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ワイヤレス充電対応で中身が大きく変わった「iPhone 8/8 Plus」

11/15(水) 6:05配信

ITmedia Mobile

 日本が世界に誇る戦艦「大和」。その最高速度は27ノット(約50km)であった。どのフネにも速度の限界はあり、そこから先は搭載兵器で勝負する。戦艦大和の武器は約1.5トンの砲弾を40km先まで飛ばす主砲だった。東京から横浜を超えて大船あたりまで届く距離だ。

iPhone 8/8 Plusを分解したところ

 AppleのiPhoneがさまざまな意味で世界最高峰であることは多くの人が認める。最新技術の粋を結集した小型電子機器の頂点であり、価格も同様だ。乗り物でいう「最大速度」に達したといえるだろう。販売価格上昇にも限度があるし、現在利用可能な機能はほぼフル装備だ。これはAppleだけでなく、韓国Samsung Electronicsや日本のソニーモバイルなど、多くの高級スマホメーカーの到達点でもある。

 その中で、Appleが勝負に出た「新兵器」にはどんなものがあるか、分解しながらご案内する。

●電子部品に「MEMS」を搭載、そのメリットは?

 日本で発売された「iPhone 8」と「iPhone 8 Plus」に初めて搭載された電子部品にMEMS(Micro Electric Mechanical System)ベースのタイミングデバイスがある。タイミングデバイスとは、ICの動作周波数や無線通信の交信周波数を定義する役割を持つ。さまざまな部品を調和よく動作させる指揮者のような存在だ。2016年までこの部品は水晶をベースにしたものだったが、2017年からMEMSベースの製品1個が採用された。米国カリフォルニアに本社を置くSiTime(2014年に日本のメガチップスが買収した)の製品である。

 MEMSの利点は、ICと同じくシリコンで作るため、ICのモットーである大量生産や小型化がしやすい点である。事実、iPhone 8/8 Plusに搭載されたMEMSベースのタイミングデバイスを水晶ベースの部品と比較すると、横幅はほぼ同じだが、縦サイズはMEMSの方が半分強だ。現在は水晶より値段が高いなどの難点もあるが、採用製品が増えるにつれて価格も下がり、課題の1つとされている精度も次第に向上するだろう。

●ワイヤレス充電対応で大規模工事が行われた

 ワイヤレス充電はコードレスで充電できる便利な機能だ。これまでのiPhoneはボディーがディスプレイ面を除き皿のようなアルミ合金で覆われていたため、ワイヤレス充電は使えなかった。Appleがワイヤレス充電を搭載するために行った設計変更は、まさに「大規模工事」といえる。従来は一枚皿だったところを、iPhone 8/8 Plusでは、ボディー周囲を巡る「フレーム」、電子部品を固定する「底板」、そして背面の「フタ」に分割した。

 iPhone 8/8 Plusのフレームにはアルミニウムが使われている。底板は、薄いステンレス板にワイヤレス充電アンテナ用の穴を空け、強化ガラスでフタをした。製造原価については諸説あるが、原価は50米ドルといわれている。アルミ合金製ユニボディーと比べるとアルミ合金の面積や加工エリアは減り、より安価なステンレス板や強化ガラスが使われているため、安くなったという見方がある一方、部品が増えれば組み立てコストが増すため、あまり変わらないという見方もある。

●ワイヤレス充電のアンテナを見る

 現在、ワイヤレス充電は国際規格化され、iPhone 8/8 Plusをはじめ、「Qi」というワイヤレス充電規格に対応するスマートフォンが増えている。iPhone 8/8 Plusに採用されたワイヤレス充電は、充電台とスマホにコイルを設置し、充電台のコイルに電気を流すとスマホ側のコイルにも電気が流れる特性を利用したもので、「電磁誘導方式」とも呼ばれている。充電時間と無線距離は比例しており、Qiでは充電台とスマホを密着させる必要がある。

 この他に、電気自動車などの充電に使用され、多少離れていても充電可能な「磁界共鳴方式」や、ワイヤレス充電の距離が長い「電波受信方式」などが存在する。

 iPhoneの背面ガラスカバーを外すと、円形の黒いワイヤレス充電アンテナが表れる。ノイズ対策のために黒いシートでラミネートされており、このシートの内側に渦を巻いた銅箔(どうはく)と思われる金属を配置したアンテナが表れる。

