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IIJ IoTの中の人、泥にまみれて農業IoTやってみた

2017/12/6(水) 11:31配信

MONOist

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は2017年12月5日、IoTの市場概況とIIJにおけるIoT事業の現状について説明会を開催した。IIJは2016年7月より「IIJ IoT」サービスを発表し、その翌月にはフルMVNO(Mobile Virtual Network Operator、仮想移動体通信事業者)サービスを発表。以来、さまざまなIoT関連製品やサービスを開発しながら、他企業や組織との協業に取り組んだり、実証実験を行ったりなどしてきた。スマートファクトリー分野では生産ラインメーカーの平田機工と協業している。

 IIJは同社のモバイルサービスが2017年9月末に200万回線を突破したと発表している。法人向けモバイルについては、IoT/M2Mでの用途が急増し、2015年を境にして、PCもしくはスマートフォンでの利用数を超した。法人向け用途の3分の2をIoTが占めるという。

 IIJが実施した2017年の法人モバイルカスタマーサーベイの結果によれば、IoT/M2Mの活用分野としては、監視やマーケティングといったカメラ関連が最多だった。

 IoT市場のプレイヤーと事業領域として、IIJはメーカー系SIer、クラウド事業者、ハードウェア組み込み開発、キャリア、IoT専門MVNOの5つに分類。さらに、その縦軸は関連技術の項目として、アプリケーション、データ解析、データ管理、ネットワーク、デバイス、セキュリティと並ぶ。それぞれの分野のプレイヤーが自身の強みを発揮しながら、IoTに取り組んでいる現状だ。

 IIJはデータ解析サービスとして、クラウドサービス「IIJ GIO(ジオ)」を提供する。IIJ IoTのサービスとしてはデータ管理やネットワーク関連を中心とし、デバイスの部分においてはネットワークマネジメント(ルーター管理)サービスである「SACM」にも取り組む。セキュリティ技術としては「wizSafe(ウィズセーフ)」を提供する。

 IIJは通信キャリアでもあり、SIerでもある。他社にはできないIoTプラットフォームを実現し、他社技術も活用しながらIoTを形にする開発力を育てるため、同社自身の実践とさまざまな企業や組織とのビジネス共創が重要だとしている。

 「市場に受け入れられる仕組みを目利きして、実践していきたい。それがIoTを真に普及させるために効果的だと考える。IIJの強みを生かせる」(IIJ クラウド本部 副本部長 染谷直氏)

 IIJのサービスには、同社の現場に導入して試しながら作り上げられるものがよくあるという。SACMもそのうちの1つであるとのことだ。

 IoTに必要な技術要素は、以下のように多岐にわたる。

・特定業務・業務アプリケーション
・アプリケーション/ミドルウェア/データベース
・NW、デバイス、データ管理、監視、制御
・ネットワーク(モバイル、有線、無線、LPWA)
・デバイスゲートウェイ機器
・センサー(温湿度、振動、位置情報、電力など)

 IIJは「モバイルネットワークを中心に、IoTの“つなぐ”を全てを提供する」という開発方針を掲げる。併せて、ゲートウェイ管理やSIMコントロール、有線ネットワークコントロール、データ蓄積・管理、可視化までを含めたプラットフォーム機能の開発にも取り組んできた。さらにそのような要素をIIJ IoTサービスとしてシンプルにまとめた。

 同サービスでは、上り回線通信を利用するIoT専用SIMを月額300円からで提供している。1枚からインターネットで申し込みができる。利用速度制限がないので、動画など大容量データにも対応できる。さらに、ユーザーが専有する閉域ネットワークも利用できる。

 IIJ GIO、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureといったクラウドサービス、ユーザーのオンプレミスサーバといったさまざまな環境を選択し、モバイルネットワークで閉域網接続ができ、安全なクラウド接続が実現できるという。準備中のビジネスだけではなく、既存のビジネスにも対応可能にした。

