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【論調比較】税制改正 日経が高所得サラリーマン課税に慎重論

2017/12/8(金) 15:30配信

ニュースソクラ

再分配強化には全紙が原則賛成だが・・・

 2018年度税制改正の議論が佳境に差し掛かっている。主要な舞台となる自民党税制調査会の宮沢洋一会長は最優先の検討項目として「基礎控除、給与所得控除などを含めた所得税の改革」を挙げており、働き方改革の方向に合わせた見直しと高額所得者への増税という大きな方向性が固まっている。しかし、残された課題も多い。

 今回の所得税改革の主対象は、基礎控除、給与所得控除。さらに、公的年金等控除も見直される見込みだ。

 控除は、収入から目的に応じて一定額を差し引くもので、税金の額は、残った「課税所得」に税率をかけて算出する。累進税率のため、所得が高くなるほど控除の恩恵も大きくなる面がある。

 課題になっているうち、基礎控除は収入のある人すべてに適用される。生活に必要な食費などをもとに設定されたのが始まりで、現在は38万円。給与所得控除はサラリーマンの必要経費ともいえ、給与をもらう会社員に適用され、収入に連動して増える。

 年収1000万円で220万円が天井で、それ以上年収が増えても控除は増えない。公的年金等控除は年金収入を対象にした控除で、年金額が多ければ多くの控除が受けられ、しかも、どんなに年金が多くても、他に収入があっても、青天井で控除を受けられる。

 改革では、基礎控除を引き上げ、給与所得控除を下げる。特に高収入の会社員の控除を減らして増税するのがポイントで、それで得られた財源を基礎控除引き上げに充てるということになる。

 具体的には、基礎控除を50万円程度に増額する一方、給与所得控除の上限の年収を800万~900万円に下げ、控除額の上限も180万~190万円程度まで引き下げる方向で議論されている。ただ、線引きについては与党内にも年収1000万円超を対象とすべきだといった声がある。

 高所得者については、基礎控除も年収が増えるにつれ減額し、年収2500万円以上の人はゼロにするといったことが検討されている。

 公的年金等控除は現在、65歳以上で年金収入が330万円以下の人の控除額が年120万円で、それより年金が多くなるほど控除額も増え、上限はない。会社から給与を同時に受け取っている人は、給与所得控除も二重で受けられる。これらを、年金収入が1000万円超や年金以外の収入が1000万円超の人について、控除に上限を設ける案が検討されている。

 自民党税調などは、これらの所得税改革で、差し引き1000億円程度の増税になるとみており、消費税率を10%に引き上げる時点での軽減税率導入による減収(6000億円)の一部の穴埋めに充てる方針だ。

 今回は、1年前の議論で専業主婦世帯を優遇して女性の社会参加を阻害していると指摘されて久しい配偶者控除の見直し(2018年から年収1000万円以上の世帯は廃止など)をした2017年度税制改正に続く所得税改革の第2段との位置づけだが、特に強調される「大義名分」が働き方の多様化への対応だ。

 党税調の議論に先立って11月20日の政府府税制調査会(首相の諮問機関)でまとまった中間報告は、民泊などシェアリングエコノミーの拡大を受け、フリーランスや副業をする人が増えていると指摘。「働き方の多様化を踏まえた所得計算のあり方について改めて検討が必要」とした。

 具体例としてよく出されるのが、企業に雇用されないが会社員のように働くシステムエンジニア。こうした「雇用的自営」(政府税調)が全自営業者の3割に達しするが、彼らは基礎控除だけ受け、給与所得控除は受けられない。「必要経費」は控除できるが、パソコン一つで仕事するようなケースを考えれば経費も限られる一方、給与所得控除はかなり手厚いから、会社員以外の人にとっては不公平感が強い。

 ただ、こうした安倍晋三政権が掲げる「働き方改革」に対応した前向きな改革というのは、やや「誇大宣伝」だ。

 実態としては、フリーランスを含め正規雇用でない人の増加で拡大する所得格差の是正が眼目だ。所得が高くなるほど恩恵が大きいので、給与所得控除を、高所得者を中心に圧縮し、基礎控除を増やすことで正社員でも所得の低い層や非正規は減税にするという税金の「再配分機能」の強化だ。

