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「フルMVNO」と「ライトMVNO」の違い

2017/12/7(木) 6:05配信

ITmedia Mobile

 筆者の所属するIIJは、2016年8月に日本初の「フルMVNO」を目指すことを発表し、現在、その準備を進めています。それでは、この「フルMVNO」とは一体何なのでしょうか? 普通のMVNOとは何が異なるのでしょうか? 今回は、MVNOのさまざまな形態と、そのある種の進化形でもある「フルMVNO」について、皆さまにご紹介しましょう。

フルMVNOに必要なもの

●MVNOの代表的な類型

 世界各地で2000年前後に始まったといわれるMVNO(仮想移動体通信事業者)は、各国の移動通信市場の特性、例えば利用者のニーズや、政府機関の思惑等により多様な発展を見せました。日本におけるMVNOの状況については、これまでもこの連載を通して述べてきましたが、世界ではこのような日本MVNOの成長とは全く異なるMVNOの発展を見ることができます。

 一方、その多様性を一般化して、MVNOの類型を作る試みもさまざまになされてきました。その中の1つが、移動通信サービスを提供するために必要な機能を並べて、どこまでをMVNOが自ら備え、どこまでを携帯電話会社(MNO)から借りているのかによって、MVNOの概念的なビジネスモデルを定義するというものです(図1)。

 「ブランデッドリセラー」(Branded Reseller)は、日本ではディズニーがソフトバンクと提携して提供している「ディズニー・モバイル・オン・ソフトバンク」などに近い形態で、日本ではMVNOの一形態として識別されていますが、各国によりその制度上の位置付けはさまざまです。

 「ライトMVNO」は、ブランドに加え販売(ショップ等)、課金、顧客管理をMVNOが持ち、認証、コアネットワークなどネットワークの機能をMNOに依存するビジネスモデルです。そして「フルMVNO」は、無線アクセス以外の全ての機能をMNOに依存せずMVNOが運営するビジネスモデルとなります。

 あくまでこの分類はMVNOの機能に注目した1つの例に過ぎませんが、このような分類法は広く業界内で定着しており、ここから「フルMVNO」と、それに対比される「ライトMVNO」「ブランデッドリセラー」の違いが導かれることとなります。それでは、日本のMVNO(ブランデッドリセラー以外のMVNO)は、このチャートのどこにマッピングされるのでしょうか?

●MVNOの類型と日本のMVNO

 業界内では広く定着している分類法とはいっても、図1はやはり概念的なもので、世界各国のMVNOには正しく当てはめることができない、あるいは正しく当てはめようとすると難しいケースも存在します。

 日本では、法制度上ではフルMVNO、ライトMVNO、ブランデッドリセラーの区別はありません。日本におけるMVNOは、電気通信事業法施行規則や電気通信事業報告規則(いずれも総務省令)により制度上の定めがなされていますが、その中にはMVNOが備える機能によるMVNOの分類はなく、どのような事業者を「フルMVNO」「ライトMVNO」と呼ぶかについては決められていません。業界団体(テレコムサービス協会MVNO委員会)でも、「フルMVNO」「ライトMVNO」の定義は決めていません。

 特に現在、日本で多く見られる「レイヤー2接続」のネットワークアーキテクチャを持つMVNOでは、認証サーバや、コアネットワークの一部(PGW等)をMVNO側で運用していることから、まさしく図1の「ライトMVNO」「フルMVNO」の中間とも考えることもできる状況です。

 ただ、これまで海外のMVNO関係者とも意見交換をした経験から、日本の「レイヤー2接続」のMVNOは、分類としては「ライトMVNO」とするのが適切だと筆者は考えています。ではなぜコアネットワークの一部とはいえ、自前で運用する日本のMVNOを「ライトMVNO」だと考えるのか、次にそれを説明しようと思います。

●「フルMVNO」とは何か?

