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<映画>新作「MOTTAINAIキッチン」は次へのステップ グロス監督に聞く

11/9(木) 17:03配信

毎日新聞

 ◇MOTTAINAIキャンペーン事務局を訪問

 食品ロスをテーマにしたドキュメンタリー映画を製作しているダービド・グロス監督が10月、日本を舞台にした次回作「MOTTAINAI(もったいない)キッチン」の協力依頼やロケハンのため来日し、MOTTAINAIキャンペーン事務局(東京都千代田区)を訪れた。前作「0円キッチン」ではヨーロッパ5カ国を廃油で走るキッチンカーで巡り、各地で廃棄された食品をおいしい料理に変えて人々に振る舞いながら食品ロス削減の必要性を問題提起したダービド監督に、来年秋以降に公開を予定する次回作について聞いた。

【グロス監督とキッチンカー】

 ◇精進料理はもったいない精神に根ざしている

 --日本でも監督の新しい映画を楽しみにしています。10月からどんなところに行かれましたか?

 福岡からスタートして仙台、熊本、山形、岩手県の釜石、福島県のいわき市、千葉、島根、鳥取、愛媛、徳島、香川、大阪、京都、横浜に行きました。小田原でかまぼこを作っている食品会社の鈴廣さんにも行きます。

 --ハードスケジュールですね。印象に残った人はいますか?

 農家、アクティビスト、パン屋さん、レストラン経営者、シェフ、科学者、研究者など、いろいろな人に会いました。なかでも精進料理の料理番の方が印象に残っています。精進料理の伝統を継承している方が作ってくださった料理を頂きましたが、もったいない精神に根ざした料理法で、材料もすべて近くの山など自然から取ったもの。とても感動しました。

 --精進料理はおいしかったですか?

 調味料を抑えているので、素材そのものを味わうことができました。とくに野菜やキノコ、葉ものなど、素材の味が生かされていました。また、イタドリという山菜を3カ月、塩漬けにしたものを食べましたが、食べられないと思っている食材でも保存法によっては食感が少し変わり、食べられるようになることを学びました。

 ◇大量の食品廃棄は欧州も日本も同じ

 --日本は食料廃棄物の量はとても多いという実態もあります。

 魚や野菜などを扱う、とある市場に昨日行ってきました。驚いたことに、魚介類の廃棄は見られませんでしたが、野菜が大量に廃棄されているところを見ました。カットして販売するキャベツでしたが、サンプルとして一つカットして中に黒い点が出てくると店頭では売れず、他のキャベツを一つずつ検査する時間もないので、合計で200~300のケースごと捨ててしまうという状況を見ました。

 --ヨーロッパの状況と似たところがありますか?

 ヨーロッパやアメリカなど、大きな市場を持つ国では必ず食品廃棄を目にします。たくさん購入して、たくさん売りさばくという流通システムの問題だからです。まだ食べられるものを捨ててしまうというのは、日本もヨーロッパも変わりありません。

 ◇持続可能な、さまざまな活動を紹介したい

 --以前、ひらめきが大事だと言われました。今回の取材でもひらめきを得ましたか?

 先程も言った長い伝統、文化が伝わる精進料理もそうですね。山形県の出羽三山で精進料理を頂いたのですが、料理長が出てこられたので、「MOTTAINAIキッチン」という映画を作ると伝えたら、「精進料理はもったいない精神によって進化する」という内容で講演をされるということで、資料を見せてもらいました。もったいない精神によって出羽三山の精進料理が進化した、といった内容でした。

 --ヨーロッパを舞台にした第1作では、グロス監督自らが(キッチンを)食材を集めて、料理してふるまい、気付きの機会を作るという手法でした。日本を舞台にした2作目も同様の手法で撮るのですか。

 はい。ただ、あくまで自分は話の聞き手として登場します。自分の話をしたいわけではなく、持続可能な様々な活動を行っている人たちに話を聞いて、そのストーリーを紹介したいと思っています。もちろん、料理もしますが。

 --日本の廃棄の実態にも触れるのでしょうか。

 どうしたら食品ロスを避けられるかに着目したいと思っています。ただ廃棄を減らしたり、余り物で料理するというだけでなく、そもそもどうしたらそのような事態を避けられるか。地方のコミュニティーや地域ぐるみでやっている活動にも注目したいです。

 ◇クラウドファンディングで出資者とつながる

 --映画製作資金の一部をクラウドファンディングで募っています。クラウドファンディングは欧米で発達した仕組みで、市民のためにいい映画を作るという手法にもなっています。今回の映画をそうした仕組みで作ることについてどう思われますか?