 さらにデバイスの一元管理機能も追加。IIJ独自のルーター管理技術をIoTに応用した技術だ。デバイスの死活監視やリソースの状況を遠隔から集中管理できる。エラーが生じた際にはアラートも出す。デバイスゲートウェイもクラウドから一元管理できるため、デバイス設置や設定変更、交換が簡単にできるとしている。

 「IIJのIoT関連のビジネスは2016年度比で倍増している傾向」(IIJ クラウド本部 クラウドサービス2部 ビッグデータ技術課長 岡田晋介氏)。電力会社、ファクトリーIoT、配車・配送コントロールや車載モバイルといった交通系、小売業系の店舗管理などの事例が増えてきているとのことだ。店舗や工場の電力管理を遠隔で行いたいという要望もあるという。

 しかしながら、この中で本格展開しているのは、まだほんの少しであり、POC(概念実証)の段階が多いともいう。「問題は、これはと思うような具体的な活用シーンがなかなか登場しないこと。今後、さらなる付加価値や新しい取り組みが出てくるだろう」と岡田氏は述べる。

 IIJにIoTサービスについて相談を求めてくるのは、事業部門や企画部門の担当者だという。「IoTの世界では“事業を作ろう”としている人たちが頭を悩ませている。そういう方が事業を創出するために、われわれが何ができるか。サービス提供者としての取り組みとともにできることは何かと考えた。それは『自分たちもやっちゃうこと(実践すること)』」(岡田氏)。

●泥にまみれて農業IoTをやってみた

 IIJ プロダクト本部 ネットワーク本部 IoT基盤開発部部長 齋藤透氏は、「自分たちによるIoTの実践」として、自らがかかわる農業IoTの取り組みの事例を紹介した。齋藤氏は2017年4月から農業IoTプロジェクトに取り組んでいる。農林水産省 農業データ連係基盤WG 水管理WをG専門委員としても活動する。

 齋藤氏の取り組むプロジェクトは、「水田を遠隔で監視できる、ICTを活用した低コスト水管理システム」。水田に設置したセンサーを利用して各水田からデータ収集し管理するシステムで、水田の見回り作業を減らすことを目指し、かつ農家でも導入できる現実的な価格に抑えることを目標とする。このプロジェクトは農林水産技術会議による「平成28年度補正予算 革新的技術開発・緊急展開事業」のうち、「経営体強化プロジェクト」として支援を受けている。研究期間は3年間とし、水田の水管理コストを2分の1程度削減することを目標とする。

 このプロジェクトに取り組むにあたっては「水田水管理ICT活用コンソーシアム」を結成。IIJが研究代表機関を務めながら、センサー開発やLoRa基地局やインフラの提供を行っている。自動給水弁の開発やアプリの開発には農業ITベンチャーの笑農和、センサーの最適配置や水管理コストの測定などは、ICT導入支援事業のトゥモローズ、農研機構、静岡県が担当する。磐田市の農健、袋井市の鈴木政美氏、古川伸一郎氏、増田勇一氏といった、大規模な農業事業者も協力する。協力機関としては、普及担当として静岡県経済産業部中遠農林事務所、研究協力として農林水産省関東農政局西関東土地改良調査管理事務所と日本農業情報システム協会(JAISA)がかかわる。

 農業IT化を阻む要因として、齋藤氏はまず「単純にもうからない」ことを挙げた。水田1枚当たりの収益は、良くても10万円程度だという。通常のITシステムのコスト感覚で開発してしまうと、採算が合わなくなってしまう。センサーのコストも現実的な価格に抑える必要がある。

 農業は、相手が“自然”であるため、多数の試作開発をしなければならない。その上、田植えから収穫までのサイクルは年1回だけである。そのため、製品化までに数年を要してしまうことが多い。

