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目撃!オスカー女優レイチェル・ワイズ、007とは“ほっこり夫婦”

12/5(火) 18:49配信

Stereo Sound ONLINE

大女優ジュディ・デンチに近づく

 12月8日公開の『否定と肯定』は実話を映画化した社会派作品であり、スリリングな裁判劇の醍醐味も味わえる秀作だ。

『輝きの海』での初々しいレイチェル

 主演のレイチェル・ワイズが演じるのは、アメリカに住むユダヤ人の歴史学者。彼女は著書で、イギリスの歴史家デイヴィッド・アーヴィングが訴える“ユダヤ人大虐殺はなかった“とする<ホロコースト否定論>に真っ向から対立する主張を繰り広げ、アーヴィングから名誉毀損で訴えられたのだ。

 映画は、勝手の違うロンドンの法廷を舞台に戦う彼女の姿を描いたもの。時に理不尽な理論に憤り、時に苦悩し、彼女をバックアップする大弁護団への猜疑心に苛まれながらも、やがては彼らと手を組んで“真実“を伝えていく。

 そのきめ細やかにして重厚な演技と存在感は圧倒的。レイチェル自身が敬愛するイギリスの名女優ジュディ・デンチの若き日を彷彿とさせる貫禄だ。


■すっぴんが美しい29歳のレイチェル

 レイチェルに初めて会ったのは、18年前。『輝きの海』(97年)が日本公開される1999年6月の数ヶ月前のことだ。

 当時のレイチェルは、1994年の『デスマシーン』でスクリーン・デビューし、キアヌ・リーヴス共演の『チェーン・リアクション』(96年)でハリウッドにも進出。さらにショーン・マサイアスの演出による舞台『生活の設計』に出演したレイチェルを見初めたベルナルド・ベルトルッチ監督が自作の『魅せられて』(96年)に抜擢したこともあって、<期待の若手女優>として注目されていた。

 しかし、取材対象となる主演作『輝きの海』は小規模作品であり、単館での公開だ。となれば、映画会社が多くの宣伝費を費やすことは稀である。

 しかし、そんな事情もふまえた上で作品に、いや“レイチェル推し”に燃えた配給会社は、私ともうひとり、映画ライター佐藤友紀さんをイギリスへと飛ばすことにした。いまとなってはその採算無視の決断に感謝するばかり。おかげで貴重な体験をさせていただいたのだから。

 まずは、取材場所がロンドンではなく、ウスターシャー州にある小さな街。そこで舞台のリハーサルをしているというレイチェルに会うために、私たちはパディントン駅から汽車に乗った。

 お恥ずかしい話、それまでかの有名な駅に足を踏み入れたことがなかった私は、かなり興奮した。なんたって愛らしいぬいぐるみのパディントンゆかりの駅だもの。アガサ・クリスティの小説でもお馴染みだしね。汽車で目的地に向かう途中には“ウスター・ソース”発祥の地であるウスターという駅もあったし、車窓から見える緑豊かな風景も美しい。

 そして降り立った街には花が咲き乱れ、さすがガーデニングの国=イギリスと感心しきり。じつは、私は旅行がそんなに好きじゃない。だからこそ、こんな機会でもなければ、こういった風景には一生お目にかかれなかっただろう。

 さて、肝心のレイチェルである。古びた教会を改造したような建物の中で彼女が稽古をしていたのはショーン・マサイアスが演出する『去年の夏 突然に』(後のロンドン公演は大成功だった)。白いTシャツにスウェットパンツという稽古着のまま現れた29歳の彼女の頬は、うっすらと汗をかきピンク色に染まっていた。すっぴんが美しい。

 正直、『輝きの海』の撮影がかなり昔のことであり、いまや敬愛するマサイアスの舞台に集中しているせいもあって、映画自体のコメントは少なかったけれど、演技については熱く理論的に語っていた。まるで新人女優のような初々しさと真摯さで……。


■秀作『ナイロビの蜂』でアカデミー賞助演女優賞を受賞!

 そんなレイチェルと再会したのは、『輝きの海』と同時期に公開された大作『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』が大ヒットしてスター女優になった後で、ジュード・ロウ共演『スターリングラード』(01年)のロンドン・ジャンケット。真摯で率直な物腰はそのままだったけれど、なによりスター女優の輝きを放っていて、あらためて“ハリウッドの水で磨く”効果を目の当たりにした思いだった。

 以後、『アバウト・ア・ボーイ』(02年)、『コンフィデンス』(03年)などに出演しているけれど、う~ん、彼女自身のキャリアとしてはぱっとしなかった。

 しかし、力があれば華は咲くものだ。そう、『ナイロビの蜂』(05年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞! イギリスの小さな街で会って以来、密かに、勝手に親近感を抱いて応援していた私にとっても、それはそれは嬉しい出来事だった。大好きな作家ジョン・ル・カレの原作を映画化した作品自体も素晴らしい出来だったから、喜びはヒトシオだ。

 さて、レイチェルとの3度目の会見は、2012年の『ボーン・レガシー』の公開前。ロサンゼルスのスター御用達ホテル、フォーシーズンズホテルでの会見となったのだが、なんとも嬉しいハプニングあり。インタビュー前に行ったホテルのレストランに続くバーのカウンターに、2011年に結婚したばかりの旦那様=“007”ことダニエル・クレイグがポツンと座っていたのだ。


■微笑ましい夫婦の姿にほっこり

 スタッフによればお仕事のある妻レイチェルの送り迎えをしているとのこと。なるほど、夕方にはダニエルがハンドルを握るピックアップ・トラックにレイチェルが乗り込んで去っていった……。

 思えば、初めて会った頃のレイチェルの恋人は演出家のサム・メンデスであった。そのサムをケイト・ウィンスレットに譲り(?)、同じく演出家のダーレン・アロノフスキーと婚約して長男を出産したが破局。その後、2010年頃から交際していたダニエルと結婚した。たぶん才能に惚れるタイプ、なのかもしれないなぁ。

 ともあれ、その微笑ましい夫婦の姿は幸せに満ちていて、こちらもほのぼのとしてしまった。その時のインタビューでも「本作でアクションを経験したことでダニエルの苦労もわかりましたか?」という質問に対して「私たちは役の痛みや悩みはまったく話さないの。日頃の会話は、本当に普通の日常的なことばかり。夕食のメニューを相談したりとかね」。

 現在、ロンドンからNYのマンハッタンに移り住んでダニエルと息子に囲まれてゆったりと暮らす47歳のレイチェル。今年公開された『光をくれた人』に続き『否定と肯定』という、地味だけど確かな手応えのある作品に恵まれているのを見ると、“やっぱり私生活の安定している女は強い!”と、極・極私的な思いがよぎってしまうのだった。

『否定と肯定』作品情報
監督:ミック・ジャクソン
出演:レイチェル・ワイズ/トム・ウィルキンソン/ティモシー・スポール
原題:DENIAL
原作:『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』デボラ・E・リップシュタット著(ハーパーコリンズ・ジャパン)
2016年/イギリス・アメリカ/110分/シネスコ
配給:ツイン
12月8日(金)、TOHOシネマズ シャンテ 他全国ロードショー

Stereo Sound ONLINE / 金子裕子

最終更新:12/5(火) 18:49
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