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「ケガをするということは、まだ下手」体操・内村とフィギュア・羽生に共通する思考回路

11/13(月) 16:21配信

スポニチアネックス

 体操の内村航平(リンガーハット)は、個人総合の連覇が6で途切れた世界選手権(10月、カナダ・モントリオール)で言った。「ケガをするということは、まだ下手だから」。予選の2種目目、跳馬で左足首を痛め、棄権に追い込まれた。

 同じ言葉をフィギュアスケートの羽生結弦(ANA)も口にした。グランプリ(GP)シリーズのNHK杯を欠場。開幕前日、公式練習で右膝と右足首を痛めた。懸命に治療したが、本番の舞台には立てず。NHKの単独インタビューに、内村の言葉を引用しながら「ケガをするということは、まだ下手なところがあるということ」と答えていた。

 負傷の原因を自らの技術不足に求める。夏季と冬季、五輪で頂点に立った2人のアスリートは同じ思考回路を有していた。

 内村が痛めた技は「リ・シャオペン」だった。技の難度を示すDスコアは5・8点。白井健三の名がつく「シライ/キムヒフン」の5・6点を上回る大技だ。内村は跳ぶたびに「死ぬかもしれない」と感じていた。なぜ、跳ぶのか。「大きな舞台を経験してきて、上がってくるものがなくなっている。自分でプレッシャーを掛けて、上げるものがないと」。五輪連覇を始め、体操選手として得られる栄光は全て手にした。モチベーションを上げるためには、命の危険を感じるほどに追い込む必要があった。

 そして、世界選手権で内村は「リ・シャオペン」に挑んだ。15・166点は、個人総合の選手では白井に次ぐハイスコアだった。演技自体は成功だった。左足に想定外の負荷がかかったことだけが、誤算だった。

 羽生が負傷した技は、今季からフリーに組み込んだ4回転ルッツだった。基礎点は13・6点。誰も成功していない4回転半(基礎点15点)に次ぐ高難度のジャンプだ。なぜ、跳ぶのか。今季初戦のオータム・クラシックは難度を落としたことで逆にミスが出たとし、「自分が一番実力を発揮できる構成で、自分が本気を出せるプログラムでやりたい」とロシア杯開幕前にコメントしていた。

 ロシア杯で、羽生は4回転ルッツを決めた。18年平昌五輪に向けてさらに精度を高めるため、NHK杯でもアタックする予定だった。そして、公式練習の着氷で右足を痛めた。

 同じ採点競技で、五輪王者として大きな期待を背負う。日頃の交流はなくても、2人は互いに意識している。

 14年中国杯、羽生はフリー直前の練習で中国選手と激突。頭部などを負傷しながら強行出場し、賛否両論があった。そんな中、内村は「自分がコーチなら止めていた」とする一方で、「選手の意見を尊重した方がいい。僕も周りが止めても後先考えずに出ると思う」と理解を示していた。

 16年リオデジャネイロ五輪、内村はドラマチックな逆転劇で個人総合の連覇を果たした。「負けた方が楽だったかな」。勝ったがゆえに、これからも結果を出し続けなければならない。負ければ、一度は肩の荷を降ろせるはずだった。

 キングの偽らざる本音に、羽生は反応した。今年の世界選手権を制し、凱旋帰国の時の会見。内村の先の言葉を引用しながら、「どうしても(連覇を)意識してしまうものなんだと思う。自分の演技をどれだけ突き詰められるか。毎日の練習の中でメダル、連覇という意識をどれだけ払拭できるか」と自分なりに解釈していた。

 内村は豊田国際(12月9、10日)、羽生は全日本選手権(12月21~24日)での復帰を目指している。内村は肩を痛めていた時に、以前に使っていた筋肉とは異なる部位を意識的に使えるようになるなど、新境地を切り拓いた。「逆境は嫌いじゃない」と話したことがある羽生は、何度も苦難を乗り越えてきた。

 焦りを抑え、不安と闘い、傷が癒えれば、また真摯に汗を流す。勝負の舞台に戻ってきた時、増しているのは強さか、美しさか。「まだ下手」という思いが、2人の五輪王者を前へ進ませる。