ここから本文です

【記者の目】利根川中流域の広域避難協議 基準統一に温度差

11/13(月) 7:00配信

茨城新聞クロスアイ

利根川中流域の3県5市町が、氾濫時の広域避難に向け、協議をスタートさせた。古河市と坂東市、境町、埼玉県久喜市、群馬県板倉町で構成する「利根川中流4県境広域避難協議会」で、8月に発足。自治体ごとに異なる基準水位や情報発信のタイミング、住民への伝達方法などを統一する。隣接自治体が合同で避難基準を設けた例はなく、実現すれば全国初。ただ共通の避難基準に対する考え方には相当の差があり、実現には課題が多い。(古河支局・溝口正則)

■「どこでも発生」

「千年に1度の降雨はあり得る。(利根川の氾濫が)あることを前提とした備えが必要だ」。境町が10月26日に開いた防災講演会。防災研究の第一人者で協議会のアドバイザーを務める片田敏孝・東京大大学院特任教授は、2015年9月の関東・東北豪雨などを例に異常気象を解説。集中豪雨をもたらす線状降水帯や巨大台風による被害について「今後どこにでも起こり得る」と警告し、広域避難の必要性を訴えた。

境町の市街地は海抜10~12メートル。町の大半が低地だ。内水の河川もあり、関東・東北豪雨では大規模な冠水が発生。死者1人、住宅浸水493戸の被害が出た。同町に限らず、協議会の5市町は低地が多く、堤防に囲まれている。ひとたび利根川が越水すれば浸水は長期化し、多くの住民が避難を余儀なくされる。

■浸水最大93%に

講演会に先立つ10月5日、協議会は実務者レベルで課題を整理する幹事会を開いた。住民に避難を促す基準水位をどの観測地点にするかや、共通基準に基づく避難勧告などの発令をどのように決めるかなどが議題に挙がった。災害対策基本法では、避難勧告や指示は各市町村長が発令することになっている。

国交省利根川上流河川事務所(久喜市)によると、200年に1度の大雨が降った場合、左岸の浸水域は境町と久喜市、板倉町で約93~76%まで広がると想定される。このため境町の担当者は「広域避難の態勢づくりは必要不可欠」とし、「上流の情報が共有できれば、状況によって住民を逃がすことができる」と期待を寄せる。

■住民の混乱懸念

一方、古河と坂東の2市は広域避難の必要性を認識しつつ、共通基準の設定には慎重だ。最大の浸水域がいずれも約39%にとどまるからだ。

古河市は、基準水位を上流に設定した場合、下流の水位上昇にタイムラグがあることから、「県外2市町と県内3市町とを分けて考えるべき」。共通基準を設けると市の基準とのダブルスタンダードとなり、「住民に混乱が生じる」と懸念を示す。また坂東市は浸水しても住民全員を市内の避難所に収容できることから、「協議会での議論を足掛かりに別の災害における支援や避難の連携につなげたい」と位置付ける。

避難時の交通手段や、いつ誰が共通基準を発令するかなど、課題は山積している。同河川事務所の小栗幸雄副所長は「各県にも基準があり、垣根を越えてどうまとめるか。繰り返しの議論の中で課題を一つずつ解消しながら、5市町の広域避難への認識を高めていきたい」と話す。

利根川が氾濫すれば、浸水域は県境を越え、被害が広範囲に及ぶ。住民の命を第一に、5市町を「一つの地域」と捉え、意思統一が図られることを期待したい。

★利根川中流4県境広域避難協議会
国交省利根川上流河川事務所長と本県の古河市、坂東市、境町、埼玉県久喜市、群馬県板倉町の首長がメンバー。利根川の大規模水害を想定し避難態勢を構築するため、実務者レベルの勉強会を経て、8月22日に発足した。オブザーバーに、気象庁と茨城、埼玉、群馬、栃木の4県のほか、群馬県館林市と栃木県野木町、栃木市、佐野市の4市町。

茨城新聞社