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宇宙旅行事業にサウジアラビアが10億ドル投資した理由

2017/11/4(土) 8:13配信

ITmedia ビジネスオンライン

 10月26日、リチャード・ブランソン氏率いるVirgin Groupの宇宙事業会社に対して、サウジアラビアの政府系ファンドが10億ドル出資すると発表された。ブランソン氏のコメントからもいよいよ来年には有人宇宙旅行事業が始まることが期待されている。今回はVirgin Groupの最新動向を紹介したい。

リチャード・ブランソン氏(左)と、Virgin Galactic CEOのジョージ・ホワイトサイズ氏

●サウジアラビアから10億ドルの出資

 起業家・冒険家として著名なブランソン氏が率いるVirgin Groupの宇宙事業を担うVirgin Galactic(宇宙旅行事業)、The Spaceship Company(宇宙船の開発・製造事業)、Virgin Orbit(衛星打ち上げ事業)の3社は、サウジアラビアの政府系ファンドであるPIF(Public Investment Fund)から総額10億ドル(さらに4.8億ドルの追加投資オプション)の出資を受けることで合意した。

 中核となる2004年創業のVirgin Galacticは、09年にUAEの政府系ファンド Aabar Investmentsから2億8000万ドルの出資を受けており(16年時点でAabar InvestmentはVirgin Galacticの37.8%の株式を保有)、同社にとっては中東地域からの2回目の大型資金調達になる。宇宙ビジネスに対するリスクマネーの供給者が米国のみならず世界的に広がりつつあることの証左と言える。

 現在サウジアラビアではサルマン皇太子の下で、30年までに石油依存型経済から脱却し、投資収益と知識集約型産業に基づく国家建設を目指している。その実現に向けて中核となる投資ファンドがPIFだ。これまで投資対象は国内事業を中心にしており、宇宙分野では11年には自国の衛星製造およびサービス企業であるTAQNIAに出資していた。宇宙関連では今回が2つ目の投資だ。

 他方で、近年は積極的な外国投資へと切り替えており、運用資金は17年9月時点で2240億ドルに上っている。ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏が16年10月に肝いりで立ち上げて、日本でも大きな話題となっている「ソフトバンクビジョンファンド」に対しても、5年間で最大450億ドルの出資をすることを発表済みだ。

●宇宙旅行は来年スタート?

 以前の連載でも取り上げたが、ブランソン氏率いるVirgin Groupは宇宙事業を積極的に推進している。中核となるVirgin Galacticは有人宇宙旅行事業(サブオービタル飛行)に向けた準備を進めてきており、12年に同社の完全子会社となったThe Spaceship Companyが宇宙船「スペースシップ2」などの開発、製造を行なっている。

 長らく期待されつつも、スケジュールが見えてこなかった有人宇宙旅行事業だが、初フライトがついに近づいてきたようだ。今回のPIFによる出資会見においてもブランソン氏が「We are now just months away from Virgin Galactic going into space with people on board(Virgin Galacticは有人宇宙輸送を行う数カ月前にいる)」とコメントをしており、またヘルシンキで行われた会合に登壇した際にも同様のコメントをしている。

 他方、Virgin Galacticから16年にスピンオフしたVirgin Orbitは小型衛星の打ち上げ事業を行うために空中発射型の小型ロケット「ランチャーワン」の開発・製造を担当しており、その子会社であるVOX SPACEが小型衛星の打ち上げサービスを行う予定だ。

 これまでにNASA(米航空宇宙局)、約650~900機の衛星による低軌道衛星通信網の構築を目指す米OneWeb、約200機の小型衛星による地球観測網構築を目指す豪sky and space globalなどと打ち上げ契約を発表してきており、今年9月には衛星ベンチャー米Cloud Constellationとの契約を発表。こちらも早ければ最初の打ち上げを18年前半に開始予定だ。

●宇宙エンタテイメント産業や有人高速輸送サービスも視野に

 今回の出資に際して、Virgin Groupは「この投資が既存の有人宇宙旅行計画および小規模衛星打ち上げサービス、さらに将来的なサービス開発を加速させる」とコメントしている。また、将来的にサウジアラビアに宇宙エンタテイメント産業を構築する可能性もあるという。他方、ブランソン氏も「この投資が次世代の衛星打ち上げ技術の開発を可能にし、さらに拠点間の超音速輸送計画を加速させる」と語るなど、将来的にはさらなる野望を持っている。

 勢いを増す同社であるが、それぞれの分野にライバルが存在する。サブオービタルまでの有人宇宙旅行事業ではジェフ・ベゾス氏率いる米Blue Originがライバルであり、同社も初フライトを2018年と発表している。他方、小型衛星打ち上げサービス事業では米Rocket Lab、米Vector Space Systems、日本ではキヤノン電子が中心となって立ち上がった新世代小型ロケット開発企画株式会社などが存在する。

 地球上における高速輸送システムに関しては、前回記事で書いたように、SpaceXのイーロン・マスク氏も壮大なビジョンを掲げている。有力企業間の競争が産業を前進させて、ついに見えてきた有人宇宙旅行事業。18年に行われるという初フライトを期待して待ちたい。

(石田真康)