 フルMVNOの最も重要な要素は「独自のMNCを持つ」ことです。MNCとはMobile Network Codeの略で、移動体通信において、事業者のコアネットワークを識別する固有の識別子となります。

 そのため、コアネットワークを運用しているMNOは全てそれぞれのMNCを保有しています(さまざまな事情により複数のMNCを運用しているMNOもいます)。このMNCは、携帯電話会社が他社の契約者に電話やSMSをつなげるために、あるいはローミングのために、必要なコアネットワーク間の接続の際に、互いを技術的に識別するために用いられるものとなります(図2)。

 それではMVNOについてはどうでしょうか。MVNOでは、ライトMVNOであるか、フルMVNOであるかによってMNCを本来持つのかどうかが分かれます。コアネットワークを持たない「ライトMVNO」では、コアネットワークの識別子であるMNCは不要です(持っていても意味がなく、持つこともできない)。翻って、自らのコアネットワークを持つ「フルMVNO」では、MNOと同様に固有のMNCを持ち、他事業者のコアネットワークと接続する必要がある、ということになります(図3)。

 図2では事業者間のネットワーク接続の役割として(1)電話・SMS、(2)ローミングの2つを挙げていますが、図3のフルMVNOのケースでも基本は同じです。

 ただ、MNOは、他社の基地局を使用する「ローミング」の実現以外では、データ通信についてコアネットワーク間の相互接続が不要であるのに対し、フルMVNOは基地局を持っていないため、最低1つの国内MNOとコアネットワークを接続する必要があります。

 また、音声とSMSについては、(仮に提供しようとすると)MNOと同様に国内・海外のMNOと接続をする必要がありますが、図3では国内分の表記を省略しています。

 日本のMVNOが、コアネットワークの一部を持ちながら、「ライトMVNO」だと筆者が考える理由は、日本のMVNOはMNCを持っていないからです。日本のMVNOは、コアネットワークの一部を保有していますが、その設備はホストMNOのコアネットワークとインターネットとの境界線に置かれたゲートウェイの部分に限られ、ホストMNOとの接続用途に限られます。

 このような設備は事業者固有のMNCによって識別されるべきものではありません。ホストMNO以外の国内・海外のMNO、MVNOからは、日本のMVNOのコアネットワークは、そのホストMNOのMNCによって識別されるコアネットワークの「一部」にしか見えないのです。このように、MNCによるコアネットワークの識別や接続を行わない形態であるため、日本のMVNOは(例えコアネットワークの一部を有するとはいっても)「ライトMVNO」だと考えることが適当でしょう。

●フルMVNOのメリットとデメリット

 まさに図3で説明したように、ホストMNO以外のMNOとも事業者間接続を独自に持てることが、フルMVNOのメリットの1つです。これにより、フルMVNOはさまざまなローミングサービスを提供可能になります。海外で安価なローミングを提供したり、セキュリティを付加したローミングサービスを提供したりできます。逆に、国内で海外旅行者がSIMを差し替えることなく安価にインターネットを楽しめるようなサービスも提供可能です。

 もちろん何でもできるわけではありません。相手の海外事業者との合意が必要ではありますが、そもそも海外事業者と独自に協議することすらできないライトMVNOに比べ、高いサービス企画の自由度を持つことがフルMVNOの特徴となります。

 さらに踏み込めば、独自のMNCにより、1つのホストMNOに縛られず多数のMNOと接続することで、国境をまたぐMVNOとなることも可能です。つまり、(比較的に)高価なローミングではなく、複数の国においてあたかもその現地のMVNOであるかのような料金でサービスを提供できるMVNOも既に世界には存在していて、フルMVNOであればそういったサービスも可能となります。

 もう1つのフルMVNOのメリットはSIMカードです。eSIMのような新しく便利なSIMカードを、フルMVNOは独自に発行することができます。SIMカードにはその発行者のMNCを登録する必要があるのですが、ライトMVNOは独自のMNCを持たないのでSIMカードを発行できず、フルMVNOにはその制限がない、ということです。

