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トム・フォードはなぜ、『ノクターナル・アニマルズ』を作らざるを得なかったのか?

2017/11/2(木) 7:10配信

dmenu映画

トム・フォードといえば、老舗ブランドのグッチ、イヴ・サンローランを再生させ、自身の名を冠したブランドでもレッドカーペットを席けんしている世界的なファッション・デザイナー。クールで洗練されたファッションのなかに、確実に潜む主張と個性が、多くのセレブリティやスタイリストを虜にしている。2009年には、最愛の人を失くした中年男性の精神の危機を描く『シングルマン』で、鮮烈なる映画監督デビュー。そして、待望の長編映画2作目として送りだされたのが、『ノクターナル・アニマルズ』だ。タイトルの直訳は“夜行性動物”。日本では“夜の獣”と訳されている。一体、どんな作品なのか?

【画像】トロフィー持ったトム・フォード

1人の女性の人生のミステイクと、1人の男性の巧妙なリベンジ

映画には冒頭から、豊満なボディの女性たちが全裸で、気持ちよさそうに体を動かして踊る様子が映し出され、それがアート展の展示の一部であることがわかる。そして、そのアートギャラリーのオーナーが、完璧なメイクをした美人のキャリアウーマンながら、どこか無感情で不幸せに見えるスーザン(エイミー・アダムス)。この極端に異なるタイプの女性たちの登場に、見ている方は混乱する。スーザンは何者なのか? なぜこれほどに無感情なのか?

そうした疑問は、彼女が20年前に別れた元夫でライターのエドワード(ジェイク・ギレンホール)が執筆し、スーザンに捧げた小説の再現と、スーザンが彼と過ごした過去のフラッシュバックによって、徐々に解かれていく。残酷で悲惨で容赦ない復讐を綴った小説。エドワードはなぜ、それをスーザンに捧げたのか? 小説にのめりこみながら、自身の半生を振り返るスーザン。その心にはどんな変化が起きているのか? 見るものはやがて、これが“1人の女性の人生のミステイクと、1人の男性の巧妙なリベンジの話”であるのかもしれないと気づく(メッセージはこれだけではなく、捉え方は人それぞれなのだが)。

見始めた瞬間から異様な気持ちになり、1シーンごとに神経をよじられているようで、心と頭が摩耗した状態になりながら劇場を出る……。正直、そんな映画だった。が、逆にいえば、普段、刺激されていない神経を刺激され、しかも、その刺激のされ方が尋常ではないという傑作でもある。愛と憎しみ、懺悔と復讐。そこには、きれいごとのかけらもない人間の深層心理が描かれているのだが、その映像、音楽、台詞、編集のすべてが、息を呑むほどに美しい。

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最終更新:2017/11/2(木) 7:10
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