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構想7年、「Azure Stack」の本格展開でMicrosoftのクラウド戦略はどう変わるのか

12/7(木) 9:23配信

ITmedia エンタープライズ

 「まさしくクラウドとオンプレミスの“いいとこ取り”をした製品だ」――。日本マイクロソフトが先頃開いた「Microsoft Azure Stackに関する日本での取り組み」と題した記者説明会で、同社の浅野智 業務執行役員クラウド&エンタープライズビジネス本部長はこう力を込めた。

Azure Stackの位置付け

 Azure Stackは、Microsoftのパブリッククラウドサービス「Microsoft Azure」の機能をユーザーがオンプレミスで利用できるようにしたハイブリッドクラウド対応の基盤ソフトウェアである。

 具体的には、AzureのIaaSおよびPaaSの機能、ネットワークコントローラやストレージコントローラ、ロードバランスなどのサービス群をオンプレミス環境で利用できる形だ。MicrosoftではAzure StackをAzureの「拡張機能」と位置付けている。(図1)

 主な特徴は4つ。1つ目は「共通のID」。Microsoftの「Active Directory」とシームレスに連携してシングルサインオンが可能だ。2つ目は「統合された管理とセキュリティ」。これにより、インフラ全体を可視化できるようになる。3つ目は「一貫性のあるデータプラットフォーム」。データベースをシームレスに連携可能だ。

 そして、4つ目として浅野氏が一段と声高に語ったのが「統合された開発とDevOps」。クラウドとオンプレミスによる統合開発環境でアプリケーションを構築できることを挙げ、「これはハイパーコンバージドシステムだとできない業だ」と強調した。

 Azure Stack対応ハードウェアは、デルおよびEMCジャパン、日本ヒューレット・パッカード、レノボ・ジャパンが9月から出荷しており、シスコシステムズ、アバナード、ファーウェイ・テクノロジーズ・ジャパンも順次提供していく予定だ。(図2)

 なお、Azure Stackのユースケースや対応パートナーであるソフトウェアベンダー(ISV)15社、マネージドプロバイダー4社、システムインテグレータ21社のリストについては、浅野氏によるMicrosoftの公式ブログをご覧いただきたい。

●当初はパートナーを通じたAzureの流通戦略だった?

 実は、Azure Stack対応ハードウェアには購入モデルだけでなくサブスクリプションモデルもある。そうなると、製品コンセプトとして同じなのが、日本オラクルが提供する「Oracle Cloud Machine」である。この製品については、2016年4月25日掲載の本コラム「クラウドで出遅れたオラクル、“いいとこ取りクラウド”で巻き返せるか」を参照いただくとして、くしくも冒頭で紹介した浅野氏の発言と同じ“いいとこ取り”と表現している。

 ただ、オラクルはOracle Cloud Machineを同社の「Oracle Cloud」と同じくパブリッククラウドサービスと位置付けているのに対し、Azure Stack対応製品はサブスクリプションモデルであってもオンプレミスのプライベートクラウド向けという位置付けだ。この点について浅野氏に聞いたところ、「Azure Stackはデータとアプリケーションがオンプレミスでの利用なので、Azureの“拡張機能”ではあるがパブリッククラウドサービスとは一線を画している」とのことだ。

 さて、このAzure Stack、ここにきてようやく対応ハードウェアが出そろいつつあるが、実はこの製品が実現するまでにはおよそ7年にわたるシナリオがある。本コラムではその過程をこれまで7回書き記してきた。それらをあらためてひもとくことで、Azure Stackが生まれてきた背景を探ってみたい。

 まず1回目は、2011年7月11日掲載の「Microsoftが予告する新たなWindows Azureパートナー」。この記事で、Microsoftが2010年7月に、今回のAzure Stackと同じ形態の「Windows Azure Platform appliance」という製品を、HP、デル、富士通の3社と戦略的提携を結んで提供することを表明し、2011年6月に富士通との協業が具体的に動き出した流れを解説した。

 2回目の2011年8月1日掲載「Windows Azure推進ベンダーの最新事情」では、上記の点についてデルの幹部に取材した内容を記した。3回目の2012年5月1日掲載「三者三様のWindows Azureパートナーシップ」では、富士通、NEC、日立製作所のAzureへの取り組みの違いに言及。4回目の2012年6月11日掲載「OracleとMicrosoftがPaaS市場で真っ向勝負」では、この時点でのMicrosoftとオラクルのクラウド事業戦略を解説した。

 5回目の2013年5月27日掲載「クラウド市場制覇に向けたMicrosoftの深謀遠慮」では、Azureサービスが拡大する一方、applianceについては進展していないことを記した。6回目の2013年11月11日掲載「“クラウドOS”を掲げるMicrosoftの制覇への野望」では、Microsoftが今回のAzure Stackに通じる「クラウドOS」という考え方を打ち出したことについて解説した。

 そして、7回目の2016年4月11日掲載「Microsoftが“ハイブリッドクラウド”に本腰を入れる理由」では、Azure Stackの先駆けとなるシステムをデルが提供したのを機に、Microsoftのハイブリッドクラウド戦略について記した。

 こうして見ると、7年にわたるシナリオの当初は、ハイブリッドクラウド向けというより、パートナーを通じたAzureの流通戦略と、筆者が捉えていたことが分かる。でも振り返ってみると、Microsoftもそうだったのではないか。その戦略転換があったことを、本コラムの5~7回目で見て取れるとあらためて感じている。

 浅野氏は今回の会見で、「サーバの利用状況から見ると、企業におけるクラウドとオンプレミスの比率は現在およそ3対7。その7割にAzure Stackをお薦めしてハイブリッドクラウドの世界を広げていきたい」と語った。まさにMicrosoftならではの戦略展開だが、果たして導入企業がどれだけのROIを生み出すことができるか、注目しておきたい。