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シャープ反転攻勢、新生AQUOSの2つの「戦略の大転換」とは

12/8(金) 11:00配信

Impress Watch

 シャープが2017年の冬モデルとして各キャリア向けに開発した「AQUOS R compact」と「AQUOS sense」。これらは、7月に発売された「AQUOS R」が成功する中で展開される、注目の製品群だ。

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 7月発売の「AQUOS R」は、iPhoneやGalaxy、Xperiaシリーズのように、各キャリアに対し統一された仕様のモデルを提供する方針に舵を切った、シャープとして戦略の大転換を行ったモデル。同時に、OSのバージョンアップを発売から2年間に渡って提供することをメーカーとして約束したことでも注目を集めた。実際に12月に入り、Android 8.0にバージョンアップするソフトウェア更新の提供が順次開始されている。

 冬モデルの「AQUOS R compact」は、auとソフトバンクから12月に発売されるほか、普及価格帯の「AQUOS sense」はNTTドコモとauから11月上旬に発売されている。MVNO向けの「AQUOS sense lite」は12月上旬に発売される。また本稿の取材後には、Y!mobileブランドからAndroid Oneの「S3」も発表され、2018年1月中旬以降に発売される予定になっている。

 本稿では、製品の詳細な仕様などは既存のニュース記事に譲り、インタビュー取材を通して、シャープ開発陣が考える戦略や、外部からは見えづらいシャープ社内の大きな方針転換に迫る。

■AQUOS Rの成功、AQUOSは反転攻勢へ

 シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部長の小林繁氏は、戦略の大転換後の第1弾となる「AQUOS R」が好評を得ていることに、勇気づけられたと語る。「それまでシェアを落としていたのは事実です。ただ、しっかりとしたものを作ればお客様に喜んでもらえると確信していました。AQUOS Rは3カ月間で前年度比1.5倍ぐらいの出荷になり、勇気になりました」。一方、今回発表した「AQUOS R compact」によって「AQUOS R」は終息するのではなく、フラッグシップモデルとして販売が継続されることも強調する。実際にソフトバンクからは「AQUOS R」の追加色もラインナップされ、この中でもカッパーブラックは人気になっているという。

 「AQUOS R」のAndroid 8.0へのOSバージョンアップは12月から順次開始されており、「ただのバージョンアップではなく、最新の秋冬モデルに搭載した新機能のうち、ハードウェアに依存しない機能は、AQUOS Rにも提供しようと考えています」(小林氏)という。これまでOSのバージョンアップの提供は、メーカーにとっては“メンテナンス”に近い考え方だったというが、「これからは、OSのバージョンアップ自体を商品とみなす」(小林氏)とのことで、開発側も考え方を大きく変えている。

 そうした、さまざまな面で変革された体制で提供される秋冬モデルは、「反転攻勢」のモデルであると位置付ける。小林氏は「AQUOS Rの成功は非常に勇気になりました。元々のAQUOSユーザーも、乗り換えで非常に高い満足度を得ています。我々がこだわったところは、しっかりとお客様に伝わったと自負しています。その結果、社内でも新しいことに取り組みやすくなった。今回の(AQUOS R compactに採用された)フリーフォームディスプレイも、必ずしも、手放しで喜んでいるお客様ばかりではないことは理解しています。それでも、新しいユーザー体験を提供し続けるのはシャープのDNAでもある。AQUOS Rの成功が、社内の空気を一変させました。AQUOS senseについても、シリーズを立ち上げたことに大きな意味がある。このゾーンでもここまでやるぞ、という決意は、攻めの姿勢がないとできませんでした」と語り、攻めの姿勢の背景には「AQUOS R」の成功があることを語っている。

■新生「AQUOS」を形作る要素

 ここからはまず、7月に発売された「AQUOS R」を含む、今後のAQUOSシリーズ全体に関わる戦略や具体的な注力ポイントについて、小林氏の解説とともにお伝えしていく。

OSバージョンアップ

 「AQUOS R」以降の商品作りで、端末と同様、大きな変革が行われたのがソフトウェアの開発体制だ。

 「AQUOSという商品を、プラットフォーム的に捉えようと考えています。長い間事業をしているので、既存のお客様もたくさんいます。AQUOSのブランドを根付かせるためにも、AQUOSの新機能や特徴を、できるだけすべての端末に届けたい。ソフトウェアであれば、可能なら過去の機種にも提供したい。AQUOSをプラットフォーム化したい、というものです」(小林氏)。

