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カプセルホテルに似たホテルが、地方を再生させるかもしれない

11/1(水) 8:22配信

ITmedia ビジネスオンライン

 カプセルホテルのようで、カプセルホテルではない。ビジネスホテルのようで、ビジネスホテルではない。ありそうでなかった宿泊施設が、全国で増えているのをご存じだろうか。その名は「ファーストキャビン」。2009年に大阪で誕生し、その後、年1店舗ペースで増えてきたが、今年に入って9店舗も開業。それだけではない。全店の平均稼働率は、90%を超えているのだ。

キャビンを並べるだけで宿泊施設に(ビフォーアフター)

 部屋は、4.4平方メートルの「ファーストクラスキャビン」と、2.5平方メートルの「ビジネスクラスキャビン」の2種類を用意(一部店舗で別タイプあり)。2畳弱から3畳の広さで、価格は1泊4200~7700円。部屋と通路を隔てるのはスクリーンカーテンのみなので、完全な個室ではない。当然、通路を歩く人の足跡は聞こえてくるし、隣にいる人の声も聞こえてくる。貴重品はカギをかけてしまうことができるが、カーテンにカギはない。プライバシーを保つことができないし、部屋に窓もないので「カプセルホテルと同じじゃないか。しかも料金も高いよ」と思われたかもしれないが、このような形態の宿泊施設がビジネスパーソンを中心にウケているのだ。

 では、一般的なカプセルホテルとどのような違いがあるのか。ファーストキャビンの最大の特徴は、コンパクトな空間なのに快適に過ごすことができる工夫が施されていること。部屋で人が立つことができる高さがあるほか、テレビ、Wi-Fi、天井照明、アメニティなど必要なモノはすべてそろっている。ロビーのフロントは上質感が漂うデザインで、トイレや共用の大浴場も清潔。カプセルホテルといえば、終電を逃したサラリーマンが宿泊するといったイメージが強いが、ファーストキャビンは女性客が4~5割ほどいて、リピーターが多いのも特徴である。

 ビジネスホテルよりも安くて、カプセルホテルよりも高い宿泊施設は、どのようなきっかけで誕生したのか。運営しているプランテック総合計画事務所のグループ子会社、ファーストキャビン社の来海忠男(きまち・ただお)社長に話を聞いたところ、「オフィスビルの空室対策として生まれた」という。さらに話を聞いていくと、この事業モデルはひょっとしたら“地方の宿泊施設を再生させる”かもしれないと感じた。どういうことか。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●価値が失われつつあるところに出店

土肥: 宿泊施設「ファーストキャビン」が増えていますよね。2009年に開業して、その後は年に1店舗ペースで増えていたのに、今年に入って9店舗もオープンしました。店舗数が増えている理由を教えてください。

来海: 日本に元気がないからではないでしょうか。経済が本当に元気であれば、ファーストキャビンのような宿泊施設は不要だと思いますので。

土肥: 景気が良くて、サラリーマンの給料がアップしていれば、「1泊1万円ほどのビジネスホテルに宿泊することができる」という意味でしょうか?

来海: いえ、そういう意味ではありません。1号店が入っている大阪の御堂筋難波ビルは、建築してから20年以上が経っていました。ビルのオーナーさんはテナント集めに苦労していて、賃料の低下にも悩まれていました。「どうしたらいいのか?」という相談を受けていたので、当社は解決策のひとつとしてファーストキャビンを提案したんですよね。

 ビジネスホテルをつくろうとすると、法律上、部屋には窓が必要になるので、建物の窓側にしか部屋をつくることができません。また、浴槽やトイレといった水回りも必要になります。そうすると初期費用がものすごく必要になるんですよね。一般的なビジネスホテルの場合、入口の横にユニットバスがあって、その奥にベッドと小さな机が設置されています。結果、13平方メートルほどの広さが必要なのに対し、ファーストキャビンの場合、4.4平方メートルまたは2.5平方メートルで運営できるんですよね。清潔でデザイン性の高い空間をつくれば必ず需要はあるはずだと考え、このビジネスの構想が固まっていきました。

土肥: 大阪のビルオーナーさんから相談を受けたときには、すでにファーストキャビンの構想はあったわけですね。

来海: はい。価値が失われつつあるモノに、どのようなモノを提供すれば価値が上がるのか。ファーストキャビンの場合、空きスペースにキャビン(部屋)を並べるだけで完成するので、低コストで開業することができるんですよね。とはいえ、安くつくれても収益がイマイチだったら事業としては成り立ちません。

 御堂筋難波ビルの場合、たまたまスポーツクラブが入っていたので、大浴場もサウナもありました。こうした設備を活用して、計111部屋をつくりました。以前、このビルはスポーツクラブやオフィスとして貸していて、収入は坪7000円ほどでしたが、ファーストキャビンの運営を始めたところ坪1万4000~1万6000円になりました。

●2017年、出店数が増えた背景

土肥: 1号店をオープンする前に、不安はなかったでしょうか。というのも、ファーストキャビン社はこれまでホテル事業を手掛けたことがないですよね。

来海: オープンする前、懸念が2つありました。一般的なカプセルホテルと思われるのか、それともコンパクトなビジネスホテルと思われるのか。カプセルホテルと思われたらこの事業はあまり伸びないかもしれない、コンパクトなビジネスホテルと思われたからこの事業は伸びるかもしれな、と感じていました。結果、後者だったんですよね。

