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路線と思惑の交錯―― 阪急神戸本線と神戸市営地下鉄の直通計画

2017/11/24(金) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 11月15日の読売新聞記事「阪急・神戸市営地下鉄の乗り入れ協議へ」によると、阪急阪神ホールディングスの社長が14日に記者会見した中で、阪急神戸本線と神戸市営地下鉄西神・山手線の相互直通運転について「スピード感を持って協議する」と答えた。

【神戸市営地下鉄、阪急神戸本線とその周辺の鉄道路線】

 実現すれば、神戸市営地下鉄から大阪・梅田方面に乗り換えなしで行ける。地下鉄と地下鉄沿線にとっては価値向上につながる。阪急電鉄にとっては、三宮で地下鉄からJR神戸本線(東海道本線)に乗り換えていた乗客をごっそりいただける。双方にとって良い話だ。

 この構想については1カ月前に大きく報道された。神戸市では10月22日の市長選で久元喜造市長が再選を果たした。その公約の1つが相互乗り入れの実現だったからだ。地下鉄沿線の市民からも大きな期待が寄せられたに違いない。市長は当選翌日、23日の記者会見で「検討を加速する」と語り、神戸市としても24日に本格的な検討を始めると明言した。

●新構想の連発で2017年をにぎわせた阪急電鉄

 阪急神戸本線と神戸市営地下鉄の相互直通構想は、04年に阪急電鉄側が構想し、神戸市営地下鉄に打診していた。しかし、地上にある阪急三宮駅を地下化する大工事で、当時でも総事業費が1000億円を超えると見積もられており、神戸市側が難色を示していた。それから10年以上たって、現職市長が公約に掲げるまでに至った。現市長は前市長の指名後継候補だった。前市長時代は渋り、現市長は前向き。神戸市側にどんな変化があったのだろう。

 一方、阪急電鉄側は急な進展に驚いていたと思われる。今年に入って阪急電鉄は3本の新線構想を打ち出している。神戸市営地下鉄直通計画は構想にとどまっていたため、現在の阪急からすると、4番目の新線計画という感覚になるだろう。

 阪急電鉄の新線計画の1つ目は「なにわ筋線計画」に関連して、十三とうめきた新駅を結ぶ路線。この路線は阪急の線路規格(軌間1435ミリ)ではなく、JRと南海の線路規格(軌間1067ミリ)に合わせるとまで譲歩し、関空への直通運転を望んでいる。

 2つ目は、1つ目の路線を十三から逆方向へ延伸し、新大阪駅へ結ぶ路線。なにわ筋線もJRの貨物線を転用して新大阪駅まで通じているけれども、JR西日本は南海電鉄の直通には抵抗しているとうわさされており、南海電鉄の関空特急「ラピート」は、この阪急の新線を経由して新大阪と関空を結ぶとも考えられる。

 3つ目は伊丹空港直結線だ。阪急宝塚線の曽根駅から分岐し、伊丹空港ターミナルビルの地下に至る路線だ。実現すれば梅田と伊丹空港が15分程度で結ばれるとみられる。空港と大阪都心のアクセスが大幅に改善される。近畿圏在住者だけではなく、他の都道府県から大阪へ向かう人にとっても関心が高い。国家的プロジェクトにしてもいいくらいの構想だ。

 そして4つ目に阪急神戸本線と神戸市営地下鉄の相互直通構想が浮上した。大手私鉄の阪急電鉄とはいえ、これだけのプロジェクトを同時進行する体力と資金力があるか。優先順位を設定する必要があるだろう。資金の面では、交通インフラ事業だけに自治体や国からの支援を期待できるはず。支援を取り付けやすいところから始めるという考え方はある。しかし、人材面は工事の従事者、管理者など資源に限界がある。どの路線を優先するか、そのプロジェクトが阪急電鉄の路線網にどれだけ貢献するかを考慮して配分する必要がある。

●都市鉄道等利便増進法で阪急の建設負担なし?