 「スマートフォンは、搭載されるアプリで差異化した時代もありましたが、今はアプリのエコシステムも確立され、お客様が好きなアプリをダウンロードして使うプラットフォームになっています。メーカーとしての役務は、そのプラットフォームをいかに高性能に、使いやすく、高画質に、いい品位で提供できるかで、勝負のポイントになっています。スマートフォンの表示やカメラ性能、パフォーマンスが優れている状況を作り出す、それを統一的にAQUOS全体に広げていく。それが大きな戦略になっています」(小林氏)。

 OSバージョンアップは、前述のように「AQUOS R」発表時に「2年間のバージョンアップの提供を約束する」と表明しており、ほかのモデルについても同様の方針だ。その「AQUOS R」は、12月から順次にOSバージョンアップが提供される。その後、「AQUOS sense」についても、Android 8.0のバージョンアップが予定されている。またそれ以前の機種も、Android 8.0へのバージョンアップは検討されているという。

 「(AQUOSという)プラットフォームを販売しているという認識に立ち、プラットフォームを維持するためには、単純にOSをバージョンアップするだけではなく、AQUOSがもたらす良い体験を、今までのAQUOSを買ったお客様にも届けていきたい、という考え方です」と、小林氏はOSバージョンアップをAQUOSというプラットフォームの維持に欠かせないという位置づけで取り組んでいることを語っている。

 これには、新機能を定常的に届けるという意味合いでもあり、たとえば「AQUOS R」の発売後に登場した機種に搭載の新機能なども、OSバージョンアップのタイミングで(ハードウェア的に可能であれば)「AQUOS R」にも反映される。直近なら、「AQUOS R compact」に搭載される(ソフトウェアの)新機能は、すべて「AQUOS R」にも追加されるなど、最新機種の特徴を取り込んでいくという。

 また今後発表・発売される機種についても、同じ考え方が適用されるという。小林氏は「我々の戦略上は、大転換です」としたほか、機種ごとに使い勝手が別れるのではなく、OSバージョンアップを繰り返すことで一本にまとまっていき、「シャープが考えるOreo(Android 8.0)におけるベストを提供する」としている。

ディスプレイ色再現性

 AQUOS全体では、ディスプレイの色再現性にしっかりと取り組み、“AQUOSは色が良い”という認識を確立させていくのも、重要な方針になっている。「従来からやっていたことですが、こだわりは尋常ではないので、改めて打ち出していこうとなりました。発表会でも触れたのですが、ディスプレイは製造時に、非常に僅かな個体差で発色が変わりバラつきが生まれます。それを補正して提供する仕組みが、AQUSO R compactやAQUOS senseなどのモデルに関係なく搭載されています。これは修理などでディスプレイを交換しても適用されます」(小林氏)とのことで、一ユーザーでは気づきにくい個体差についても踏み込んだ取り組みが行われている。より具体的には、「ディスプレイの製造時に測定したデータと、組み合わせる端末側で協調して補正します」(シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 システム開発部 課長の前田健次氏)という。「ディスプレイの生産工程とシステム開発を同じ会社がやっているからできるメリットで、シャープならではだと思います」(小林氏)。

カメラの画質エンジン

 カメラについては、秋冬モデルにおいて「画質エンジン」の刷新が挙げられている。小林氏は、「(秋冬モデルで)カメラのハードウェアの進化は、正直言ってそれほどありません。どちらかというとソフトウェアで、画質調整の部分です」と、率直に語る。「カメラは以前と違って、(画質の)かなりの部分を画質調整が占めるようになっています。ホワイトバランスや自動露出(AE)の部分をゼロベースで見直して、かなり、実際に忠実な写真として残せるようになりました。ただ、どうしても“カタログ映え”はしないんですね。画質エンジンを変えましたと書いても、ふ~んという程度だと思いますが、開発側としては非常に大変でした(笑)。AQUOS senseなどは、同じカメラデバイスを使っている以前のモデルがあるので、比較すると、画質エンジンの変更で、画質が非常に向上したことが分かりやすくなっています」(小林氏)。

インテリジェントチャージ

 AQUOS全体としてはほかに、インテリジェントチャージとして、急速充電と電池の劣化抑止にも取り組んでいる。「AQUOS R compact」「AQUOS sense」はどちらも、Quick Charge 3.0をサポートしている。