●ワイヤレス充電の普及は店舗のミッション

 Samsung Electronicsのスマートフォンは以前からワイヤレス充電に対応しているが、証券アナリストへのインタビューによると、ワイヤレス充電器を購入するのはユーザーの20%程度とのこと。現時点で個人が持ち歩くと、ケーブルに加え、皿のようなワイヤレス充電器も持ち歩かねばならず、持ち物が増えてしまう。

 普及のカギは、スマホを比較的長時間置くオフィスや会議室の机、コーヒーショップのテーブルなどにあると筆者は思う。現在のワイヤレス充電器の充電速度は有線より遅いため、単体では勝負にならない。普及にはワイヤレス充電を何かのサービスと連携させることが必要だろう。

 例えば、ワイヤレス充電台にプリンタや小型ディスプレイを設置して、その場所に関連する広告やクーポンを配信すると、お得感が増し、充電にかかる時間を勘案しても魅力を感じる人が増えるかもしれない。新幹線のテーブルにも設置すると喜ばれるかもしれないし、ドリンクなどの売り上げアップにつながる可能性もあるだろう。

●日本部品の存在感は高い

 iPhone 8/8 Plusの部品総数は約1300個。この中で最も数量が多いのは、セラミックコンデンサーや抵抗器など受動部品と呼ばれる極小部品だ。その中でもとりわけ小さいサイズの部品は縦横サイズが0.4×0.2mmで、およそ400個搭載されている。日本メーカーだけが量産可能といわれており、これだけでも部品総数の25%以上が日本製となる。

 これに加え、CMOSイメージセンサー、オートフォーカス機構、光学式手ブレ補正機構など、カメラを構成する部品のほぼ全てを日本メーカーが供給している。また複数購買のためモデルにより異なるが、ディスプレイ、バッテリー、Force Touchセンサー、フレキシブルプリント基板、振動モーターなど、日本メーカーが供給している部材は多い。日本抜きではiPhoneは作れないのだ。

●バッテリー容量が減った

 iPhoneのバッテリー容量は巨大ではないが、毎年少しずつ増えてきた。しかしiPhone 8/8 Plusでは減少した。iPhone 8のバッテリー容量は1821mAhでiPhone 7より約7%減り、iPhone 8 Plusは2691mAhでiPhone 7 Plusより約7%減った。

 容量減少には2つの理由があるといわれる。1つはバッテリーの原料であるリチウムやコバルトといった材料価格の高騰だ。例えばコバルトは2016年比で2倍以上になった。iPhoneのように数億台単位で生産される製品だけに、原材料費高騰をしのぐための容量カットしたという見方もあるが、一方で、これだけの数量になると原材料費の高騰は無視できるはずという見方もある。

 もう1つ、バッテリー容量減少の理由として論じられているのは、2016年にSamsung Electronicsの「Galaxy Note7」で発生した発火事故の影響を受け、バッテリーの性能を控えめにしたというものだ。2017年のiPhoneは急速充電にも対応し、バッテリーへの負荷が増えた。全ての性能アップを同時に実現するよりも、部分的な機能アップにとどめて、iPhone 7/7 Plusと稼働時間が大きく変わらない程度に容量を減らしたのかもしれない。

●iPhone 8/8 Plusのバッテリー膨張は不具合か?

 iPhone 8/8 Plusの発売直後、まだ使っていないiPhoneのバッテリーが膨張したとの報道があった。Galaxy Note7のバッテリー問題を思い出した人も多いだろう。しかし今回のバッテリー不具合はNote7のケースとは本質的に異なる。バッテリー不良をゼロにすることは事実上不可能といわれており、不具合発生時に備えた複数の安全装置が組み込まれている。

 バッテリーパックの膨張は安全装置の1つであり、異常を起こした箇所を局限化する。さらに防爆弁なども搭載され、さらなる不具合に備えている。バッテリーの膨張は安全装置が正常に作動したことを示している。

 バッテリーの不具合とは、これらの安全装置が作動せず、または作動しても制御しきれず、燃えてしまうことである。バッテリーは花火のごとく、一度発火すると燃え尽きるまで燃焼する。こうなるとユーザーにできるのは、水をかけ続けることくらいだ。バッテリー不具合の有無は究極的には「燃えるか燃えないか」で区分できるだろう。

 一部の調査結果は、今回のiPhoneのバッテリー膨張の原因がバッテリー本体ではなく、メイン基板とバッテリーを接続する部分に起因する可能性を示している。

最終更新:11/15(水) 6:05
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