 農業とITの両方の知識を兼ね備える人材も少ない。適切な導入契約やコストシミュレーションができず、「試してみた」で終わってしまうケースも多い。

 農業ITの分野においてはオープン化も遅れている。農林水産省や内閣官房は危機意識をもって啓発しているものの、状況は進展しない。

 水田管理における課題の例として、齋藤氏は袋井市における実情を紹介した。袋井市内の水田は2300ヘクタールある。そのうち、経営体(農業者)は2000。さらに、10ヘクタール以上耕作している農家は45経営体で、1475ヘクタールの水田を見ている。つまり、全体の2%の経営体で、7割以上の水田を管理しているということになる。

 大規模農家の所有する水田は一カ所に集中しているとは限らず、広範囲に点在していることが多い。水田作においては、季節ごとに適切な水管理を行い、生育状態を見極めて管理しなければならない。農家の人は毎日、早朝と深夜の2回、軽トラックに乗って数百枚の田んぼを巡回して、水田の水の抜き入れをしたり状態を見たりしていく。人員は集約されているものの、水田は集約されていない。

 水田作の主な作業は、おおよそ「田植え・稲刈り」「雑草除去」「水管理」「農薬散布」の4つに分類できる。田植えや稲刈りはトラクターの自動運転技術、雑草除去については草刈りロボット導入、農薬散布についてはドローンの活用といった取り組みが適用できる。水管理については、4つの作業のうち最もIT導入のコストが安く済み、かつ導入効果が高いという。

 よって、コンソーシアムでは以下3つの技術開発方針を決めている。

・農業経営体目線:農業経営体の立場にたった技術開発、簡単に使えること
・地域戦略との強い一体性:地域主体の継続な取り組みとすること
・オープン指向:オープンな仕組みで、全国の地域プレイヤーを巻き込むこと

 例えば、静岡県を流れる天竜川は水量がそれほど多くないという。その下流域では水が不足していることもある。水そのものを最適化するためは、河川の管理をする地域機関とも連携を取る必要がある。また静岡県では、土地改良区が統合的に活用するICTシステムの整備も推進している。そうした地域戦略とも強い一体感を持って取り組む必要がある。

システム構成や開発物

 同プロジェクトでは、IoT向け無線通信技術を用いたネットワークであるLoRaWANを用いてシステムを構成している(以下の図)。LoRaWANは無線免許を必要としない周波数帯域を利用するオープンな通信規格であり、伝送距離も最大で約10kmある。約400個のデバイスをプロジェクト協力する農業経営体が実際に全ての水田に設置して検証に取り組んでいる。

 LoRaの基地局に集められたデータは、IoTプラットフォームに集約し、さらにアプリで農業経営体や自治体などとつなげ、データを受け渡しするというエコシステムを構築することを目標としている。地図と連携する、水田一括管理のシステムも開発中だ。センサーなどデバイスの検証においては、齋藤氏も水田に入り込んで、足を泥だらけにしながら取り組んできた。山に登って無線の基地局の設置テストも実施している。

 センサーの開発においては、「とにかくコスト優先」だと齋藤氏は説明する。センサー価格は1個につき1万円を目標としている。水位と水温の測定に特化させることで、コストを抑えようとしている。自動給水弁については1個当たり4万円が目標で、既存の開水路技術を用いるなど技術を共通化することでコスト抑制に取り組む。コストダウンの一方で、製品の品質を落としてはならない。製品化する上で、いかに原価を抑えるかは課題であり、かつ悩ましいという。

 「農家が使いやすいモノ」ということで、メンテナンス性も高さや耐久性も課題だ。泥や藻、虫、薬といったことを原因とする問題が、実際に現場で試してみることで浮き上がってくるとのことだ。

 今後の研究スケジュールとしては、まず2017年度中には試作機開発とフィールド事前調査を実施。2018年には圃場での試作機設置や実証動作試験を実施し、経営体のフィードバックに基づいて改良を進める。2019年には量産化に向けた効果検証とアプリ/システム開発、地図システムとの連携などに取り組んでいくということだ。

最終更新:2017/12/6(水) 11:31
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