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日本マイクロソフトはOffice 365+AIで働き方をどう改革したのか

12/7(木) 6:30配信

ITmedia PC USER

 「働き方改革」という言葉を最近よく聞くようになった。「一億総活躍社会」を標語に老若男女を問わず、それぞれのスタイルで仕事に取り組むことを模索する仕組みだ。2016年には内閣官房に「働き方改革実現推進室」が設置され、国を挙げての取り組みとなっている。

【働き方改革の前と後では大違い】

 こうした状況を受け、IT業界では働き方改革(あるいはワークスタイル改革)を率先して実施し、自社製品のアピールとともに最新の取り組みを紹介する企業が増えてきた。その代表的な存在と言えるのが日本マイクロソフトであり、比較的早期から働き方改革を進めてきたことで知られている。

 実際、同社の取り組みは興味深く、多くの企業にとって参考になりそうな点が幾つかある。「企業の業務改革や生産性向上を実現する製品を提供する企業は、自らがそれを実践してその効用をアピールしなければならない」とばかりに、最新ツールを駆使して自ら業務改革を実現しているのだ。

●移転で本格化した日本マイクロソフトの働き方改革

 日本マイクロソフトは「ワークスタイル変革」と銘打った業務改革を2010年から実施してきた。

 当時の同社は新宿本社を中心として、東京周辺だけでも事業部ごとに複数のオフィスに分散しており、オフィス間の移動が月5506回も発生し、コスト効率が悪かった。しかも営業などの業務を問わず、多くの従業員が出張や外出などで離席していることが多く、昼間の空席率が平均60%を超えるなど、オフィス空間と相互連絡の面で非常に無駄が多かったと言える。

 同社は2011年に品川へオフィスを移転したが、これを機に、時間、場所、会議やメール依存での生産性低下など、それまで蓄積されてきた数々の問題を最新のツールや業務改善をもって見直していこう、というのが本格的な働き方改革の発端となる。

 移転後の品川オフィスでは、従来の固定席を廃止し、フリーアドレス制度をもって好きな場所での作業が可能になり、オフィスの利用効率が向上した。また、複数の拠点集約と「Skype(Lync)」をはじめとするツールの活用により、移動時間や旅費交通費の削減を実現し、デジタルツール活用はペーパーレス化も推進するなど、非常に大きな効用をもたらしている。

 2015年には就業規則改定を発表し、在宅勤務制度の廃止とともに、テレワーク制度の導入とフレックスタイムにおけるコアタイムの廃止など、より柔軟な働き方で業務に専念できるよう見直している。

 ツールの活用で興味深いのは、会議はメンバーが同じ場所に集まる必要がなく、オンライン会議ツールで場所を問わず参加できる点にある。

 これは客先での訪問も同様だ。特に引き合いの多い現場説明を行うエンジニアなどは移動がネックとなってアポイントの制限がかかりやすいが、ツールを駆使したオンライン同行も織り交ぜることで、この面でも効率を上げている。

●Power BIやSurface Hubの活用で無駄を省き、意思決定を高速化

 そんな日本マイクロソフトだが、2017年からは「働き方改革第2章」と題して、さらなる業務変革を目指している。

 従来は構造の見直しでの効率化だったが、今後はさらに自社が開発する最新ツールや技術を使い、より働き方の量や質を高めていくという取り組みとなる。

 1つは比較的新しいツールの活用だ。

 これまで同社は「Excel」を業務改善と生産性向上のツールとして推奨し、多くの企業に導入を促してきた。Excelは数値分析や計算の省力化という効用をもたらした反面、必要なデータを得るため、またはデータを会議用などの資料向けに加工するため、ツールの操作が長時間に及ぶなど、本来の目的と手段が入れ替わったような状況もままある。

 そこで導入したのが、自社のビジネスデータ分析ツール「Power BI」だ。Power BIは入力したデータをもとに自動で各種グラフなどを作成してダッシュボードで視覚化し、分析や解析に役立てたり、それをもとにした資料を手軽に作成できたりする。

 会議ではPower BIのダッシュボードを大画面のタッチパネル搭載デバイス「Surface Hub」に映し出して、その場で必要に応じてタッチ操作でグラフの表示方法や抽出データなどの設定を変え、視覚化された情報を分析したり、手書き入力機能でメモを書き込んだりしながら議論を進めることで、宿題を極力持ち帰らず、意思決定を迅速に行えるよう工夫した。