 「我々の調査では、お客様の関心が、買い替え周期が長くなり長期利用されるにしたがって、変わってきていることが分かっています。かつて関心が高かったのは“電池持ち”で、次が高速充電でしたが、昨今、急速に関心が高まっているのが電池の寿命、つまり電池の劣化に対する懸念です。インテリジェントチャージはこうした顕在化した懸念に対応しながら、高速充電に対応したのが大きい点です」(小林氏)。

 「電池寿命と高速充電は相性があまり良くなく、高速充電は電池を“いじめる”形になります。具体的には、高速充電は電池の温度が上がりやすく、温度が上がった状態で充電を繰り返すことや、満充電に近い状態でそれを行うことは、非常に電池に良くない。それを賢く制御して電池寿命を伸ばすというのがインテリジェントチャージです」(小林氏)。

 「何も対策をしなかった場合、12カ月後には、電池の利用できる容量は、(満充電でも出荷時の)80%ぐらいになります。20%劣化するということです。インテリジェントチャージを使うと、大体、12カ月後に90%ぐらいの容量を維持できます。10%の劣化ですから、劣化を半減しているという言い方もできます。開発している時期の関係で、評価期間は12カ月ぐらいが限界ですが、ひょっとしたら、2年後の結果は(劣化抑制の程度が)もっと優秀かもしれません」(小林氏)。

 また小林氏は、「実は、これはAQUOS Rにも入っている機能です。電池寿命に対する取り組みは、AQUOS全体で取り組んでいきたいですね」、AQUOS Rからすでに搭載されている機能であることも明らかにしている。

AIoT、エモパー

 シャープが進める「AIoT」(AI+IoT)の取り組みについては、発表会などでも繰り返し触れられているように、「シャープがスマートフォンを手がける意義」という文脈で語られ、年間何百万台と出荷されるスマートフォンは、AIoTのキーデバイスという位置付けだ。

 具体的な形でスマートフォンに搭載されているエモパーについては、「コンテンツが非常に増えたのが大きいですね」と、小林氏は最近の進化に自信をみせる。「ライブドアニュースに対応したことで、以前は堅めのニュースが多かったところが、非常に喋る内容も豊かになり、よりパーソナライズしやすくなりました」(小林氏)。

 小林氏はスマートスピーカーについても触れ「最近発売されているAIスピーカー(スマートスピーカー)は、安定して便利だと言えるのは天気とニュースぐらいという声も多く、それって、エモパーでもできますよね。エモパーなら聞かなくても喋ってくれますが(笑)。もちろん、AIスピーカーは面白いセグメントの製品で、エモパーとしても注目しています。聞くだけで教えてくれる、ゆるやかな自動のAIというのは、けっこう、ポジションがあるなと確信しています」と、エモパーとスマートスピーカーの連携の可能性についても示唆している。

■真逆の開発プロセスになった「AQUOS R compact」

 ディスプレイの形状・仕様が注目を集める「AQUOS R compact」は、コンパクトなサイズとデザインで、倍速駆動とフリーフォームディスプレイを採用し、「デザイン革新を起こす」というのが、開発側にとっての大きなテーマだったとしている。

 ターゲットユーザーは日本固有という“プレミアムコンパクト”を求める層で、「コミュニケーション志向、情報感度、使いこなし度が高いユーザー。リュックやバッグの中ではなく、ポケットに入れて、サッと出してサッと使いたい方々」(小林氏)としている。

 今回の取材では、開発陣から開発に至った背景やこだわりの要素を伺っている。

 シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部の中野伶香氏は、「スマートフォンが大画面化する中であえてコンパクトな機種を選ばれる人は、何か理由があると考えました。調査をした結果、小さくて、ポケットから取り出してすぐ使えるということから、スマートフォンと接触頻度が高いユーザー、20~40代でスマートフォンを使いこなし、SNSやニュースを頻繁にチェックするユーザー像が当てはまると考えました。そこで求められているのは、片手で持てるサイズ・形状で、使いやすいことだと思いました」と、「AQUOS R compact」がしっかりとスマートフォンを使いこなしているユーザーに向けたものとする。

 「画面は、比較的大画面にできる(狭額縁液晶パネルの)「EDGEST」(エッジスト)を考えていましたが、以前のモデルでお客様から『(角ばっていて)長時間使っていると手が痛い』とか、『インカメラが下にあるので自撮りで不便』などの声をいただいており、コンパクトモデルでは手に持ったフィット感やインカメラの使い勝手なども課題だと思っていました」(中野氏)。