 阪急神戸本線と神戸市営地下鉄西神・山手線の直通運転について、解決すべき大きな課題は2つある。1つは1000億円以上と見積もられた巨額な工費だ。この工費の最大の使途は阪急神戸本線の高架路線を地下に移す費用だ。04年の時点では、阪急が自社に利する路線改良を行うわけで、費用負担は阪急主体がスジだ。

 ただし阪急は国土交通省が05年に新設した「都市鉄道等利便増進法」に基づく支援制度を受けるつもりだった。都市鉄道等利便増進法では、新規整備区間を上下分離方式で整備し、線路側会社の建設費用は国が3分の1、自治体が3分の1、残りを借入金などでまかなう。この借入金については、鉄道営業会社から受け取る線路使用料で返済していく。

 この枠組みでは、阪急電鉄は開業後の施設使用料を負担するだけだ。もっとも、言い出しっぺの会社としては、そんなに都合の良い案では神戸市も国も納得しないだろうから、線路側会社への拠出は必要になると思われる。

 神戸市にとっては、線路側会社へ3分の1の出資の必要があり、また、地下鉄事業者でもあるから、運行会社として線路使用料を支払う立場でもある。神戸市の負担割合が大きすぎないかという懸念はある。もう1つ、車両に関連する費用がある。

 阪急電鉄の列車は8両編成が基本。西神・山手線は6両編成で運行している。相互直通運転を実施し、梅田まで直通させたいなら、西神・山手線の全ての編成を8両編成にする必要がある。しかも、線路の規格は同じでも、車両の幅が異なる。阪急側の車体幅は2750ミリ、西神・山手線の車体幅は2790ミリ。西神・山手線の方が4センチ大きい。西神・山手線の電車は、そのまま阪急に直通できない。

 阪急電鉄の全てのプラットホームを削り、地上の設備の配置を検証していくか、西神・山手線に幅の狭い新型車を導入して入れ替えるか、という問題が生まれる。西神・山手線の古い車両は約40年が経過し、そろそろ入れ替え時だ。最後に整備した車両も25年が経過している。まだまだ使えそうだけど、総入れ替えが必要だ。西神・山手線の車両新造で解決した方がいい。

 こうした負担と直通運転によってもたらされる利益のバランスが取れているか、神戸市が慎重に検討したいという気持ちは理解できる。しかし、このたび神戸市長が前向きとなったからには、費用負担についてのハードルは下がったとみて良さそうだ。

●クロスする運行形態になる?

 課題の2つ目は「運行形態」をどうするか。2つの路線が相互直通運転する場合、両社の終点同士をくっつけて1本化するという話なら簡単だ。しかし、この構想では、2つの経路それぞれの中央で結び、新たなルートを作る形になる。運行本数を純増するなら問題ないけれども、もともとあった路線の旅客需要を超える供給量にするわけにはいかない。つまり、相互直通運転から外れたルートは減便になるだろう。

 阪急神戸本線は三宮から神戸高速鉄道に乗り入れて新開地に至る。神戸市営地下鉄西神・山手線は、ニュータウンから三宮を経て、山陽新幹線の新神戸駅に至り、さらに北神急行電鉄で谷上まで直通する。このルートは、谷上で神戸電鉄と接続し、神戸市の北部地域と神戸都心を結ぶ役割がある。減便されるとすれば、神戸高速鉄道の三宮~新開地、西神・山手線の三宮~新神戸だ。運行本数を維持するなら、三宮駅で折り返す列車を設定するしかない。

 この運行ルートの「ねじれ」を解決するためのウルトラC的な解決案は、阪急神戸本線と西神・山手線の西側の相互直通に加えて、神戸高速鉄道と西神・山手線の東側、さらに北神急行との相互直通運転を実施し、クロス型の路線網にすると良さそうだ。しかし、これを実現するためには、三宮駅の大規模な改修が必要で、とうてい1000億円では済まない。新開地方面と新神戸駅の直通運転は沿線からも歓迎されそうだけど、ちょっと夢見がちな話である。

 お金のかかる話ばかりで、今後の需要予測など具体的な検討結果が待たれる。しかし、阪急神戸本線の三宮駅側を地下化し、線路を西神・山手線に寄せることで、現在の阪急三宮駅付近の地上駅部分は再開発ができる。東京・渋谷で東横線の渋谷駅を地下化し、跡地にさまざまなビルや施設が作られるように、三宮に新しい街区を出現させるという副産物もありそうだ。こうした新しいまちづくりも含めて、この相互直通プロジェクトの行方に期待したい。

(杉山淳一)