 ホストMNOが機能提供している範囲の中であれば、例えば販売店の店頭で独自にSIMカードを発行する、といったことはライトMVNOでも可能ですが、ホストMNOが提供していないようなSIMカードであっても自由に提供できるというのがフルMVNOのメリットとなります。

 次にフルMVNOのデメリットも見ていきましょう。何よりのデメリットはコストです。ライトMVNOに比べ格段に多くの設備を保有・運用する必要がありますから、設備投資や人的資源への投資を含め、ライトMVNOより多くのコストが必要となります。

 格安SIMのような単一の市場での提供だけを考えると、コスト的にはライトMVNOの方が有利なこともあるでしょう。フルMVNOには投資額に見合った、より広いビジネス領域をカバーするための戦略が必要であり、現に海外のフルMVNOにはそのような事業者が多いです。

 また、厳密にはデメリットというわけではありませんが、フルMVNOといえども、ホストMNOの設備の影響を大なり小なり受けることは避けられません。典型的なフルMVNOは、無線アクセス以外の全てのコアネットワークを自ら保有して運用する仮定の上にありますが、実際には完全なフルMVNOというのは世界でも例がほとんどないように思われます。そのため、フルMVNOもそのホストMNOと協調して、スムーズに新サービスを開発していくことが必須となるという点では、ライトMVNOと本質的には変わりません。

●日本におけるフルMVNOの夜明け

 日本では、この記事の前半で書いた通り、MVNOへのネットワーク開放をMNO(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)に義務付ける電気通信事業法やその関連法規には、フルMVNOに関する記載はありません。わずかに、総務省のガイドライン(「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」)において、フルMVNOを実現するために必要な関連装置(HLR/HSS)のMVNOへの開放に向けて事業者間協議の促進を図る、との記載が見られるに過ぎません。そのため、これまで日本にはフルMVNOは存在しない状況でした(KDDIやソフトバンクなど「MNOでもあるMVNO」は除く)。

 その中で筆者の所属するIIJでは、2016年8月に、ホストMNOであるNTTドコモとの間で、フルMVNOの開始に向けた基本合意がなされ、2018年3月より日本初のフルMVNOを開始すべく現在準備を進めています。

 この基本合意では、データ通信に限ってではありますが、IIJが自らのコアネットワークに、HLR/HSSを含むこれまでより多くのネットワーク装置を置き、NTTドコモのコアネットワークと直接接続することで、フルMVNOに求められる自らのMNCの運用を開始することになっています。また同時にIIJのMNCを用いた海外の通信事業者との接続を開始する予定です。

 特にIoTと呼ばれるこれからの「物のインターネット」の時代において、独自のSIMカードを発行することは、高い利便性を提供できる鍵となると考えています。スマートファクトリーやスマートシティーのようなIoTの産業向け事例は、この連載の読者の皆さまにはやや縁遠いところかと思いますが、「スマートホーム」「スマート家電」といったコンシューマーIoTは、今後普及が見込まれており、IIJのSIMカードが皆さまの生活を便利にするお役に立つのではないかと期待しています。

 またeSIMなどの進化したSIMカード技術と海外ローミングサービスの組み合わせでは、海外に向かう日本人旅行者、訪日外国人や海外からの旅行者向けのサービスなどにも適しているものと考えられます。これまで日本ではできなかったMVNOサービスを実現するために、IIJでは海外のフルMVNOとの協業や協議を経て、さまざまな経験値を獲得しており、フルMVNOローンチ後の戦略立案に役立てています。

 反面、既存のIIJのビジネスである格安スマホ(IIJmio)については、音声通話でフルMVNOで取り扱うための合意がないなどのため、直ちにフルMVNOにより新しいサービスが投入できる状況ではありません。今後、音声通話の取り扱いについても検討していきますが、データ通信分野においても、フルMVNO化で得たさまざまな自由度をいかにIIJmioのお客さまに提供していくか、われわれのフルMVNOとしての挑戦は2018年3月以降もまだ続くと考えています。

最終更新:2017/12/7(木) 6:05
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