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関心高まるRISC-V、Armやx86の代替となり得るか

2017/12/6(水) 9:44配信

EE Times Japan

●WDがRISC-Vに移行

 Western Digital(WD:ウエスタンデジタル)は、同社の製品に用いるプロセッサを、オープンソースの命令セットアーキテクチャ「RISC-V」に移行する予定であることを発表した。

 同社は既に、RISC-Vを使用した、ハイエンドSoC(System on Chip)およびコアの開発を手掛ける新興企業Esperanto Technologiesに投資しているという。こうした動きから、RISC-Vが、まだ未成熟ながらも、Arm系やx86系の命令セットの代替となり得る技術として台頭してきていることが分かる。

 WDは長期的展望として、1年間当たり約20億個のRISC-Vチップを、自社のHDDやSSDに搭載した状態で出荷できる見込みだとしている。また同社は、推論向けの機械学習アクセラレーターの開発を進めていることについても、非公式に発表している。Esperanto Technologiesへの投資と何らかの関連があるとみられるが、詳細については不明だ。

●WDが投資するスタートアップ企業

 Esperanto Technologiesは、64ビットRISC-Vチップの製品ファミリーに関する計画として、以下を明らかにしている。

・TSMCの7nmプロセス技術を適用する“AI(人工知能)スーパーコンピュータ・オン・チップ”の開発
・最高クラスのシングルスレッド性能を実現可能な、16コアの「ET-Maxion」の開発
・ベクトル型浮動小数点演算ユニット(VFPU:Vector Floating Point Unit)を備えた4096コアの「ET-Minion」の開発

 米国の市場調査会社であるThe Linley Groupの主席アナリストを務めるLinley Gwennap氏は、「WDのような、アーキテクチャに注力する大手企業が関与することは、RISC-Vエコシステムにとっては大きな後押しとなるだろう。RISC-Vは現在のところ、主にIoT(モノのインターネット)向けのローエンドマイコンで使用されているため、Esperanto Technologiesのような、ハイエンド製品への適用を目指す新興企業は、非常に重要な存在だといえる」と述べている。

 Esperanto Technologiesのチーフエグゼクティブを務め、マイクロプロセッサのベテラン専門家であるDavid Ditzel氏はこのところ、RISC-V関連のイベントにおいて欠かせない存在となっている。しかし、同社はこれまで、自社の計画については沈黙を守ってきた。同氏はかつて、旧Sun Microsystems(Oracleが買収)や新興企業Transmetaにおいて、サーバ用プロセッサの開発を手掛けていた他、Intelにも短期間勤務した経歴を持つ。

 同氏は、自社の製品やアーキテクチャ、資金などについては詳細を語らなかったが、同氏が率いる開発チームメンバーに関しては、数人の名前を明かしている。その中の1人であるTom Riodan氏は、かつてIntelとMIPSにおいてプロセッサ開発に携わった経歴を持つ人物で、自身が立ち上げた新興企業QEDを、PMC Sierraに売却したという。

 Ditzel氏は、「Riodan氏は、自分でRISC-V関連の企業を立ち上げようとしていたが、当社に協力してくれることになった」と述べる。

 またEsperanto Technologiesは、ソニーのゲーム機「PlayStation 3」のチーフアーキテクトも引き抜いたという。この人物は、次期PlayStationの開発に着手しようとしていたところだったが、Ditzel氏らの計画を知り、参加を申し出たという。

 Esperanto Technologiesの顧問には、RISC-Vの立ち上げに携わった、University of California at Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)の名誉教授であるDavid Patterson氏の他、GoogleやHP、Digital Equipmentなどで上級エンジニアを務めてきたベテラン技術者Alan Eustace氏などが名を連ねる。Ditzel氏は、具体的な人数については明かさなかったが、Esperanto Technologiesは、米シリコンバレーや欧州に多くのエンジニアを抱えているという。

 Esperanto Technologiesのスタッフには、かつてIntelに勤務していた、浮動小数点やアウトオブオーダー設計の専門家の他、回路設計者や、物理的レイアウトの専門家なども含まれるという。コンパイラ開発チームは既に、自社のチップ上でハイエンドのグラフィックスジョブを動作させるための、シェーダコンパイラを記述しているという。

●低消費電力の用途にも対応できるように

 Ditzel氏は、「当社のアプリケーションリストのトップ項目にあるのは、トレーニングと推論だ。われわれの強みは、ハイエンドのVR(仮想現実)およびAR(拡張現実)分野にある。当社のアーキテクチャが最も効果を発揮することができるのは、大量の並列処理の問題に対してだ」と述べる。

 「当社のチップは、トレーニング向けに16ビットの浮動小数点を使用するが、ニューラルネットワーク向けに、もっと低いビット幅や整数演算などをサポートすることも可能だ。他の多くのトレーニング用チップが激しい戦いを繰り広げているが、競合他社を超える性能の向上と低消費電力化を達成し、スケーラブルな電力を実現することにより、低消費電力アプリケーションにも対応できるようになる」(同氏)

 同氏は、「当社の7nmプロセスチップは、レチクルのダイサイズが最大ではないという点で、NVIDIAやIntel、新興企業Graphcoreなどのライバル企業が提供しているようなトレーニング用アクセラレーターとは異なる」と述べる。

●スマートスピーカー向けプロセッサを狙う

 Esperanto Technologiesは、当初のターゲットの1つとして、「Amazon Echo」や「Google Home」などスマートスピーカー向けの組み込みプロセッサを狙っているという。Ditzel氏は、「Transmetaから学んだ教訓の1つに、量産化の早期実現がある。これが、設計サイクルが2年間にも及ぶサーバ市場だけに注力するのではなく、幅広い消費者市場への参入を実現していくという戦略につながった」と述べている、

 Esperanto Technologiesの主要ビジネスは、SoCを提供することだが、その中にはSoC搭載システムも含まれる。また、RISC Vの普及を推進していく上で、自社コアをライセンス供与していきたい考えだという。

 現在の主な課題は、RISC-Vとソフトウェアがまだ未熟であるという点だ。

 Ditzel氏は、「GCCコンパイラは非常に安定しており、Linuxポートはアップストリームとして使われているが、LLVM(Low Level Virtual Machine)に関しては、まだ時間がかかりそうだ。当社がチップを出荷するころには、もう少し成熟しているだろう。RISC-VをベースとしたカスタムSoCなどを手掛ける米SiFiveはつい最近まで、シリコンをほとんど取りそろえることができなかったが、いったん軌道に乗れば、ソフトウェアもその後に続くとみられる」と述べる。

 「この先6カ月どころか、約6年間という長い期間を要するだろう」(同氏)

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

最終更新:2017/12/6(水) 9:44
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