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<再生医療>ノーベル賞山中教授はなぜ走るのか

11/11(土) 10:00配信

毎日新聞

 ノーベル医学生理学賞を受賞した京大iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授(55)が、来年2月4日の第67回別府大分毎日マラソン大会の「カテゴリー4」(一般・持ちタイム3時間~3時間半)に初めてエントリーしました。参加資格タイムの厳しさから市民ランナーの「最高峰」とされるレース。大阪大招へい教授で医師の石蔵文信さんが、山中教授が今も走り続ける背景を解説します。【毎日新聞医療プレミア】

 先日、ある学会で、京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授と、理化学研究所プロジェクトリーダーの高橋政代先生の講演を聴く機会があった。山中教授は再生医療のトップランナー。自分の細胞からどんな細胞にも分化できるiPS細胞を作ったことでノーベル医学・生理学賞を受賞した。自分の細胞からできた臓器は拒絶反応がないため、術後免疫抑制剤などを服用する必要がない、夢の治療法と言われている。

 高橋先生は眼科医で、やはり再生医療のトップランナーだ。心臓や肝臓・腎臓などの臓器をiPS細胞から作り出すには多くのハードルがあり、実現してもかなりの時間が必要ではないかと思われる。しかし、実験に使うシャーレ(丸く薄いガラス容器)で薄い一層の細胞シートは作ることができる。

 高橋先生のグループは網膜色素上皮細胞のシートをiPS細胞から作ることに成功し、2014年9月、世界で初めて加齢黄斑変性症(かれいおうはんへんせいしょう)の患者さんへの移植手術を実施した。

 加齢黄斑変性は、50歳以上の1%以上が罹患していると言われる目の病気で、失明の原因の一つ。光を感じる網膜にある「網膜色素上皮細胞」には網膜を守る役割があり、高齢になってその機能が衰えて、極端に視力が落ちる病気だ。

 高橋先生らのグループはすでに、受精卵を用いた多能性幹細胞であるES細胞(胚性幹細胞)を、網膜色素上皮細胞へと分化させる技術を確立していたが、倫理的な問題から実用化が難しかった。ところが山中先生がiPS細胞を作られたことで突破口が開けた。まさに今度の臨床研究に参加した患者さんと同様に“光明がさした“のである。

 ◇高額治療や新薬の費用をどうまかなうか

 今後は、iPS細胞を用いた臨床研究が進み、難病の患者さんをはじめ、多くの患者さんを救えるようになるだろう。しかし問題はその費用。1例で数千万円、ひょっとすると1億円くらいかかるのではないか?と推定されている。もちろん、技術が進歩すればもっと安くできるだろうが、それでもかなりの費用が必要だ。

 がんの画期的な治療薬として登場した「オプジーボ」をはじめ、日本では高額な治療薬が次々と承認されている。患者さんには朗報だが、医療費をどうするかという問題が心配されている。先進国であっても経済的理由から最新の薬を必ず使えるわけではない。

 山中教授はまれな病気の治療に関しては大学のような専門施設に限り、その費用を募金や基金でまかなおうと提案し、自らマラソン大会に出場して寄付を募っている。1回の大会で1000万円程度の寄付が集まるようだが、必要な金額を考えると、山中教授は毎週マラソン大会に出場しなければならなくなる。

 医師から見ると、マラソンはあまりお勧めできるスポーツではない。ある統計では数万人に1人は死亡するような、少し危険なスポーツだ。趣味程度で走るのは良いとしても、数多くの大会に出場して、“日本の頭脳”に何かあっては大変だ。

 マラソン以外にも常時寄付のできる「iPS細胞研究基金」が設立され、税金などの控除対象にもなっている。インターネットで申し込むことができるほか、専用フリーダイヤル(0120・80・8748)で資料請求もできる。番号を覚えにくい人は「80(はしれ)8748(やまなかしんや)」と覚えると良いそうだ。

最終更新:11/11(土) 10:00
毎日新聞