 今回のような映画ではクラウドファンディングの仕組みがふさわしい。製作の自由を確保する意味でも、この映画を応援してくれる人の出資を受けた方がやりやすいし、ただお金を出してもらうだけでなく、この映画を中心にコミュニティーができる。出資してくれる方がこの映画とつながっていると実感でき、そこからどんどん人のつながりが出てくる。

 --映画にはいろんな作り方があります。例えばマイケル・ムーア監督のように企業に突撃するようなものもありますが、グロス監督の場合は「おいしく、楽しく、社会を変える」といった発想です。そうした発想はご自身のどんなところから出てきたのですか。

 私がもともとそういう性格なのだと思います。私はムーア監督が好きですが、彼は自分に正直でストレートです。(映画では)監督自身が自分に素直なキャラクターを出すことが大事です。あとは、ポジティブな空気を出す作品にしたかった。お客さんが映画館を出たときに、前向きになれるような映画にしたかった。そのほうがお客さんはすっとメッセージを受け取って、次のステップに進めると思うからです。

 ◇料理は祖母に学んだ

 --グロス監督自身も料理が得意ですが、子供の頃からお母さんのお手伝いをしていたのですか。

 母はすばらしい人ですが、あまり料理が得意ではありませんでした(笑い)。冷凍食品をよく使っていましたね。なので、よく祖母の家に行って食べることが多かったです。祖母はとても料理が上手でした。祖母の家には大きな家庭菜園があって、野菜や果物を育てていました。ほかにも、日がたったパンを使ってお団子やデザートを作ってくれました。そんなふうに祖母はキッチンでもったいない精神を生かしていました。わたしの料理スタイルは祖母のおかげだと思います。

 --おばあさまの話が出ましたが、300年前の日本、江戸時代は循環型の社会と言われ、少し不便ですが食材や資源を無駄にしないという生活がありました。オーストリアでは昔はどのような感じだったのですか。

 いい質問ですね。戦争を経験した祖母の世代は、もっと食べ物を大事にしていました。食べ物のありがたみを肌で感じた世代で、学ぶところが多くあります。また、オーストリアの農村地にはまだ自然がたくさん残っていますが、その地域に暮らす農家の方は、数百年前から続く伝統的なスタイルで農業をしています。彼らの生活の中にある料理法や食材の保存法には学べるところが多くあります。日本の田舎の農家にも同じことがいえると思います。

 ◇どこから食べ物が来るか再発見を

 --わたしたちは便利な時代に生きていますが、そのぶん、いろんなものを無駄にしています。そういう社会を変えるために映画をつくっていらっしゃると思いますが、映画を楽しみにしている日本の方にメッセージを。

 大事なのは、どこから食材が来たのか気にかけて、食べ物と自分のつながりを再認識することです。消費社会・資本主義社会に暮らしていると、食べ物がどこから来たか見えにくくなってしまいます。とても大きな問題だと思います。食材はスーパーマーケットで育ち、魚は切り身の状態で泳いでいると思っている子供もいます。食べ物がどこから来るかを再発見して、自分とのつながりを認識してほしいです。

 あとは料理を始めること! 手作りの楽しみを知って、自分のためだけでなく、友達など、人のためにも料理をふるまってほしいです。喜びを分かち合うことができます。そういったところから一歩を踏み出し、少しずつ社会を変えていけるのではないでしょうか。

 もったいない精神の本当の意味を考えることも大事です。単に食べ物を大事にするだけでなく、命を大事にすること。食べ物を頂くというのは単にそれがエネルギーに変わるというだけでなく、命を頂くということです。だから食べ物を大事にするということは命を大事にするということ、人を大事にするということにつながります。

 --「もったいない」は元々仏教から来た言葉ですが、単にものを大事にするというのではなく、ものや事象に込められた心を大事にすることです。鎌倉時代の禅僧、道元の「典座教訓」の中に食材を大切にするという心が書いてあり感激したと以前話されてましたが、重要なご指摘です。映画のテーマは1作目も2作目も変わらないと思いますが、今回は日本各地のサステナブル(持続可能)な活動をしているところを回られ、ライフスタイルを少し変えてみよう、といった提案もされるのですか。

 はい。単に「0円キッチン」日本版を作るのではなく、次のステップに進むための作品になります。もちろん問題点も見せますが、具体的な解決策も提示します。食べ物の話だけでなく、サステナブルな生活とは何か、もったいない精神とは何か、食べ物とその源である命とのつながりを見せていく。これが最終的な目標です。単に残り物や食品廃棄物を使った料理を推進するのではなく、日本各地のいろんなよい取り組みを紹介して、映画を見た人の生活が変わるような映画になればと思います。

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グロス監督は現在、映画の製作資金をクラウドファンディングで集めている。詳しくは「MOTTAINAIもっと」で。https://mottainai-motto.jp/project/detail/297

最終更新:11/9(木) 18:13
毎日新聞