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米の北朝鮮先制攻撃、現状では無理

12/5(火) 16:00配信

ニュースソクラ

安保理で表面化した足並みの乱れ

 北朝鮮の新型弾道ミサイル「火星15」をめぐる11月30日の国連安全保障理事会の緊急協議は、各国の思惑が交錯して、具体的な論議にまで至らなかった。

 一部では、この年末にも米国が北朝鮮を先制攻撃するとの見方もあるが、各国の足並みが揃わず、米軍の準備も整っていない中では、ほとんど不可能と言わざるを得ない。

 29日に北朝鮮が発射した「火星15」について北朝鮮は30日、映像を公開した。巨大なミサイル本体と、それを支える発射台は威圧的だった。「米本土を射程に入れた」という北朝鮮の言い分も信じたくなる。

 安保理でも、米国大使の発言が特に過激だったことから、ショックの度合いが分かる。ヘイリー米国連大使は、「北朝鮮が国際社会の警告を無視して核・ミサイル開発を続けるなら、金正恩政権は完全に破壊される(will be utterly destroyed)」とまで言い切った。

 「戦争が近づいている」と強調し、全ての国に外交関係を断絶するよう求め、中でも伝統的関係にある中国に対しては「石油の供給を止めて欲しい」と要請したことを明らかにした。

 ヘイリー氏は、北朝鮮対話派で、トランプ大統領と不仲が噂されるティラーソン国務長官の後釜を狙っていると噂される人物だ。「戦争」という単語を何回も使うあたり、トランプ大統領の意向を汲んでの発言なのは間違いない。

 日本や韓国は、米国ほどではないにしても、制裁強化で歩調を合わせた。

 しかし、北朝鮮に近い中国とロシアは、米国とは距離を置く姿勢が目立った。

 中国の呉海濤国連次席大使は、ロシアの大使とともに北朝鮮に核・ミサイルの停止を求めた。しかしその一方で、米国には米韓が行っている合同軍事訓練の停止を求め、米国の圧力路線をたしなめた。さらに制裁が民間人に影響を与えてはならないとも述べている。

 米国の主張を受け入れる場合、中ロの国連代表は、最初から米国の主張に一定の理解を示すものだが、今回は、立場の違いが目立つばかり。これ以上、北朝鮮制裁に協力する気持ちはないようだ。

 さらに、米国が実際に北朝鮮に軍事行動をする場合、過去の例から、次のようなステップが必要になることも考えなくてはならない。

 ある日突然、北朝鮮の軍事施設を空爆すれば、終わる話ではない。

 北朝鮮には地下や山の中に核ミサイルが隠されており、空爆しもらした場所を探し出して、無力化する必要があるため、地上部隊の北朝鮮への派遣が欠かかせない。1962年に起きたキューバのミサイル危機でも、米国はロシアのミサイル基地の空爆に合わせて、地上部隊のキューバ派遣を計画していた。

 もし先制攻撃が実行に移される場合には、
  1、在韓米軍を数万人規模で追加増員
  2、在韓米軍に対し兵器増強
  3、在韓米国人の日本への待避
  4、3隻以上の航空母艦を朝鮮半島周辺に派遣し、空軍力を増強
  5、日本に対し、在韓米軍基地から朝鮮半島に出撃することへの事前了解を取り付け、そして最終段階として、
  6、軍事作戦で最も影響を受ける韓国大統領から了承を取り付けることが必要になる。

 1994年の第1次核危機では、少なくとも1、2、5、6 が実行に移された。これは当時のペリー国防長官らが、著書などを通じて明らかにしている。

 現在のところ、この6つのステップのうち、実行に移されたものは、1つもないと見られる。

 国際社会の理解や協力もなく、在韓米軍の増強もなされていない状況で、「年末に米朝開戦へ」と言うのは、危険な「扇動」になりかねない。

■五味洋治 ジャーナリスト
1958年7月26日生まれ。長野県茅野市出身。実家は、標高700メートルの場所にある。現在は埼玉県さいたま市在住。早大卒業後、新聞社から韓国と中国に派遣され、万年情報不足の北朝鮮情勢の取材にのめりこんだ。2012年には、北朝鮮の故金正日総書記の長男正男氏とのインタビューやメールをまとめて本にした。最近は、中国、台湾、香港と関心を広げ、現地にたびたび足を運んでいる。

最終更新:12/5(火) 16:00
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