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生産管理の「属人化」解決を目指す--信州ハムがシステム内製化に踏み切った理由

11/1(水) 7:00配信

ZDNet Japan

 食肉加工メーカーの信州ハムは、基幹業務の製造工程を管理する生産管理システムを「FileMaker」で内製化した。iPadを工場内に設置し、各工程でのデータ入力を徹底するようにした。生産工程のリアルタイムな可視化と、有事の際の食品追跡を実現した。

 信州ハムは、長野県上田市にある本社と工場を中心として全国11カ所に営業拠点を置いている。上田工場の年間生産量は約9600トン。ハムやベーコン、ソーセージ類を主に生産している。発色剤、着色料、保存料、リン酸塩を一切使用しないで作られた「グリーンマーク」シリーズ、手作りの本物の味を目指すというコンセプトで作られた「爽やか信州軽井沢」シリーズを主力商品としている。

 食肉加工工場では、原料の追跡や異物の混入対策など、常に正確かつ迅速な対応が求められる。しかしながら、20年以上前に導入した既存の基幹システムでは、原価や実績などの最新情報や製品・半製品の在庫数量の可視化ができないという課題があった。また、システムに重複してデータを入力していたり、各部門での情報の共有ができなかったり、情報管理が属人化して一元管理できていなかったりという問題もあった。システムの保守期限が過ぎていたため、今後のメンテナンスが難しい状態だった。

 信州ハム 執行役員 経営企画部 部長 兼 社長室 室長の小口昇氏は「経営層は工場内で何が起きているか意外に分かっていなかった。現場から上がってくる声を真に受けざるを得なかった」と振り返る。当時は手書きの書類も多く、生産現場の歩留まり管理、原価計算も詳細には対応できていないのが実情だったという。

 こうした課題を解決するため、新たな生産管理システムの構築プロジェクトをスタートさせた。一方、「食肉加工の工程は非常に複雑であり、自社独自の生産工程に合ったシステムの構築は困難だった。システム開発会社に外注すると億単位の費用が掛かることが分かった」(小口氏)

 そこで、「小さく入れて大きく育てる」を基本的な考え方として、大規模な設備投資をせずに製造現場の負荷を軽減できるシステムを目指した。2015年4月の計画立案から、5月のトレーニング、6~9月のプロトタイプ開発、10月の現場テストを経て、2016年1月にシステムを完成させた。まずはハムやベーコンなど製造工程が比較的シンプルな“単味品”で使い始め、現在ではソーセージを含め全ての生産ラインでシステムを本稼働している。

 「とにかくスピード優先でシステムの試作を繰り返した。4カ月でプロトタイプを開発し、10月には試用を始められた」と信州ハムサービス 取締役 情報管理部 部長の土屋光弘氏は話す。

 社内にはiPadがおよそ60台あり、そのうちの50台はWi-Fi環境が完備された工場内で、10台は経営層や管理部門の閲覧用として使われている。iPadにインストールされた「FileMaker Go」を使って「FileMaker Server」にホストされた生産管理システムを利用する仕組みとなっている。社外での利用も考え、クラウド環境を活用している。

 工場内では、生産部門の各工程にiPadが置かれ、作業が終わるたびにデータを入力する。生肉や水、調味液などを扱うため、iPadは防水ケースに入れられ、各種機器のそばに設置されている。

 細かい操作や書き込みが難しい環境にあるため、ケース越しでも見やすく使いやすいインターフェースを設計した。また、工場には外国人労働者も多いことから、機能が持つイメージをアイコン化して、理解しやすいように工夫した。

 プロジェクトメンバーの一人である信州ハムサービス 情報管理部 システム開発室長の織部航氏は、信州ハムの生産管理部で現場業務に従事してきた経験がある。現在は生産管理システムを開発するため信州ハムサービスに出向している。

 「日々の入力や作業が必要なシステムだからこそ、現場を熟知したメンバーによるシステムの開発が重要だった」(小口氏)

 土屋氏によると、開発当初は「管理者目線」でシステムを作り込んでしまい、現場利用者から不評を買ってしまったという。そこで、デザイン思考のアプローチなどを取り入れ、現場利用者とコミュニケーションを図りながら画面や機能の改善を繰り返していった。

 新たな生産管理システムの導入により、生産実績や在庫数量、歩留まりを可視化できるようになったほか、トレーサビリティや実績レポート、生産原価・実績シミュレーションなどを実現した。

 「データが明確であるということは、スピード感のある経営戦略が立てられるということ。生産工程の各段階を確認して、進捗を一覧で確認できるようになった。各工程でデータを記録してから次の工程へと進むため、リアルタイムに工場の稼働状況を知ることができるようになった」(小口氏)

 これまで月単位でしか原価や歩留まりを計算できていなかったが、データの蓄積を始めたことで、昨日や前年と比べてどうだったかという検討ができるようにようになったという。

 トレーサビリティの観点でも、保健所やバイヤーから評価されている。食品の安全性や品質に関わるトラブルが発生した際、従来は各工程から記録用紙を集めて日付で追っていく必要があった。現在はiPadから検索することで速やかに追跡できるようになった。

 「工場内だと用紙が湿ってしまい文字がにじむといった問題もあったが、電子化することでその心配がなくなった。さらに、データであれば権限を持った人しか変更できないため、改ざんのリスクもなくなった」(土屋氏)

 今後は生産部門だけでなく、物流や小売まで管理・追跡できるようにしていく計画だ。

最終更新:11/1(水) 10:00
ZDNet Japan