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<日馬富士暴行>角界、変わらぬ体質 人気回復に冷や水

11/15(水) 2:40配信

毎日新聞

 4横綱誕生、本場所年間全90日の「満員御礼」も確実と我が世の春を享受していた大相撲に14日、冷水を浴びせる不祥事が発覚した。横綱・日馬富士関が、酒に酔ってビール瓶で前頭・貴ノ岩関の頭部を殴ったという暴力行為だ。不祥事を教訓に引き締められたはずの規律が、人気復活とともに緩んでいたのか。しかも当事者は「品格、力量抜群につき」推挙された横綱。問題の根は深い。【飯山太郎、上鵜瀬浄】

【写真】日馬富士から暴行を受けた貴ノ岩

 暴力行為は先月の秋巡業中に起きた。注目される本場所と違い、気の緩みがあったのかもしれない。

 実は今夏に関東地方で行われた巡業で、予見させる風景があった。稽古(けいこ)後に公開された力士の食事で、チューハイなどの酒缶がズラリと並んでいたのだ。土俵に行く途中に置かれたクーラーボックスにもチューハイ缶が入っており、まわし姿のままグビグビ飲む力士もいた。

 猛暑だったとはいえ、いわば業務中の飲酒行為。伝え聞いた日本相撲協会幹部の一人は、「信じられない。衆目環視の前で酒盛りとは」とあきれ果てた。また別の日には、酒に酔い、おぼつかない足元で土俵入りを務めた行司もいた。

 2007年の時津風部屋力士暴行死事件や11年の八百長問題などを受け、協会は綱紀粛正に努めてきたはずだった。しかし横綱が酒席でビール瓶で若手力士の頭部を殴るという常識外れの行為は、協会や師匠の目の届かないところでは、いまだに「緩み」があることをさらけ出したといえる。

 1990年代、「若・貴フィーバー」で空前の盛況を博した大相撲だが、03年の貴乃花引退で人気は急降下。05年には年間の巡業興行日数が最盛期の約6分の1の15日にまで落ち込んだ。さらに八百長問題が起きた11年には、ついに巡業は取りやめとなった。

 協会側は力士暴行死事件以降、外部有識者を交えた再発防止委員会を設置し、稽古場から竹刀をなくしたり、力士を直接たたかずに指導したりするなど、暴力追放を徹底した。08年に力士の大麻所持、10年の野球賭博と不祥事が続き、協会の外部理事に元検事を招いた。12年には協会内に危機管理部を新設。警察、医療関係者を招いた講演会に力士のみならず行司、床山、呼び出しを含めた全協会員を出席させるなど啓発活動を重ねた。14年には協会が公益法人化したこともあり、現在も外部理事の危機管理委員長や監事に元検事を入れている。

 こうした組織改革と地道な営業活動によって、大相撲人気は回復。巡業日数も今年は12月の冬巡業を含めて計78日間まで増えた。

 もっとも、危機管理部の管理下にある危機管理委員会は常設ではなく、問題が起きると対処しているのが実情だ。また今年4月、鈴木大地スポーツ庁長官や警視庁の元組織犯罪対策部長を講師に、賭博や違法薬物使用など反社会的行為に関与しないよう戒めたが、講演中に居眠りするなど、緊張感に欠ける力士もいた。違法行為に対する問題意識が浸透していたかは疑問符が付く。八角理事長(元横綱・北勝海)は14日、「相撲人気が良い時こそ脇を締めていたつもりだった。講習会も良い時だから続けてきたが、まだ協会員に響いていなかったということで残念」と語った。

 ある親方は「力士は土俵上では相手を張ったり、けたぐりもしたりするが、土俵を下りれば模範を求められる。難しい立場だけど、いい思いをしていることを忘れてはいけない」と語る。

 ◇横綱に問われる「品格」

 今年初場所後に稀勢の里が昇進し、17年ぶりの4横綱時代を迎えた。「豪華番付」とも言われる中での不祥事に横綱審議委員会の北村正任委員長(毎日新聞社名誉顧問)は「横綱が暴力ざたを起こしたのであれば、大相撲に対する評価にも大きく影響する。協会の厳しい処置を求めることになるだろう」とコメントした。

 力士が横綱に昇進後、初めて土俵入りを披露する東京・明治神宮での推挙式では、推挙状に「品格、力量抜群」と記される。その横綱が起こした品格を著しく欠く不祥事。ある元横綱は、日馬富士関の行為について「常識外れ。しかも酒の席でしょ。そんなのは論外」とやりきれない表情で語る。

 横綱審議委員会の内規で、横綱への推薦条件は「大関で2場所連続優勝か、それに準じる成績」と定められており、「品格」と「力量」のうち「力量」のメドは示されている。しかし「品格」は明確な定義がない。日本相撲協会幹部の一人は「(近年は)成績さえ残せば、品格が整わずとも昇進させてしまいがち」と指摘する。

 歴代4位の幕内優勝25回と「力量抜群」だった横綱・朝青龍関は、10年1月の初場所中に東京都内で泥酔して一般人の知人男性に暴力を振るい、鼻の骨を折る1カ月の重傷を負わせたとされる問題の責任を取って翌2月に引退した。史上最速で横綱昇進を果たしたが、協会内には「出世に品格も含めた心の成長が伴わなかった」との声もあった。日馬富士関も最悪の場合、引退に追い込まれる可能性がある。

 「品格」のとらえ方はさまざまだろう。しかし、大相撲の取材経験の長い元NHKアナウンサーの杉山邦博さんは、初代若乃花とともに1950年代に「栃若時代」を築いた名横綱・栃錦の言葉を引用する。「横綱にプライベートの時間はない。常に公人の自覚を持たないといけない」。引退後は春日野親方となり、74~88年の長期にわたって日本相撲協会理事長を務め、現在の両国国技館建設などの功績を残した栃錦は土俵の内外で周囲の模範となるよう振る舞うことが「品格」と考えた。

 横綱審議委員会は過去に幾度か、協会から推薦を受けながら見送る答申を出して昇進にストップをかけた例がある。協会による厳しい力士教育の必要性もさることながら、横綱審議委員会が推薦に値するか、見極めていく必要がある。

最終更新:11/15(水) 2:40
毎日新聞