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内閣府、自動運転技術の最新情報を共有する「SIP-adus Workshop 2017」レポート

11/15(水) 15:41配信

Impress Watch

 11月14日~16日にわたり、内閣府が推進するSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)事業のワークショップ「SIP-adus Workshop 2017」が開催されている。SIP-adus Workshopは、日本や欧米諸国において自動運転の実証実験やインフラ整備などにかかわる専門家、政府関係者、自動車メーカーらを招いて行なわれたもので、2014年に発足してから今回で4回目。初日の講演やパネルディスカッションでは、各国における自動運転の実現に向けた技術の進捗や、今後の展望が明らかになっただけでなく、その地域特有の事情から露見した困難な課題などについても解説があった。

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■産学官連携で“次世代の交通システム”構築を目指す「SIP-adus」

 初日の14日は、内閣府特命担当(科学技術政策)の松山政司大臣が壇上に上り挨拶。「自動走行システムは、地域の交通手段の確保、ドライバー不足の解消など、誰もが快適に移動できる社会の実現。自動車産業の競争力強化、物流産業の効率化、さらには交通事故の削減、交通渋滞の緩和、安全かつ円滑な道路交通社会の実現など、さまざまな観点で少子高齢化対策や生産性革命などに寄与する科学技術イノベーションとして、大変重要なもの」と語った。

 SIP-adusの現在の事業進捗については、SIP-adusのプログラムディレクターを務めるトヨタ自動車の葛巻清吾氏が説明。2020年までに次世代の交通システムを構築することを目的に、2014年から2019年までの5カ年計画で進められている同事業では、現在のところ、自動運転を実現するための要素技術である「Dynamic Map」「HMI」「Cyber security」などについて研究・開発が行なわれている。

 Dynamic Mapは、障害物や車両の位置を正確に検出するための技術分野。事前に収集した高精度3Dマップデータと、走行する自動車がセンサーで検知した周辺状況とを比較し、地形情報、他車両、歩行者、交通標識などを4つのレイヤーで管理しながら、障害物検知や自車位置検知などを正確に行なえるようにする。またHMIは、車両が表示する情報がドライバーの行動にどのように影響するか、といったようなインターフェースの分析・検討を行なう分野で、Cyber Securityはコネクテッドカー化によって狙われやすくなる無線通信などにおけるリスクの評価と対策を検討する分野となる。

 SIP-adusでは、これらの技術を用いた路上走行など各種実証実験を2017年10月から開始したところ。SIP-adusに参画している研究施設、企業らによる産学官連携をつうじて、自動運転車の実現に向けた「技術開発の活性化、要素技術の立証」を目指すとともに、「国際協力して標準化を図る」ことも目標としている。

■自動運転のインフラ、海外の状況は?

 講演では、米運輸省で「新しい輸送システム」を検討する部門に所属するケネス・レオナルド氏が、自動運転で不可欠とされるV2X(車車間、路車間通信)について言及した。「天候情報を1秒間当たり10回も更新する必要はないわけだから、全ての通信が(高速ネットワークによる)低遅延でなくてもいいし、DSRCでなくてもいい。ただ、米国内で発生している事故の94%は人的なミスから発生している。これをなくす方向で自動化を進めていく」と話した。

 欧州委員会のルジェー・ロゲ氏は、EU圏の自動運転、コネクテッドカーに関する状況を解説。同委員会では、自動運転の実現に向けた自動車業界支援のための仕組みとして「Gear 2030」という取り組みをスタートさせており、そのなかで「型式認定の仕組みを自動運転車にも適用する予定」と語った。

 標準化作業が進む次世代高速通信技術の5Gについては、多数の国々が隣接するEUということで「国境を越えた試験も重要なテーマ」(同氏)のため、国境を越える道路で試験を行なっていく方針を示した。また、自動運転に向けた実証実験「L3Pilot」も紹介。2017年9月から4年間の計画で、6800万ユーロの予算を投入し、EU 11カ国で100台の自動運転車、1000人のドライバーによる駐車、追い越し、都市交差点での走行試験をスタートしていることも紹介した。