 「フリーフォームディスプレイは、液晶ディスプレイを任意の形にできるシャープの技術ですが、これにより、“端末のデザインを決めてから液晶を作る”という開発にできたのが、大きな特徴です。インカメラも、上側にして、ディスプレイの中に埋め込む形が実現できました」と、中野氏は開発の順番が全く異なっていたことや、インカメラの配置を改善できたことを明らかにする。

 シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 参事の楠田晃嗣氏も、「今までなら、ディスプレイの仕様を決めて、カメラの仕様を決めて、その図面をデザイン側に渡して、『このディスプレイとカメラが収まるようにデザインしてね』と依頼する形でした。一方で、狭額縁化が進み、これ以上デザインしようがないという部分も出てきていました。コンパクトユーザーは、形状や持った感触に非常にこだわりが強いということもあり、コンパクトで良いものを作ろうと思ったら、形から入らないとダメじゃないかとなり、理想の形をまずデザインしてもらいました。その後に、『この形に入るディスプレイを作って』とお願いする、今までの順番を完全に逆転することになりました。その結果、今回のEDGEST fitが誕生しました」と、開発順序が全く異なっていたことを語っている。

 ディスプレイ関連の開発に携わる前田氏は、「特にこだわったのはサイズです。小さい筐体に大きな液晶を積むわけですが、そのままだと、以前手がけたフレームレス液晶のように、角張った形になります。そこにシャープのフリーフォームディスプレイの技術を使ったのがブレイクスルーです。角のアールは(液晶パネルとして)今までにない形を実現しました」と、数年前から展示会などで披露されていたフリーフォームディスプレイの技術を投入したことが大きいと語る。

 「もうひとつは、インカメラ部分の切り欠き(ノッチ)です。インカメラのカメラモジュールが突き抜けるノッチのぎりぎりまで液晶を搭載できるよう、カメラモジュールを小型化したり液晶パネル側を作り直したりといった調整を、何度も繰り返しました。これまでならパッパッと決まる部分ですが、仕様変更を10回近く行ったと思います」(前田氏)。

 「カメラモジュールも、ノッチをなるべく小さくできるよう先端を円筒形にして、円筒をなるべく小さくするよう作り直しています。シャープはカメラモジュールのメーカーでもあるので、シャープの資源を全面的につぎ込んで作っています」(小林氏)。

 「この開発プロセスだと、デバイス側の仕様決定が後になるので、ギリギリまで技術陣にはやってもらいました。ディスプレイやカメラも作っているシャープだからできることです。社内なら、仕様変更もごめんなさいで済みますから(笑)」(楠田氏)と、これまでとは全く異なる開発プロセスの中で試行錯誤しながら開発していた様子を語っている。

□ディスプレイの中にあるインカメラ、慣れる?

 楠田氏はさらに、「AQUOS R compact」の見た目の上でも特徴的になっている、ディスプレイの中に存在しているインカメラについて、社内でも相当に議論・検討してきたことを語る。

 「企画検討している段階は、このような切り欠きのあるディスプレイは世に存在しませんでしたし、社内でも賛否両論でした。『これ、使い勝手として、いいの? そりゃダメでしょう、表示が欠けるんですよ?』という意見も多かったですね」と、当初から賛否両論で批判的な意見も多かったとする。

 「そこで、お客様の立場になってみようということで、インカメラの切り欠きに相当する部分を黒い紙で作り、自分達が使っているスマートフォンに貼り付けて、その状態で何カ月も過ごすということを行いました。途中からはソフト開発陣に頼んで、角のアールの再現と、切り欠きができる予定の部分を描画しないようにする特殊なアプリも作ってもらいました。ちょうど1年ぐらい前でしょうか。晩秋ごろから正月明けまでみんなで使い倒して、試していました」(楠田氏)。

 「結果、どうだったかというと、『意外と、大丈夫じゃない?』というものでした。(AQUOS R compact発表後の)今の市場に出ている意見は、我々が企画当初に感じた不安や気持ち悪さと同じような反応だと思います。実際に使ってみると、イケる、と開発陣の中では確信がありましたので、ソフトウェアの開発を進めました。

