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何のため高精度な時計を開発するのか─正確な時間が招いた新しい世界と課題

2018/1/15(月) 10:00配信

THE PAGE

さらに300億年に1秒誤差レベルへ ── 東京大学が実現した「光格子時計」

 3000万年に1秒の精度でも大変なことなのだが、1980年代からは、振動数のより高い原子を応用する研究が盛んになり、単一イオンやストロンチウムの採用が試みられていた。

 本命視されていたのが単一イオン光原子時計で、絶対零度近くまで冷やした1つの荷電粒子を電極の間にトラップ(囲い込み)し、レーザー光を当てて遷移を促して共鳴するように光の周波数を調整する。だが、この方式は、周波数の計測には原子を1つずつ行うために、データを蓄積する時間がかかるのが欠点だった。

 そこで、東京大学大学院工学系研究科・香取秀俊教授は、多数のストロンチウムを光の格子に閉じ込めて時間を測定する「光格子時計」を考え出した。これによって、これまで最高精度だった泉型セシウム原子時計よりも、さらに3桁も高い300億年に1秒の誤差を実現する時計が現実になったのだ。時計の「精度」は、もはや地球時間に止まらず、宇宙の時間に広がった感がある。

 しかし、「光格子時計」は単一イオン光原子時計よりも桁違いに高い精度を得られるが、難題があり、時計には向いていないと考えられていた。



 難題の1つは、光格子時計では、原子のエネルギー準位を大きく変える作用(シュタルクシフト)が起こり、遷移周波数が大きくなりすぎて測定が難しいということだ。ところが香取教授は、原子の熱運動を小さくするために、レーザーを用いて原子の運動エネルギーを絶対零度に近い温度に冷却する「狭線幅レーザー冷却法」を開発して、課題をクリアした。

 もう1つの難題は、超高精度の測定を行うには、原子を静止させる必要があるが、100万個の原子を完全に静止させることは無理で、原子が動いてドップラー効果を引き起こし、測定の妨げになるということだ。さらに、閉じ込められることによって、原子のエネルギーが空間的に変化して、時間精度が低下することだった。

 ところが、香取教授は、原子を共鳴させるために当てるレーザー光の中に、閉じ込めることによる影響を相殺する振動数(「魔法波長」と呼ばれるようになった)があることを発見し、「狭線幅レーザー冷却法」と「魔法波長」を併用して、これらの難題を解決した。

 そのため、当初は学会でも冷ややかに見られていた香取教授の理論だったが、05年に試作機を発表すると、が然、注目が高まり、現在では欧米に少なくとも、20の研究チームが存在する。

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最終更新:2018/10/1(月) 21:58
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