 もうひとつは、予約が入るかどうか。当時、カプセルホテルに予約を入れて宿泊する人はほとんどいませんでした。一方のビジネスホテルは予約を入れる人が多い。では、ファーストキャビンの場合はどうだったのか。実際に運営してみると、8~9割の人が予約を入れて宿泊されていたんですよね。どういった宿泊施設なのか、よく分からない状況だったにもかかわらず、予約する人が多かったので「このビジネスをやっていけるのではないか」と手ごたえを感じました。

土肥: なるほど。今年になって出店数が増えていますが、その背景に何があるのでしょうか。

来海: 相性のいい、相性のよくない事業スキームは何か。少しずつ検証しながら進めてきたので、昨年まで年1店舗ペースで運営してきました。オーナーさんが運営するフランチャイズタイプ、オーナーさんの代行で当社が運営するタイプ、当社が経営と運営を行う直営タイプを行ってきました。このほかにも古いビルを部分的にコンバージョンしたり(既存建物の用途を変更して改装すること)、ビル全体をコンバージョンしたり。さまざまなことを行ってきて、特に問題がなかったので、数年ほど前からいろいろなところからお声がかかるようになりました。そのときの話が今年になって次々に実を結んだというわけです。

●地方に進出する予定あり

土肥: 出店エリアをみると、都市部ばかりですよね。地方に進出する予定はないのでしょうか。

来海: 関東では、東京の中心部でしかつくらないのですか? と聞かれたら「大宮、高崎、浦和、赤羽などでもつくっていきたい」と答えます。じゃあ、地方はどうなのか。福岡の小倉はどうですか? と聞かれたら「できます」と答えます。なぜできるのかというと、都市と違って、地方で不動産を所有していても、テナントが入らない、賃料が安いといった問題があるんですよね。

 そこで当社ができることはなにか。東京のホテルの場合、1泊7000円で、坪3万円ほどの収益を見込めます。じゃあ、小倉の場合はどうか。テナントが入っても、坪5000~6000円なので、東京の5~6分の1。じゃあ、宿泊費も7000円の5分の1……1泊1400円になるのか。なりませんよね。4500円ほどでやっていける。都市と地方の間には不動産格差があって、それをうまく生かすことができれば、この事業は地方でもやっていけるでしょう。

土肥: 具体的に、○○県に出店するといった話は進んでいるのでしょうか。

来海: 地方のホテルは同じようなモノをつくってきました。どんなマーケットであろうと、どんなキャパであろうと、施設内に立派な結婚式場があって、広い宴会場があって、いわゆるフルパッケージなんですよね。昔はそれでうまく回っていたのかもしれませんが、いまはうまく活用できていないホテルが増えてきました。そうした施設に、ファーストキャビンを入れるとうまくいくかもしれません。同じ建物のなかに、もうひとつのブランドがあるといった形ですね。単体で運営するよりも、一緒にやればさまざまなコストを引き下げることができるので、効率よくできる。

 こうした試みは和歌山のホテルで行う予定です。うまくいくと、地方で苦戦しているホテルを再生できるのではないでしょうか。

●地方の宿泊施設が再生するかも

土肥: 地方に行くと、○○グランドホテルと書かれた立派な建物がどーんとありますよね。料理もステーキやら天ぷらやら刺身やらたくさん出てきて、1泊2万円以上する。もちろん、そうしたサービスを求める人であれば○○グランドホテルに泊まるほうがいいわけですが、宿泊費をできるだけ抑えて、その分をレジャーなどで楽しみたいという人も多いと思うんですよね。

 じゃあ、安いホテルに泊まればいいじゃないか、といった声が聞こえてきそうですが、安いところを探すと、古いビジネスホテルしかなかったりする。部屋はちょっと汚れていて、風呂は狭くて。こんなところに泊まるんだったら家で寝たほうがいいや、と思ってしまう。そうした不満を感じている人にとっては、宿泊費は安くて清潔といった宿泊施設はニーズがあるはず。

来海: 全国にリゾートホテルってたくさんありますよね。いい感じで運営しているところと、そうでないところがあります。いい感じで運営していても、ホテルをリニューアルする資金がない、といったところがあるんですよね。そうしたホテルにファーストキャビンを入れることもできます。例えば、スキー場ではホテルは5カ月ほどしかもうかりません。その5カ月間だけ部屋を増やすこともできるんですよね。

 また、全国には古くからある木造の旅館がたくさんありますが、そうしたところにもファーストキャビンを入れることができます。例えば、12畳の和室があまり稼働していなければ、そこに2部屋置くことができます。高額な宿泊費が原因でお客さんが少ないのであれば、1泊6000円だったら多くの人が泊まるかもしれません。

土肥: インバウンドなどの影響で「都市部のホテルが足りない」といった指摘がありますよね。いきなり出張が入って、現地に行ったものの、「泊まるホテルがない」「1泊3万円のホテルしか空いていない」といった声をよく聞くようになりました。ファーストキャビンのような宿泊施設はこうした問題を解決する糸口になるのかなあと思っていましたが、この事業モデルの本質はそこではない。都市部で苦しんでいるビルを次々に再生させたノウハウは、地方で苦しんでいる宿泊施設にも生かすことができる。

来海: 地方の再生にご注目ください。

(終わり)