ここから本文です

<シリア難民>「本当の平和実現は」英国で望郷の思い募る

12/5(火) 19:10配信

毎日新聞

 【ロンドン矢野純一】過激派組織「イスラム国」(IS)がシリア国内で支配地域の大半を失う中、英国で暮らすシリア難民は国の行く末を注意深く見つめている。経済的に豊かな英国での定住を決めている難民もいるが、帰国を夢見る難民は「本当の平和が実現するのか」と将来に希望を見いだせないままだ。

 「戻りたいけど、いまの状況では戻れない」。英中部バーミンガムで暮らすシリア中部ホムス出身の元学校教師ムサさん(40)は肩をすくめた。故郷の状況は他の難民やインターネットの情報を頼りにしている。「戦闘は落ち着いている」「また戦闘が始まった」……。情報は錯綜(さくそう)し、何が本当か分からない。はっきりしているのは、イラクやアフガニスタンと同じように戦闘が表面上、終結しても不安定な状態が続いていることだけだ。

 現地からの情報によると、街を支配していたISを名乗る武装勢力は主義も主張もなかったという。街で犯罪に関わっていた「怪しいやつら」が混乱に乗じて武器を取り、その時々の状況に応じて、勢力の強い組織に加担していた。「今、戻っても誰が敵か味方かも分からない」と不安を口にする。

 ムサさんは、姓がシリアのアサド大統領に近い人物と似ているという理由で、妻や兄姉、両親が次々に武装勢力に殺された。2015年3月にトルコに逃れ、英国にはトラックの荷台に潜り込んでたどり着いた。シリア出身を証明する書類などがないとの理由で難民申請は拒絶され、係争中だ。英政府の支援で小さなホテルなどを転々としているが「他のシリア難民が、どんな背景を持っているか分からない」から姓は難民仲間に明かさず、距離を置いて孤立している。「いつかは家族が眠る街で自分も最後を迎えたい」。望郷の思いが募る。

 英国赤十字によると、シリアの一部地域では、まだ戦闘が続くが、沈静化した地域では人々が戻り始めているという。同赤十字の広報担当者は「戦闘の停止は、安全を意味しない。インフラ施設が破壊されており、難民の帰国と生活再建のためには長期の支援が必要だ」という。

 【ことば】英国のシリア難民

 欧州連合(EU)が難民受け入れ割り当てを決める中、英国は割り当てには参加せず難民に厳しい姿勢を見せている。トラックの荷台に隠れるなどして英国に渡ってきたシリア難民の申請は2012年から16年までに約1万件。

最終更新:12/5(火) 19:26
毎日新聞