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完結後も愛される「この世界の片隅に」 原作漫画好調、映画はロング版製作も視野に

12/7(木) 9:28配信

産経新聞

 戦時下に生きる普通の人たちの暮らしや、心の機微を鮮やかに描き出した、こうの史代さんの人気漫画「この世界の片隅に」。平成21年の完結後も多くのファンに愛され、現在も単行本の売り上げを伸ばしている。片渕須直監督がアニメ化した同名映画も昨年11月の公開以来、異例のロングランとなり、足かけ3年の上映が決定。新たなシーンを追加したロング版の製作も見込んでいる。

 同作の主な舞台は戦時中の広島・呉。のんびり屋の主人公・すずは昭和19年、海軍に勤める周作の元に嫁ぐ。配給物資が徐々に減る中、すずは工夫をして食事を作り、絵を描いて毎日を明るく過ごす。しかし、戦況は悪化の一途をたどり、空襲も激化。そして、20年のあの夏を迎える。

 同作は平成19~21年、「漫画アクション」で連載され、発行元の双葉社によると、単行本の累計発行部数は115万部を突破した。同作にほれ込み、漫画をぼろぼろになるまで読み込んだという片渕監督は、膨大な資料や現地調査を基に約6年かけて制作。当時の息づかいが伝わるような、リアルな作品に仕立て上げた。

 映画の特徴は、ファンが製作の最初期から支え続けた点だ。「戦争を背景にした、普通の主婦が主人公のアニメなんて当たらないと言われ続けた」。真木太郎プロデューサーがこう振り返るように、制作前の段階で資金調達が難航。インターネットを通じ広く資金を集める「クラウドファンディング」に頼った。

 この苦境と、片渕監督の熱意が多くの人の心を動かした。最終的に3千人以上が資金提供を行い、映画は完成。昨年11月の公開時はわずか63館での上映だったが、ファンがリピーターとして劇場に足を運び、口コミやSNS(会員制投稿サイト)で自主的な宣伝活動を実施。新たな客層を広げた。

 配給元の東京テアトルによると、今月1日までに390館で上映され、約205万人を動員。昨年の「キネマ旬報」が選ぶ日本映画ベスト・テンで1位に選ばれた。国際的な評価も高く、仏・アヌシー国際アニメーション映画祭では審査員賞を受賞した。

 年末年始は東京の早稲田松竹で公開。足かけ3年のロングラン上映について、真木さんは「確かに地味な作品だが何度見ても新しい発見があり、その度に他の人と感想を共有したくなる」と分析。「皆さんが担いでくれた“みこし”が全国に広がった。こんなに幸せな映画はない」と述べた。

 今後は上映時間を30分増やしたロング版の公開も見込む。詳細は未定だが、遊郭で働くリンさんとすずの友情など、まだ映像化されていない原作のエピソードを盛り込む予定だ。真木さんは「今の作品とはずいぶん違った趣になると思う。新たなすずさんの世界の魅力を期待してほしい」と語った。(本間英士)

最終更新:12/7(木) 9:28
産経新聞