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「心は男」なぜ女性刑務所 性同一性障害の県内被告、「死ぬほど苦痛」涙の訴え

2017/11/24(金) 5:00配信

北日本新聞

 「女性刑務所に入るくらいなら即、死刑にしてほしかった」。窃盗の罪で服役することになった県内の20代被告が、拘置施設の面会室で悲痛な声を響かせた。頬には涙の跡が幾筋も光る。髪は肩まで伸びているが、声は低く、一見した限りでは性別が分からない。被告には、体は女性だが心は男性という性同一性障害がある。控訴審判決が出た直後の今月21日、金沢刑務所拘置区(金沢市)で面会し、現在の心境などを聞いた。 (社会部・中島慎吾)

 被告は6月、県西部の商業施設で食料品などを盗んだ疑いで逮捕、起訴された。執行猶予期間中の犯行だったこともあり、一審富山地裁高岡支部で懲役1年の判決を受けた。猶予されていた刑期を合わせると3年4カ月ほどになる。

 性別を変更するため、かねてから適合手術を望んでいたが、経済的な理由で受けられずにいた。性同一性障害の専用刑務所はなく、このままでは戸籍上の性別に従って女性刑務所に入ることになる。それを避けるには実刑から逃れるしかない。執行猶予付き判決を求め、名古屋高裁金沢支部に控訴した。

 しかし、面会直前の判決で一審の判断が変わることはなかった。「社会内での更生の道を自ら閉ざした。障害を酌むとしても限界がある」。安易に犯行を繰り返したと断じる裁判長の言葉が法廷に重く響く。「これ以上どうしようもない」。風船から空気が抜けるように闘争心を失った被告は、この日のうちに上告する権利の放棄を申し出たという。放棄が確定すれば受刑者として服役することになる。

 自らが犯した罪に対し懲役刑を受けることはやむを得ない。だが、女性として服役を強いられるのは「二重の刑罰」だと感じている。男性の外見を保つためのホルモン投与も逮捕後は受けられず、女性に近づいていく自らの容姿に強い嫌悪感を抱くようになった。「自殺したい」との思いも頭をよぎる。

 一方で、それに打ち勝ち、罪を償って出所できたなら、同じ境遇の人を支えたいとの願望もある。「もう誰にも同じ思いをしてほしくない。刑務所で体の自由が制限されても、性別の自由は奪われないよう、世の中を変えたい」


■処遇配慮も議論不十分 
 全国の刑務所は、法務省から2011年に通知された指針に基づき、一定の配慮の下で性同一性障害のある受刑者を処遇している。だが、その配慮の程度や、指針運用の在り方の議論が不十分と指摘する有識者もいる。

 同省成人矯正課によると、性同一性障害と診断されたり、その傾向があるとされる受刑者は、2016年3月時点で全国に約50人いた。現在も一定数いるとみられる。

 指針では、性別適合手術を受けるなどして一定の条件を満たし、戸籍上の性別を変えた場合は、変更後の性別で施設が決まるとしている。

 性別を変えていないケースでも、豊胸手術でブラジャーが必要な者には貸与できる、心の性が男性である者は短髪にすることが可能などと記載。さらに15年の改正で、手術で女性に外形を変えた者に対しては、入浴や身体検査の際、原則的に女性職員が監視などを行うことになった。

 だが、障害のある受刑者が不安を感じる点は残っている。ホルモン投与は、外形維持を目的とする場合は原則認められない。心身への暴力など他の受刑者とのトラブルを防ぐ方策も具体化されておらず、指針運用に対する不服申し立ての仕組みも明らかになっていない。

 性自認や性的指向に関する法政策を研究する高岡法科大の谷口洋幸教授は「ルールはあっても、しっかりと運用されるか担保されていないのが現状」と指摘。申し立て制度を明確にすることや、刑務官が障害への理解を深める研修の実施、障害のある受刑経験者の意見を指針に反映させることなどが必要としている。


◆ズーム◆
 性同一性障害 生まれ持った体の性別に強い違和感を覚える医学的な疾患名。▽反対の性に強い同一感を抱く▽自分の性に対する不快感、不適切感がある-などに該当し、精神科医に認められた場合に診断される。性同一性障害特例法に基づき▽生殖腺がないか、その機能を永続的に欠く状態にある▽20歳以上-などの条件を満たせば性別の変更が認められる。

北日本新聞社

最終更新:2017/11/24(金) 17:14
北日本新聞