっては、そういった観客の性格を早めにつかんで、場合によっては対手品人用の演技をすることもある、と聞きます。

●手品専門の「タネ販売所」がある

 かつては「奇術材料店」、最近だと「マジックショップ」と呼ばれる店があります。実店舗は最近はずいぶん少なくなって、首都圏でも4つかそこら、大阪・名古屋でも数軒です。ただ、ネットショップはかなり増えました。

 古い手品人からは、手品との最初の出会いはデパートの手品コーナー、という話をよく聞きました。最近はYouTubeでおぼえました、みたいなケースが多いようで。わたしは書店の手品本コーナーでした。

 手品とのファーストコンタクトはどうあれ、沼に足を入れると、現状では満足できなくなってきます。そこで、次に進むのがマジックショップというわけです。

 これも、かつては実店舗しかなかったので、人づてに情報を聞いてそこへ行く、行ったら廃墟みたいな店で、中にはランニングにステテコ姿の気むずかしそうなおじさんがいる、みたいな、リアルにRPGっぽい話だったわけですが、最近は「マジック 道具」とネットで検索するだけでたくさんのマジックショップの情報が手に入るようになりました。

 実店舗だと、まずは「どういう商品があるのか」を店のひとに聞かなくてはいけません。これも、詳しいひとから商品についての事前情報があると話が早いわけで、やっぱりゲームっぽいですね。

 そのあと、その商品を実演してもらったり、なんとなくの情報をもらったりして、購入する運びになります。

 ネットの場合は、かつては商品名と文字情報だけだったのが、最近は実演の動画も情報として加えられていることが多いです。

 気になるお値段ですが、幅があります。安いものだと2000円くらい、高いものだと天井知らずですが、近距離で見せるテーブルマジック(クロースアップマジック)だと3万円くらいでしょうか。たまに、10万円をこえるものもありますが、まれです。平均価格は3000円から5000円くらいじゃないでしょうか。

 以下の2つの動画の例を見比べてみてください。やっていることはそれほど変わりませんが、上は2000円程度のお手頃な道具を、下は3万円ほどの高価な道具を使っています。

 これは極端な例ですが、同じようなことをするのに、これだけの値段の差があるわけです。

 道具の値段は、特殊な素材を使っていたり加工の難易度が高かったりすると、高くなりがちです。が、たまに、厚紙1枚だけの商品で1万円したりすることもあるので、最終的にはクリエイターの気まぐれのような気もします。

 手品道具の多くはアメリカで販売されています。Murphy's Magicという卸業者があって、日本国内のマジックショップも、ここから商品を取り寄せることが多いようです。

 〈クリエイター→卸→マジックショップ〉という経路で商品が流通するので、最終販売価格よりかなり低い価格で、クリエイターは商品を業者に卸さなくてはいけないはずです。そう考えると、「厚紙1枚で1万円」の商品であっても、クリエイターはさほどの利益はない……わけでもないか。

 問題は、高い道具だから良い道具とは限らないことです。ハズレもたくさんあります。わたし自身、2万円や3万円の道具を買って「これはない……」みたいな気持ちになったことも多々あります。

 もちろん、平均的価格帯のものや比較的安価のものにも、ハズレは多くあります。というか、高確率でハズレです。ただ、この「ハズレ」というのは、「まったく使えない」というのではなく、「面白いことは面白いし、1回くらいは使ってみたいけど、何回も演じる気にはならないな」というものを含みます。そのため奇術道具の沼につかったひとは、奇術道具を買う→しまい込む、というルーティンを繰り返すことになります。その結果が、例えばこんなかんじです。

 引っ越しなどのタイミングで整理をするのですが、引っ越した先でも買い込むので、総量は増え続けます。

●手品人の金銭感覚

 お金というのは相対的なもので、金本位制でない今は、今日の1ドルが100円であったのが明日は105円、ということもあります。貨幣間でも相対的ですが、例えば気の進まない飲み会に3000円出すのは無駄だけど、好きなアイドルのグッズを買うのに費やす5000円は安い、というように、同じお金であっても使い方によって感じ方が変わるのも、経験的で普遍的な事実です。

 さて、手品人の金銭感覚ですが、実は得意領域によって変わります。例えば、コインマジックを得意とするひとで考えましょう。こういうひとがトランプマジックの道具を買う機会は少ないと思います。そのため、例えば「2000円の仕掛け付きトランプ」でも「高い」と感じるかもしれません。彼らが買うとしたら、コインマジックを解説している資料か、コインマジックのための特殊な器具、そしてコインそのものでしょう。

 ところで、コインマジックマニアの間では長く、「使うコインは日本円の現行通貨か、アメリカのものか」という問題があります。前者の場合は500円玉などを使いますが、後者は50セントコインか1ドルコイン、いわゆるハーフダラーかワンダラーを使います。さらに、このアメリカコインは時代で全く異なるため、そのうちのどれを使うか、ひとによってちがいます。当然ですが、古いもの=希少価値が高いものほど値段も高くなります。

 気になるお値段ですが、50セントコイン(ハーフダラー)使用者の中でもメジャーな「ウォーキングリバティ」の場合、大体1枚で1500~3000円です。現在のアメリカのカジノなどで使用される50セントコインはサンドイッチコイン、つまり銀の間に銅を挟んだものですが、ウォーキングリバティはより純度の高い銀貨です。コイン同士を軽くぶつけると、全く音がちがいます。

 また、ウォーキングリバティの特長として、表面の適度な摩耗があります。この摩耗によって、演じやすい手品があるのも、ウォーキングリバティ使用者が多い理由の1つです。

 ウォーキングリバティよりもさらに古い、バーバーと呼ばれるコインを使うひともいます。こちらはさらに摩滅の進んでいるものが多く、ほとんど真っ平らなものが大半です。当然、かなり薄くなっています。こちらは、1枚で3000~5000円くらいです。

 こういったコインマジック愛好家であれば、3000円のコインであっても、「高い」とは感じないだろう、と思います。

 一方、わたしのようにさまざまな手品道具を購入する場合は、月あたりいくら、年でいくら、という感じでお金を使うことになります。上記の通り、1つの手品道具が大体3000円くらいだとしたら、月に1万~3万円くらい、お金を使います。

 そのため、わたしの金銭感覚は大体、3000円=1ギミック(手品道具のことを「ギミック」と呼ぶことがあります)で、「この飲み会は2ギミックか……」と考えたりします。『吼えろペン』の1ガンプラ=300円みたいな感覚だと思っていただければ。

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 先日、同じく手品を趣味とする友人と話をしていたのですが、「手品人って、基本的に性格のゆがんでるひとが多いよね」という結論になりました。手品というのはその性質上、演じる側が非常に「閉じた」社会を形成せざるをえません。そういう社会では、ゆがんた性格のひとが多数を占めてしまう、というのも分かる気がします(己を見つめつつ)。

 とはいえ、そういったひとたちの社会を客観視すると、なかなか興味深いものがあるのではないか、と思われるのもまた、事実なのです。

最終更新:11/1(水) 11:05
ねとらぼ