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手術失敗も「放映を」=1年後、確認できた奇跡―上山博康氏

12/7(木) 11:03配信

時事通信

 上山博康氏の手術は、テレビ番組のスーパードクターの特集で何度となく紹介された。そんな中、テレビ局が取材したものの、すぐに放映されずに一時「お蔵入り」になった症例があった。手術が予想通りの結果にならず、術後、半身まひが残ってしまったケースだ。
 「テレビは僕をスーパードクターとして取り上げるのに、失敗例を出したら都合が悪いと思ったのかもしれない。僕はあの症例を出さないなら、今後一切、テレビには出ないと言いました」
 患者は15歳の女子高校生。学校でふざけて頭を打った時、念のために受けた検査で30ミリの巨大脳動脈瘤(りゅう)が見つかった。破裂すれば命はない。リスクが高く手術も受けられない。学校にも行けず戦々恐々とする中で、父親が上山氏を見つけ、旭川赤十字病院で手術を受けることになった。
 「動脈瘤が破れたら大出血を起こして確実に死ぬ。何があっても譲れない戦いになる。脳外科医としてのこれまでの経験すべてをかけて頑張ります、と言って手術しました」
 通常、脳動脈瘤の手術は動脈瘤の根元にクリップをかけて、血流を遮断するのだが、このケースでは動脈瘤が大きすぎて、血流を遮断すると、脳梗塞を起こす危険性があった。そこで、上山氏は脳の別の部位にある血流の豊富な血管を採取し、それでバイパスを作って血流を確保してから動脈瘤への血流を遮断する方法を取った。
 しかし実際に開頭してみると、脳動脈瘤から細い血管が派生していることが分かった。この血流が途絶えると、右半身にまひが出る可能性がある。動脈瘤への血流を遮断したことで、脳波はフラットに。上山氏は、この細い血管にもバイパス手術を行い、0.2ミリの血管を必死につないだ。血流が途絶えても大丈夫な時間は20分。しかし、1時間が経過してしまった。その結果、少女には右半身にまひが出てしまった。

カメラにピースサイン

 上山氏は手術後、「血液が行かなかった時間が長くて、右半身にまひが出てしまった。本当におわびするしかありません。すみませんでした」と謝った。でも、血管は必死につないだ。リハビリで何とか機能が回復してくれればと祈った。
 歩いて入院した少女が車椅子で退院した。手術で動脈瘤がなくなったことで、いつ死ぬかもしれないという恐怖からは救われたのだから、手術が無駄だったわけではない。学校にも行けるようになった。しかし、半身まひの体では自転車に乗ることができない。少女は上山氏の言葉通り、懸命にリハビリに励んだ。
 「父親は娘に後遺症が残る可能性も覚悟した上で、『今後の人生でめげてしまうこともあるかもしれない。テレビに出ることが、その時の励みになれば』という深い気持ちで収録を承諾してくれた。結果が悪かったからといって、その思いを踏みにじることはできない」
 上山氏の訴えに動かされたテレビ局スタッフは1年後、再び少女のもとを訪れた。すると、自転車をスイスイとこぎ、まひが残っていた右手でジャンケンができるまで回復していた。
 少女はテレビカメラに向かって「上山先生、ありがとう」と、右手でピースサインを送った。そして一連の経緯はこの後、放映された。
 上山氏がテレビでの放映を訴え続けなければ、少女のリハビリの成果を知ることはなかった。同氏の絶対に諦めない不屈の精神と、主治医を信じて頑張ってきた家族の思いがつながった。(ジャーナリスト・中山あゆみ)

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最終更新:12/7(木) 15:59
時事通信