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【COP23と日本の課題(下)】 戦術はあっても戦略はないエネルギー国家計画

2017/12/7(木) 14:00配信

ニュースソクラ

石炭火力は全廃せよ

 ドイツで開かれたCOP23(第23回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で、日本は「温暖化対策に消極的な国」の烙印を押され、パリ協定離脱を表明したアメリカと並んで批判の対象になってしまった。

 環境に熱心なEU(欧州連合)や世界の環境NGOから「消極的」と批判されるようになった最大の理由は国家百年の計というか、将来の日本の望ましい国家像をしっかり描き、それを実現させるための構想力と実行力が今の政府に欠落しているためである。

 将来の望ましい姿を想定し、それに近づける政策手段として、バックキャステング手法がある。将来の望ましい姿を描き、そこから現在を振り返り、望ましい姿に近づけるために古くなった制度や法律を思い切って変更、廃止する政策手法である。現行の制度や法律の変更、廃止は既得権益グループから激しい抵抗を受けるだろう。だがそれを押し切ることによって望ましい将来への道が開けてくる。強い政治力が求められる。

 現状の日本は縦割り行政が支配している。だが地球温暖化対策のように50年先、100年先を視野に入れた大きな国家プロジェクトは、縦割り行政を乗り越え、政治的には超党派で、国民が一致団結し、英知を結集して取り組まなければならない。今の政治にはそれができない。

 その結果、長期的、全体的な展望に裏付けられた戦略が描けず、短期かつ目先の利害を重視、調整するだけの戦術が一人歩きし、結果として時代の大きな変化に乗り遅れてしまうことになる。

 戦術だけの政策手段としてフォアキャスティング手法がある。現状を抜本的に変えることを避け、過去の趨勢を微調整して将来に引き延ばす手法である。産業構造やエネルギー事情が大きな変化に直面した場合、フォアキャスティング手法は将来の方向を大きく狂わせる恐れがある。

 実は京都議定書のGHG(温室効果ガス)6%削減(1990年比)の時の日本の取り組みがその典型だった。本来力を入れて本格的に取り組まなくてはならない国内のGHG削減のための措置は産業界に打撃を与えるとして導入されなかった。その結果、目標期限の12年度には、国内のGHG排出量は、90年比1.4%も増えてしまった。これを埋めたのが森林などの吸収源による削減量3.9%、他国で削減した排出削減量(クレジット)5.9%の三つを合わせると、90年比8.4%減になる。これで「6%削減の目標を達成した」、と政府は胸を張った。このからくりを見抜いた一部の国や環境NGOからは「日本の6%削減目標は実際には達成できなかった」と批判が投げかけられた。

 今の日本のエネルギー政策も戦術論だけで動き、袋小路にはまり込んでしまった。戦日本のエネルギー政策は原発と石炭火力を2本柱にしてきた。だが東日本大震災で深刻な原発事故が起こった。近い将来大地震が起こる可能性が強まっている日本が原発に依存することは危険が大き過ぎる。一方、温暖化対策として石炭火力の削減が急務になっている。戦後日本が推進してきたエネルギー政策の2本柱は残念だが変更せざるを得ない。脱原発、脱石炭、再生可能エネルギー、水素エネルギー、走行時にCO2を排出しない電気自動車、燃料自動車の急速な普及など時代の要請に沿った新しいエネルギー政策の国家百年の計を早急に作成、実行することが求められる。

 日本は2050年にGHGの排出量を現在より50%削減する目標を世界に公約している。その過程として30年度の削減目標を掲げているが、30年から50年までのロードマップはまだ描けていない。実はこの過程で避けて通れないのは石炭火力の縮小、廃止である。だが政府は逆に石炭火力の新増設に力を入れている。

 その代わりとして、政府が力を入れている一つが2国間クレジット制度の導入だ。途上国に低炭素技術の提供などでGHGを削減した場合、その一部を国内の削減目標に組み込める制度だ。京都議定書の時、他国から排出量(クレジット)を購入したのと同じ方法だ。国内の削減努力を脇において、外国頼みの削減は小幅な6%削減では効果があったが、50%削減という大幅な場合は限界がある。

 政府が期待しているもう一つの削減方法は、カーボンプライシングだ。CO2(二酸化炭素)などGHGの排出量に価格をつけ、排出量が多ければ負担が増えるため、

 企業などは排出を減らす努力をする。具体的な手段としては化石燃料の使用に応じて課税する炭素税、企業などに排出できる枠を決めてその過不足分を売買する排出量取引制度などがある。経済的なインセンティブを活用する方法で一定の効果が期待できる。

 だがこの方法も戦術論が先行し戦略論が欠落している。戦略論から言えば、まず何年までに石炭火力を全廃するという政府の国家目標がはっきり打ち出されなければならない。その実現のための戦術の一つとして、カーボンプライシングを導入するという位置づけが必要だ。戦術あって戦略なしの国家百年の計を改めない限り、日本の温暖化対策は前に一歩も進めなくなるだろう。

■三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。

最終更新:2017/12/7(木) 14:00
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