ここから本文です

フリン氏の捜査協力、導火線の火が爆弾に迫る

2017/12/5(火) 18:01配信

ニュースソクラ

「トランプ家の悲劇」が開幕、来年は政権存亡の機に

 トランプ政権発足とともに着火した「ロシアゲート」の導火線の火が、政権を吹き飛ばしかねない“爆弾”に近づいた。フリン前大統領補佐官が偽証を認め、捜査に協力することの意味だ。「任期中の弾劾や辞任はない」「トランプの次もトランプ(2期目)」といった政権寄りの楽観論は、冷水をあびた。

 45年前の年の瀬を大統領専用の別荘キャンプデービッドで過ごしたニクソン大統領は、メモ用紙に「ここでクリスマスを過ごすのは、これが最後か」と走り書きした。8か月後、彼は辞任した。年明けとともに秋の中間選挙を意識した与党・共和党議員の寝返りが始まり、議会での弾劾が確実になったためだ。

 1972年の6月に発覚したウォーターゲート事件では、もみ消し工作に参画したディーン大統領法律顧問が、訴追免除を条件に議会で証言、ホワイトハウスの内情を暴露し、政権を窮地に追いやった。選挙期間中から政権初期にかけトランプ陣営の内情に通じたフリン前補佐官は今後、大統領を守る盾から責める矛に転じたディーン氏に似た役回りを果たすだろう。

 フリン氏は、政権発足前に駐米ロシア大使と接触、交渉したとされる。新政権の人事責任者ペンス副大統領に大使との接触を隠したとして2月に辞任、連邦捜査局(FBI)の捜査を受けていた。起訴されたフリン氏はFBIにウソをついたと有罪を認め、司法取引でモラー特別検察官の捜査に協力すると約束した。

 フリン氏は政権移行チーム上部の指示を受け、ロシア側と接触したと認めたが、米メディアはトランプ氏の娘婿クシュナー上級顧問が関与したと報道した。

 ウォーターゲート事件でのディーン氏の反逆は、ニクソン大統領の“両腕”とされたハルデマン、アーリックマン両補佐官の辞任・刑事訴追や大統領再選委員会の責任者ミッチェル元司法長官の刑事訴追を招いた。ディーン氏よりはるかに大物のフリン氏の証言は、トランプ大統領の身内の刑事責任にも及びそうだ。

 大統領自身は起訴されないが、身内は別。メディアではクシュナー氏のほかに、やはり政権移行チームの一員だった息子のドン・ジュニア氏の名前も出る。

 身内の刑事訴追をかわすために、トランプ氏が今後、例えばモラー特別検察官の解任や、身内に恩赦を出すなどの暴走で、弾劾のタネになる司法妨害を犯す可能性も考えられなくはない。

 司法妨害といえば、大統領自身が解任する前のコミーFBI長官との会談で、フリン氏の捜査に手心を加えるよう示唆したことも蒸し返されよう。

 ワシントンでは、これから大統領の進退に関わる壮大な政治劇と、「トランプ家の悲劇」とでも題されそうな家庭劇が並行して演じられそうだ。

 政治劇は、上下両院で多数を握る共和党の動向が焦点だ。下院に続き上院でも減税法案が通過、両院の協議で減税法が成立すれば、共和党は来秋の中間選挙向けの「成果」を手にする。どこかの時点でトランプ大統領が“お荷物”との認識が広まれば、ニクソン大統領の時のように寝返るかもしれない。

 議会による大統領弾劾は、下院の過半数で起訴、上院の裁判は3分の2以上で決まる。

 身内が刑事訴追されたわけではないニクソン氏が、回顧録で追い詰められたファミリーの愁嘆場にページを割いている。トランプ家の悲劇は、はるかに深刻だ。すでに特別検察官チームに聴取されているクシュナー氏が刑務所に入りかねない事態になれば…。

 愛嬢イバンカ氏の夫であり、訪中の際、習近平主席に中国語を読む動画を見せた孫娘アラベラちゃんの父親。阻止するためトランプ大統領は常軌を逸した行動に出るかもしれない。関心をそらすため北朝鮮に武力攻撃といった事態は願い下げだが、家族への思いが大統領の行動を大きく左右する可能性は否定できない。

 政権発足直後に本欄で「ロシアゲートが始まった?」と書いた。3月には「来年はペンス大統領か」。コミー長官が解任された5月には「ウォーターゲートに酷似」と。だが、捜査が足踏みし、弾劾も辞任もなくトランプ再選もあり得るとの見方が強まっていた。

 事態は一変した。来年が政権のピリオドの年にならない、とは言えなくなった。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:2017/12/5(火) 18:01
ニュースソクラ