 中野氏は、インカメラとコンパクトモデルは相性が良いとも指摘する。集合写真をセルフィーで撮影するとき、サッと端末を取り出せる人は「ありがたい存在」。さらに、インカメラがディスプレイの内部に配置されていることで、従来なら起こりがちな“セルフィー撮影時にファインダー画面を見ており、視線がズレる”という問題を解消しやすいという。実際に「AQUOS R compact」では、セルフィー時に画面に波紋のような表示が出て、視線をカメラのレンズ部分に誘導するようになっている。

□120Hz駆動を継承、タッチパネル、低発熱への取り組み

 フリーフォームディスプレイの技術は、シャープのスマートフォンに初めて搭載されることになったが、これまでのAQUOSで実現してきたなめらかな描画機能は継承されている。「120Hzの倍速駆動は一切妥協せずに取り入れようと考え、取り組みました。フリーフォームディスプレイでもフルHD(2032×1080ドット、17:9)に対応し、縦に長くなったので配線数が増え駆動周波数を上げるための課題も多かったのですが、しっかりと対応しました」(楠田氏)。

 「実は、フリーフォームディスプレイになったことで、タッチパネルも“フリーフォーム化”しています。カメラの前にタッチパネルのセンサーを配置するのはよくないということで、技術的にはかなりチャレンジングなことをしています。タッチパネルのセンサーの配置やアルゴリズムを含めて調整し、実際には何の違和感もなく使えるようになっています」(楠田氏)。

 「あとはAQUOS Rでも評価の高かった発熱への取り組みです。AQUOS Rとの大きな違いは、ボディサイズが違うということです。面積・容積の面では格段に小さくなっているので、どうしても内部に熱が残りやすいという物理的・構造的な問題があります。そこでAQUOS R compactでは、極力、CPUの熱を周りに広くまんべんなく拡散させる設計思想に変えています。基板の構造もAQUOS Rとは全く変えています。AQUOS Rは、上側に基板が集中し、金属板で放熱する仕組みで、お客様が持つ部分は熱くなりにくい設計でした。AQUOS R compactは、基板の面積を全体に広げて、その裏側一面に金属板を配置し、フレームまで連続させることで、熱が基板、金属板、フレームと、それぞれ均一に広がりながら逃げていく構造にしています。手に持つ部分は少し温かくなりますが、パフォーマンスの持続性はAQUOS Rとくらべても遜色はありません」(楠田氏)。

■「AQUOS sense」、普及価格帯の「定番」を目指す新シリーズ

 「AQUOS sense」について小林氏は「このゾーン(普及価格帯)のモデルでもここまでできるぞという、“パッケージングの妙”を突き詰めたモデル」としている。「商品としてスタンダードラインなので、ぶっ飛んだ要素があるわけではないです。一番優れているのは何かと問われれば、パッケージングという一言に尽きます。このゾーンにシリーズを立ち上げたのが最も大きな取り組みです」(小林氏)という。

 「スタンダードラインの商品は地味な存在になりがちですが、我々は、ブランドはハイエンドモデルだけで作られるとは考えていません。社内で合言葉になっていたのは、ファッション業界におけるユニクロのような存在を目指したいということです。品質・品位が高く、安心して選べる。性能が良く技術的にも優れている。そういうシリーズを作っていきたいという想いです」(小林氏)と、シリーズの立ち上げ自体に大きな意味が背景があるとし、「ターゲットは、年齢や性別では語れない幅広いユーザー層で、どなたでも安心して選んでもらえるシリーズを目指しました」(小林氏)とした。

□本当に必要な“普通”を磨き上げていく

 「AQUOS sense」の立ち上げを主導した、シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 係長の清水寛幸氏からは、なぜ新しいシリーズを作ったのかや、こだわったポイント、今後目指す方向性について語られた。

 「スマートフォンの最先端モデルはいらないけれど、安かろう悪かろうではない、ちゃんとしたものを使いたい、というニーズは間違いなくあり、そのニーズは現状では満たされていないと考えました。シニア層でも若年層でもこうしたニーズは増えています。そこにしっかりと応える商品を作っていきたいと考えました」(清水氏)。

 「そうした中、商品コンセプトは、『スマートフォンに本当に必要なものだけを、磨き抜かれた形で提供する』と決めました。普通と言えば普通かもしれませんが、本当に必要なものは何か、それをどうしたらこの価格帯で磨き込んで、いいものにできるのか。難しいですが、このコンセプトで頑張ってきました」(清水氏)。