 こうした改革について、全国紙もさまざまに論じており、11月22日に党税調が最終的な詰めの議論を開始して以降、朝日、毎日、読売、日経が社説で取り上げているが、働き方改革はもちろん、「再配分機能」という税金の本来の役割を機能させる意味で、方向性としては妥当との受け止めが多い。

 毎日(11月23日、https://mainichi.jp/articles/20171123/ddm/005/070/100000c)が<時代に応じて税制を見直す作業は欠かせない。今回もその一環として位置づけられよう>、読売(11月24日)は<「会社員の夫と専業主婦」の世帯を念頭に置いた長年の仕組みを、家族や働き方の多様化を踏まえて見直す必要性は理解できる。……税の所得再分配機能を強化することによって、収入の格差を是正する狙いが窺える>、
 日経(11月23日、https://www.nikkei.com/article/DGXKZO23829000S7A121C1EA1000/)も<働き方にあわせた所得税改革の方向は理解できる。……余裕のある高齢者には負担を求めることは必要だ>と書き、
 3紙に遅れて取り上げた朝日(12月2日、http://www.asahi.com/articles/DA3S13255019.html)が、<社会の変化に対応し、給与所得控除の適用の有無で生じる不公平を小さくする。同時に所得税の再分配機能を強める。そうした方向性に異論はない。収入が極めて多いお年寄りを対象に、年金受給者向けの控除を減らして負担増を求める制度変更を含め、実現に向けてしっかり検討してほしい>と、ここまでの議論をまとめている。

 こうした評価に続けて、各紙、問題点や課題を指摘しているが、そのトーンには各紙の特徴が表れている。

 立場が分かりやすいのが日経で、<17年度改正でも配偶者控除見直しのために、所得の高い会社員世帯が増税になった。高所得者層への負担増が重くなり過ぎれば、経済の活力を損なう恐れがある>と指摘する。

 この姿勢は、社説だけでなく一般記事でも明確で、例えば11月29日朝刊で改革の政府原案の全容判明を書いた中で、サイド記事として「高所得会社員の負担増 与党内に慎重論も」と、3段見出しで報じている。

 読売社説も、<税収の確保ありきで高所得層に過度な負担を強いるようではバランスを失しよう。「取りやすいところから取る」という安易な発想は避けねばならない>とくぎを刺している。

 所得が高くなるにつれ基礎控除を徐々に減らすなどの案について、毎日は<ある程度の再分配効果は見込めるだろう。ただ、所得にかかわらず同じ額の税を減らし、相対的に低所得者に有利となる税額控除方式に切り替えた方がより効果的という指摘もある>、
 朝日も<再分配を重視するなら、所得にかかわらず一定額を差し引く「税額控除」に切り替えるなど、抜本的な見直しが不可欠だ>と、格差是正のため、所得控除から税額控除への切り替えによる所得再配分機能の強化をそろって求め、日経との「温度差」を見せている。

 また、今回は議論されていない配偶者控除について、朝日は<与党は昨年、配偶者控除の廃止を検討した。しかし、パートで働く配偶者が就業時間を増やしやすくすることを優先し、仕組みを温存・拡大した>ことを批判。毎日も<女性の社会進出を後押しするには(配偶者控除の)廃止は不可欠なはずだ>と指摘。

 なお、読売も配偶者控除に代わる「新たな夫婦の控除」の導入を、税額控除への転換などとともに、所得税の体系的見直しの検討課題として挙げている。

 いずれにせよ、残された課題が多いというのが共通認識で、<その場しのぎに終わらせず、抜本的な改革につなげていけるか。政府・与党は目指す社会の将来像を見据え、議論を進めなければならない>(朝日)といった主張は当然だ。

 日経は<税制や財政・社会保障改革を総合的に議論するには検討会議を乱立させるのではなく、経済財政諮問会議などを司令塔に、全体をみながら一体的に進めるべきだ>と書いた。

 社会保障全般の見直しを含め、旧民主党政権時代の民自公3党による「税と社会保障の一体改革」のような広範な議論が再び必要な時期に来ていると言えるだろう。

長谷川 量一 (ジャーナリスト)

最終更新:2017/12/8(金) 15:30
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