 また、必要な情報が得られるダッシュボードを呼び出して大画面に映しながら会議をすることで、事前に配布資料を別途作成して印刷したり、議論で指摘されたデータを追加した資料を会議後に作り直したり、といった無駄も極力省いている。

 さらに営業の現場でPower BIを使えば、客先で求めに応じて必要なデータをすぐ取り出し、その場で手軽に視覚化できるため、非常に効率がよいという。

 ちなみにSurface Hubは2017年1月に約30台を導入し、執務室や会議室、社長室にも置いて積極活用している。

●無駄な業務の改善提案をしてくれる「MyAnalytics」

 生産性ツール「Office 365」の最新版では「MyAnalytics」というツールが用意されており(Office 365 Enterprise E5には標準添付)、従業員の活動状況を把握できることに加えて、問題点や改善点の提案といったインテリジェントな機能まで備えている。

 例えば、「定期的な会議中にPCで他の作業をしていることが多いので、会議の目的を再確認する機会かもしれない」「特定のメンバーとの会議が週に何回も入っているので、整理した方がいいかもしれない」「特定のメンバーはメールの閲覧率が低く、返答時間も遅いので、別の連絡手段などを検討する必要があるかもしれない」といった課題と解決への提案が、MyAnalyticsではダッシュボードとともに表示されるのだ。

 「余計なお世話だ」という意見もあるかもしれないが、これまで感覚的にしか把握していなかったことが、あらためて統計データとして表示されると、改善のきっかけになりやすい。これは上司が部下を監視するのが目的ではなく、個人に自分の働き方への気付きを与えて、改善を促すことが狙いだ。

 同社は4カ月間(2016年12月~2017年4月)、人事、ファイナンス、マーケティング、営業の4部門に所属する41人に対して、MyAnalyticsを導入してその効果を検証したところ、無駄な会議時間が27%減り、会議やメールなどの雑務がなく集中して作業できる時間が50%増え、コミュニケーション手段の使い分けで意思疎通の円滑化が実現できたという。

 このことから、4部門合計で1年間に3579時間の無駄な時間が削減でき、さらに従業員2000人相当に換算すると年間7億円ものコスト削減が見込めるほど、MyAnalyticsの効果は高いと同社はアピールしている。

●次の目標はさらなるAI活用による働き方改革

 今後、同社はさらなる働き方改革の推進に向けて「AI」の活用を進めようとしている。AIと言うと遠い存在に思えるかもしれないが、前述のMyAnalyticsによるアドバイスもOfficeツールにAIをプラスした一例だ。

 同社はWindows 10標準のアシスタント機能「Cortana」を業務向けに拡張したような「デジタル秘書」を導入している。これの活用として最初に行ったのが「会議調整の効率アップ」だ。

 会議室の予約については、従来のグループウェアにも「招集するメンバーの空き時間を自動的に調べて最適な日時を導き出す」という仕組みが備えられていた。メンバーのスケジュールで空き時間を横断検索して候補を絞り出すというアルゴリズムを使ったもので、スケジュールの集中管理さえできていれば、それほど難しい仕組みではない。

 今回のデジタル秘書は、チャットベースで会議室の場所も含めて最適な提案をしてくる点が新しい。「EDI(Enterprise Deep Intelligence)」という名称でチャットBOTとして存在しており、暫定的な運用なので英語のインタフェースだが、Skypeの対話インタフェースを通じてメンバーの招集と会議室の予約が可能だ。

 EDIとは異なるが、Office 365のチャットベースツールである「Teams」のインタフェースにも会議招集が可能な「秘書BOT」を組み込んでいる。

 対話インタフェースによって、メンバーの招集や時間調整、調整後のスケジュール登録、メンバーへの告知までがまとめて行えるもので、従来は約10分必要だった会議調整が約2分で済むようになった。

 現状は従来のインタフェースをチャットBOT用に置き換えただけだが、今後はインテリジェントに会議の提案や招集メンバーの選定を行うなど、より「秘書」としての機能に磨きを掛けていくことが予想される。

 これからの働き方改革にはAI活用が重要だというのを、同社は数年先に自社の結果として示してくれるかもしれない。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

最終更新:12/7(木) 6:30
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