 元ボルボのヤン・ヘラカー氏は、現在「DRIVE Sweden」と呼ばれるSIP-adusに似たスウェーデンの自動運転推進プロジェクトに関わる人物。12年もの長期の計画で現在は2年目となる。同氏は、それより以前の2013年に取り組みを発表していたプロジェクト「Drive Me」の実証実験が2017年12月からいよいよスタートすることを明かした。

 同プロジェクトは、100世帯の一般家族がドライバーレスの完全自動運転車で、特定の50km程度の公道を移動できるようにするもの。「自動運転に疑問を持つ人もいるが、募集したところ4000世帯から応募があった」と、前評判の高さをアピールした。

■積雪地域の自動運転には「レベル5」とは違う考え方が必要か

 フィンランド交通局のリーヤ・ヴィーナネン氏は、「半年間雪に覆われている」という雪国ならではの事情を吐露した。同氏は「インフラ、自動運転車のどちらから着手すればいいのか」と疑問を投げかけ、雪でテールランプが見えなくなっている自身が運転するテスラの写真を紹介した。いくらクルマが自動運転になっても、識別のための表示が雪で隠れてしまえば意味がない、というわけだ。

 同氏は、積雪はフィンランドだけの問題ではないとする。「世界人口の70%以上が降雪地域に住んでいる」からだ。自動運転を目指すからには、単純に「自動運転レベル5」を目指すのとはまた違う次元で、あらゆる環境で自動運転できるようにする必要があるとし、フィンランドではその北方のノルウェーと連携し、「オーロラ・ボレアリス」プロジェクトを推進しているという。

 同プロジェクトでは、フィンランドからノルウェーに抜ける「コリドール(回廊)」において、自動運転にかかわる実証実験が可能になるようインフラ整備を進めている。道路にセンサーやレーダーなど各種設備を設置し、誤差5cm精度の位置情報、デジタルマップなどさまざまな情報をコネクテッドカーに提供する。同氏は「凍結状態で(道路に設置している)機器がどれくらい耐えられるかも試験したい」とも述べた。

 オランダ環境省でコネクテッドカーや自動運転のシニアアドバイザーを務めるトム・アルキン氏も、同国内で自動運転にかかわる実証実験を本格的にスタートさせていることを紹介。ほとんど雪の降らない地域でテストできることから、「雪の中でテストしたくなかったら、オランダへ来てほしい」とジョークを交えてアピールした。

 同国では最近になって新政権が立ち上がり、インフラに関する法整備のなかで「インフラの設計、構築、整備をする際には、道路や沿道において自動運転に必要なシステムを考慮しなければいけない」という項目が盛り込まれたという。これにより、今後自動運転に最適な環境が構築されるものと期待されるが、「まだまだ(正確な自動運転に向けては)不確実性が多い」と同氏。

 例として、同氏が自動運転車の実験車で走行中、対向車が迫っている場面で、路面のマーカーなどの問題から対向車側にステアリングが切られた危険な場面があったことを挙げた。また、別の場所では、新しいアスファルトを舗装したときの車線中央の継ぎ目が、レーンチェンジアシスト機能付きのクルマによって白線と見誤られ、走行時の挙動に問題があったことも解説した。

 将来的に車両側の認識処理が改善されることでこれらの問題をクリアできる可能性は高い。または、こうした路面の表示、継ぎ目などを改修して、より自動運転に適した環境にしていくという考え方もあるが、国土全体で見ると莫大なコストがかかるものと予想される。安全な自動運転の実現には、車両の技術的側面だけでなく、インフラにおいても、残されている課題がまだまだ多いことを改めて印象付けるものとなった。

Car Watch,日沼諭史

最終更新:11/15(水) 15:41
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