 「それを達成するためのポイントが、サクサク動くこと、画面がすごく綺麗なこと、写真も綺麗なこと、使いやすくて心地よいデザイン、安心して長く使えること、の5つです」と、清水氏は具体的な5つの要素を磨き上げてきたことを振り返る。特にサクサク動く点については最も重要なポイントとして、メモリー(RAM)を大きくするなどの仕様や、AQUOS Rの開発で培ったノウハウを投入し、徹底的にチューニングしたという。

 シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 係長の西本望氏は、「AQUOS Rでは“ヌルサク”として訴求していましたが、たとえばBMWなど、欧州の高級自動車メーカーなら、どのグレードのモデルに乗っても、“そのメーカーらしさ”が継承されています。チップセットなどの絶対的なスペックは違っても、触った瞬間に『これはAQUOSだね』と、そう感じてもらえるようなチューニングを行いました。それがAQUOSのブランドイメージの一端にもなるのではないかと思い、取り組んできました」(西本氏)と、サクサク動くことは、ブランドを特徴づけるものとして位置付けていることを語っている。

 「快適なスクロール感は、本当に3万円台の機種? という仕上がりです」と清水氏は自信を見せる。小林氏も「Snapdragon 430の機種でここまでできたのは胸を張れるかなと思います」とし、ハイエンドモデルとは違ってチューニングできる要素が少ない中で苦労してきたことを語る。

 一方で、小林氏は、ユーザーが“パフォーマンスが落ちた”と感じる瞬間は、ある程度限られるとも指摘する。「スクロールでもたついた時、アプリを立ち上げる瞬間、それとアプリからアプリに切り替わった時です。この3つに集中して取り組んできました。結果的に、この価格帯の製品では考えられないぐらい気持ちよく動作します」と、チューニングする対象も取捨選択して取り組んできた様子を語っている。

□フルHDのIGZOを採用、カメラは画質エンジンだけで品質を刷新

 ディスプレイについては、IGZO液晶ディスプレイで解像度はフルHDと、妥協の少ない仕様。高色域や画質調整技術も投入し、AQUOS=綺麗というイメージを損なわないようにしている。「フルHDを採用したのは、一歩抜きん出たところかなと思います。ディスプレイも製造しているシャープなので、トレンドには敏感ですし、このゾーンのモデルにもフルHDは必要になると感じて投入しました」と、魅力や競争力の面でも必要だったとする。

 前田氏も、「基本をしっかりと、というコンセプトで、先程話題になったディスプレイパネルの個体調整技術も導入しています。“AQUOSの画質”について、一切の妥協はしていません」と、画質につながる技術には妥協せず取り組んできた様子を語っている。

 カメラの画質についても、カメラモジュールは1年前のモデルに採用したものと共通ながら、画質エンジンの刷新により高い品質を実現した。「安いモデルだから仕方がないではなく、こだわるべき所としてカメラも譲れないと考えました。ソフトウェアの画質エンジンを刷新して、パッと見では、クッキリと鮮やかになった印象だと思います。ホワイトバランスと露出を最適に判定できるようにして、本当の色を残せるようになりました」(清水氏)。

 長く使えること、という面では、2年以上使う人も想定して、OSやセキュリティなどのサポートも充実させるべきという考えで、OSのバージョンアップを提供していく方針。「これまでのスタンダードラインの商品でもOSバージョンアップは提供していますが、それとの違いは、製品の発売時にOSのバージョンアップを明言している点です。それにより、お客様には安心して選んでもらいたいという想いからです」(清水氏)。

 「特殊なことはやっていませんし、“飛び道具”もありません。本当に必要なものを磨き上げるために、突き詰めてきた結果が、AQUOS senseです」と、清水氏は普通を追求した端末であることを語っている。

 その今後の展開については、「スタンダードゾーンの定番のスマホにしたいというのがAQUOS senseの狙いです。これからどんどんユーザーが拡大するゾーンと考えているので、次の買い替え候補として『AQUOS senseを選んでおけば間違いない』と思ってもらえるようなブランドにしたい。その時々で、必要なものは何か? と考えながら、senseを育てていきたいですね」と、定番で安心できるブランドという立ち位置を狙っていくとしている。

 清水氏からは最後に、sense(感覚)という名前の由来についても教えていただいた。「スペック以上に使っていて心地いい、感覚的に使いやすいものにしていきたいという想いから、AQUOS senseという名前を付けました」(清水氏)。

ケータイ Watch,太田 亮三

最終更新:12/8(金) 19:22
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